04 恋人繋ぎ
願いの結果は虚しく、それから二日間、私はリアムに会うことは無かった。
「恋人なのに⋯⋯これじゃあ意味ないや」
もう何度目かになったリアムを待つ夜、私はぽつりと呟く。
思っていたよりも恨みがましい声色になってしまって、いけない、と頭を振った。
リアムからすれば無理矢理に恋人になったようなもの。私より騎士の仕事が大切なのは当たり前だ。
それでも時間が無い私は一日だって無駄にしたくなかった。
大丈夫。まだ歩けるし、感覚が完全に失くなった部分も無い。
自分の頬に触れて、肌の感触に安心した。ひんやりとした手の冷たさも感じている。
「今日も、来ないかな⋯⋯」
灯りの付いた騎士団の部屋と、時計を見て、私はため息を吐く。もう日付が変わってしまった。
そろそろ帰ろうか。
私は昨日、一昨日と同じように、帰り道を歩き出した。
「──なぜ毎日俺を待っている?」
後ろからかけられた声に、望みすぎて幻聴が聞こえたのかと思った。
恐る恐る振り返れば、いつもは自然に下りている前髪が不自然に流れたリアムがいる。
息は一つも乱れていないが、どうやら走ってきたらしい。
「お疲れ様です。ブランシュ卿。お仕事が忙しそうですね」
「⋯⋯なぜだと聞いている」
いつも以上に冷たいリアムの声は、暗い夜に静かに響いた。
「もちろん、会いたかったからです」
「⋯⋯俺は、舞踏会だけ恋人の振りをすれば良いと、君が待っているのを知っていて、放っておいたんだ」
「そうですか」
「⋯⋯俺は君に好かれるような人間じゃない」
最後は小さな呟きだ。私はリアムの言葉に驚きもしないし、待っていたことを後悔もしない。
私の一方的な恋心なのだ。当然のこと。
今日会いに来てくれただけで十分に嬉しかった。
私はリアムを安心させるように微笑みかける。
「⋯⋯甘いですね。ブランシュ卿。恋人の振りは一朝一夕で身に付くものじゃないんですよ。ご両親に会ったときにすぐに疑われてしまいます」
だから、と言おうとして、想像したことに私の頬はすぐに赤くなった。
目線を下に落として私の右手を差し出す。
「あ、あの。手、繋いでみませんか⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯」
沈黙が気まずい。
ちらり、と顔を上げてリアムを窺ってみる。
「え⋯⋯」
私は、ぽかん、と口を開けてしまった。
冷たいはずの氷の騎士の顔が赤くなっていたから。
「⋯⋯見ないでくれ」
ふい、と顔を反らしても髪の隙間から覗く耳は隠せない。
「ふ、ふふ。はは」
「⋯⋯なぜ笑う?」
「可愛くて」
全く訳が分からない、とでも言いたげなリアムを見て、私はくすくすと笑みを深めた。
氷の騎士、なんて嘘だ。こんなにも分かりやすい。
リアムの方が四つ年上だったが、動揺すると途端に幼く見えた。
差し出した手にそっとリアムの手が触れる。
騎士らしく、硬くなった手。私の手よりも一回り大きい。
「⋯⋯冷たいな」
温かさに包まれて、熱を交換するようだった。
するりと、リアムの指が絡む。
「⋯⋯っ」
これは、恋人繋ぎというやつでは。
言い出したのは私なのに、実際に感じると刺激が強い。
「これで良いか?」
「⋯⋯はい」
「すぐそこだが、このまま寮の部屋の前まで送ろう」
「⋯⋯はい」
壊れた魔法細工の人形のように同じ言葉しか返せない。心臓が飛び出てしまいそう。