第三話:布教活動
ある日、ぼろきれ姿の男が町の広場に立ち、神の教えを説いているのを見かけた。
ジョヴァンニだった。
その姿を見るのは久しぶりだ。
まだ宗教活動を続けていたのか。
もう実家に戻ったものと思っていた。
どうやら、しばらくは荒れ地にあった廃墟の聖堂の修復に専念していたが、ようやく教会が完成して、再び町に戻ってきたようだ。
ほとんどの人が無視したり、中にはものを投げつけたりして馬鹿にする奴もいた。
それでもかまわず、ジョヴァンニは一生懸命に神の教えを説いている。
こういう布教活動は、司祭以上の職を持っている人以外はやってはいけないと思うんだけど、かまわずジョヴァンニは声を張り上げている。
なにを偉そうに勝手に布教しているんだ。
町の教会の連中から罰せられても知らないぞと、あたしは思った。
布教の内容も、貧しく暮らすのが正しいとか金持ちたちから反発をくらいそうなことを言っている。
また、人間は皆兄弟であるとか言っている。そんな事は、そこら辺の司祭でも言っているが、自然までもが兄弟とか言い出した。
動物や植物を食べていかなきゃあたしら死んじゃうだろ。
その後も、ジョヴァンニやその仲間たちが布教活動をしているのを見かけることが度々あった。ジョヴァンニ以外の人も説教をしている時もあった。
今まで無視していた人たちのなかにも、少数だが、ジョヴァンニの声に耳を傾ける人も見られるようになった。
ジョヴァンニの隣でのそのそと不審な動きをしている大男をよく見る。
確かあたしらと同じ下層階級出身の奴だ。
頭が弱くて仕事が全くできない奴だった。
周りからいじめられて、いつの間にかいなくなった。
一緒にその光景を眺めていた同僚が言った。
「あの無能な馬鹿がいるじゃないか。どこに消えたかと思ったら、あの連中のとこに逃げ込んだのか」
「お互い無能な連中だから気が合うんじゃない」
「しかし、ぶくぶくと太った体に豪華な衣装を着て偉そうに説教している司教とかよりも、あのぼろきれを着た奴らのほうが聞いていて、なんだか真実味がわいてくるな」
ジョヴァンニたちにちょっと感心しているような同僚に対して、あたしはこう答えた。
「金持ちの暇つぶしよ。下らない」
「けど、お前、あのジョヴァンニって奴をよく見つめているじゃないか。何かあったのか。もしかしてあいつのこと好きなのかよ」
同僚にひやかされた。
「あんなぼろきれ着ている男を好きになるわけないじゃない。それにあの人は貴族なんだから、あたしとは全然住む世界が違うわよ。どうせ、貴族の遊びなんだからすぐ飽きるでしょ」
しかし、その後もジョヴァンニたちは布教活動を続け、自分たちよりも貧しい人々を助けたり、また重い病気で町から追放された病人たちの世話をしたりなど、その清貧で献身的な態度がいろんな人たちを中心に評判になっていった。