第二話:修行僧
数週間後。
ぼろきれをまとって、托鉢をしている修道僧を見かけた。
よく見ると、あの貴族の若者、ジョヴァンニだった。
あたしら下層階級の者たちよりひどい格好をしている。
家の財産を親に無断で貧しい人に配ったりとかして、勘当されたって話だ。
戦争に行く前は、けっこう仲間たちとろくでもない遊びをしたり、だらしない生活をしていたようだが、今は洞窟かどこかで瞑想したり、動物に向かって話しかけたりしているって噂もある。
金持ちの貴族がなんで修行僧なんかになったんだろう。
戦場でひどい目に遭って、頭がおかしくなったのだろうか。
少し心配になったが、修行僧になったとはいえ、相手は貴族だ。
あたしの方から近づける人ではない。
その後も、何度か見かけるようになった。
ただし、何人か仲間が出来たみたい。
四、五人で托鉢しながら歩いている。
よく見ると、全員、貴族の息子たちだ。
皆、ジョヴァンニと同じようにぼろぼろの格好をしている。
ジョヴァンニに影響されたんだろうか。
意外と、皆、元気そうで楽しく歌ったりもしている。
中には、去年、あたしが運んでいた桶を蹴飛ばして中身をぶちまけてあざ笑った奴もいた。あたしをひどい目に遭わせたくせに、自分が戦場で悲惨な目に遭ったら神様にすがるようになったのだろうか。
けど、こいつらはいざとなったら金持ちの実家に戻ればいいだけだろ。
今、家族が病気で働けるのはあたし一人だ。
あたしら下層階級の者たちは、働くのをやめたら死ぬしかない。
いい気なもんだなとあたしは思った。
この町では週一回、町の中央にある教会で礼拝が行われる。
教会の礼拝には、あたしら最下層の人間も参加できる。
金持ち連中と違って、椅子には座らせてくれず、一番後ろの壁際で立ったままだけど。
あたしもたまに参加している。
司教がありがたい説教を始めた。
あたしは全然聞く気はない。
聞いてるふりをしているだけだ。
この司教は町の金持ちどもとつるんで、税金を使ってやりたい放題している。
ずいぶんと蓄財しているって噂だ。
この町の教会はすっかり腐敗している。
本当はこんな礼拝には出たくないんだけど、たまには顔を見せないと不信心な人物と見なされて何をされるかわからないので、仕方なく出席している。
そう言えばジョヴァンニはどうしているのだろうか。
探すが見当たらない。
以前は最前列の金持ちの席によく見かけたんだけど。
どうやらジョヴァンニは仲間たちと荒地にあった廃墟同然の聖堂を少しずつ修繕して、自分たちの教会にしたようだ。まだ、天井とかには穴が開いている状態らしい。
それでも、仲間が少しずつ増えたようだ。
物好きな連中もいるもんだ。
連中は物乞いをして、日々の糧を得ている。
物乞いをしているジョヴァンニを眺めていたら同僚に、
「お前もあの連中の仲間に入りたいのかよ」と聞かれた。
「まっぴらごめんよ」と答えた。
あたしには、所詮、お金持ちのお遊びとしか思えなかったから。