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作られた人物像

1.邪馬台国の女王 卑弥呼


日本の歴史を学ぶと、最初の頃に出てくる有名人である。ただ、日本史で学んでいるとはいうものの、彼女の存在は日本の歴史書には全く記述がない。


古事記・日本書紀(以下「記紀」)といった古代日本の姿を描いた歴史書に、その名は見当たらない。しかし、中国の歴史書には「倭国大乱」「鬼道を以って国を治める女王」などの記述があり、卑弥呼がその名を歴史に刻んでいる。


日本史で習うところの「後漢書東夷伝」「魏志倭人伝」がそれである。


そして卑弥呼は、紀元240年頃には没しており、その後「晋書」では266年の朝貢を最後に邪馬台国の名は消えてしまっている。


さて、ここで疑問なのは中国の歴史書には残っているのに、なぜ記紀にはその名が残されていないのか?


記紀の編纂時期は600年代後半から700年代前半。晋書に最後出てきたのが266年なので、邪馬台国が歴史からその名が消えて約400年経過している。


なので、そんな話皆が忘れていて、書き漏れたのでは?と思う方のために説明しておくが、同じ時代に行われた神功皇后の三韓征伐(200年代半ばもしくは300年代後半)はしっかりと記紀に記載がある。


さて、なぜ邪馬台国のことが記紀に記載がないのか?それは、まず邪馬台国が畿内になかったからであろうということだ。


記紀編纂の頃といえば、いわゆる大和朝廷の時代であり、畿内の歴史は隈なく調べられていたはずである。それなのに邪馬台国と卑弥呼という事実が漏れたのは、それらが大和にはなかったからであることを証明しているのではないだろうか。


では、邪馬台国が九州にあったとして、九州で調べを進めれば伝承なり末裔なりが出てきてもおかしくはないはずである。そもそも、伝承に頼らずとも、中国の歴史書に記載があるのだから、それに基づいた調査をすれば、今の時代よりもっと楽に邪馬台国を見つけ出せたはずなのである。


が、しかし。調査では邪馬台国に行きつかなかった。と、そんなはずはないわけで、何か不都合な真実がそこにあったのかもしれない。


実をいうと、記紀以前に編纂されていた歴史書がある。「国紀」「天皇記」と呼ばれるものである。そこには何らかの記述があったのかもしれないが、これらの歴史書は後述するとある事件で焼失してしまい、貴重な歴史が失われているのである。


さて、卑弥呼という女性は、日本史の中でどんなカギを握っていたのであろうか?


記紀に登場できないほどの大きなインパクト。それは皇統を揺るがすものなのか、藤原氏に深くかかわるものなのか。


でも、思い出してもらいたいのが、卑弥呼には夫はなく当然子もなく、その後継には男王が立つも争いが絶えず、のちに宗女・台与(もしくは壱与)が立っているとの記載があるのみ。末裔が存在しないのだから、何か政権に不都合が生じるというような心配はない人物だと言える。


さて、卑弥呼の人物像は、客観的かつ断片的に書かれた中国の歴史書にしかみることができない。日本の歴史書に出てこなかった謎。もしかすると、記紀編纂の時代に、邪馬台国の存在というのは、本当に忘れ去られていたとするなら、すべてにおいて辻褄が合うのだが、そのようなことはありうるのだろうか?あるとすれば、その要因は何なのだろうか?


もしかすると狗奴国との戦いに敗れて、国ごと消されてしまったのかもしれない。


確かに、邪馬台国は後漢や魏を背後にして、敵対する狗奴国に対し優勢を保っていた。しかし、三国時代が終わり晋となると、中国からの影響力が落ちたのかもしれない。そして卑弥呼の死によって、邪馬台国自体が傾いたのかもしれない。


とはいえ、戦争で敗れたのであれば晋書やその後の中国の歴史書にその事実が記載されてもおかしくない。さらには邪馬台国に打ち勝った王が、歴史にその名を残していてもいいくらいである。が、まったくそんな痕跡もない。


もしかして、疫病により全滅した可能性も否定できないが、それでも都の跡や卑弥呼の墓はなにがしかの形で残るだろうし、邪馬台国の生き残りが卑弥呼の伝承を後世に伝えていてもおかしくない。そこについても、残されたものがあまりにも無さすぎる。


では、何なのか?


その答えがなんとなく見えた事件がある。2016年4月。熊本を襲った地震である。


九州西部は中央構造線の一番西の端に当たる場所であり、阿蘇山の歴史的な4回の噴火により、細かな断層がいくつも走る、地震の巣のような場所に当たる。


そして、日本の歴史上で記された地震で679年の筑紫地震というのがある。ちょうど記紀編纂の時期と重なり、これにより九州での調査が滞った可能性は否定できない。


さらに九州での断層地震をたどると度々被害が発生していたことが伺える。理科年表を紐解くと、熊本での地震被害だけを見ても、2016年の前が1889年、その前をさかのぼると1769年、1723年、1705年、1625年と頻発しているし、日向や豊後などの地震災害を含めると更に多くの記載がある。


そして1792年の、俗に「島原大変肥後迷惑」といわれる、雲仙普賢岳の噴火被害も見られる。


そのような地学的要因を考え合わせると、邪馬台国が忽然と歴史から姿を消し、その後何の痕跡すら見つからず、記紀にも登場しない理由が見えてくるのではないか、と思うわけである。


さて、邪馬台国九州説を取ったとしても、あったのは日向や肥後ではなく筑紫平野と考えるのが妥当である。これは、中国からの使者がわざわざ足を運ぶという点や、周辺の小国を取りまとめるくらいの国家であったということから、経済的に豊かでありかつ人口を抱えていると考えられ、その点において良質な土地と河川、そして湊をも押さえる筑紫平野以外に拠点があったと考えるには無理があるからである。で、筑紫平野ならば、津波すべてが流され消えるという事態は、想定しづらい。


島原大変肥後迷惑のような事態が発生したとして、よほど有明海に近い場所に都をおかない限りは、すべてが消えてなくなるようなことは起きないはずだ。


しかし、ここで見ておきたい事例がある。津波ではなく地震による被害で、すべてが消えた場所がある。


1586年の天正地震で、飛騨の山中にあった帰雲城が山が崩れたことで城と城下町がすべて土砂に埋まり、消えてなくなったのである。一族、家臣領民すべてが一瞬にして滅んでしまったといわれる。


おそらく、邪馬台国も都となる場所は、守りを考えて背後に山がある場所を選んでいたと思われる。これは、邪馬台国が狗奴国と戦争状態にあったという中国の歴史書からみれば簡単に想像がつくだろう。


しかし、その背後の山が地震により、また地震前後の風雨なども重なり山体崩落を起こしたとすれば、どうだろうか。


卑弥呼の墓も、都も、そして邪馬台国の人々も一瞬にして消えてなくなるという事態が発生していてもおかしくない。今の時代とは情報量なども違うので、台風や豪雨などによる土石流や鉄砲水でも同様の事態が起きて不思議ではない。


そこに筑紫地震が追い打ちをかけたとすると、邪馬台国が日本の歴史書に登場しなかったとしても、なんら不思議ではないのである。


もし、同じような理由で邪馬台国が畿内にあってその姿を消したとしても、飛鳥・白鳳の時代に誰かがその歴史を掘り起こしていたはずだと思う。それがないということが意味するのは、奈良時代に邪馬台国の存在や卑弥呼の名を知るのは、中国の歴史書を読むことのできた一部の階級の人間だけであり、その人たちですら尻尾がつかめぬ謎の存在の女王だったのが卑弥呼なのである。そして、邪馬台国は九州にあったということも、なんとなくは分かっていたものと思われる。


海外(中国)の歴史書に、最初に登場する日本人。(実際には2番目に登場しているが、最初に登場した人物について、日本の歴史の授業ではほぼ流されている。「師升すいしょう」と呼ばれる倭国王の方が、卑弥呼よりも先に記載がある。ここでは、一般的に知られているという意味で、「卑弥呼」を最初という風に呼ぶ。)しかし、時の権力者ですら、その存在にたどり着くことは叶わなかった国と女王。


その悔しさからか、記紀で様々な神々を登場させ、古代日本の歴史をベールに包もうとしたのかもしれない。


邪馬台国という事件から間もなく2000年の時が過ぎようとしている。日本人は、これからも彼女の存在に近づくため、科学技術を駆使して調査を続けるであろう。


もしかすると、鬼道を用い、日食まで予言できた卑弥呼のことである。自然災害によって自分の存在を後世に知られないよう隠したとするなら、そう簡単には見つけさせてくれないかもしれない。


歴史の教科書ではわずか数行の記載しかない、邪馬台国の女王・卑弥呼。


我々が持つイメージはさまざまである。いや、謎が多すぎてイメージすら持てないかもしれない。


そういえば、記紀に登場する神々には、各地に伝承が残されている。「天岩戸」や「因幡の白兎」「八岐大蛇」などなど。


でも、卑弥呼にはなんの伝承も残されていない。そのことがさらに謎多き女王様として、魅力を放っているのかもしれない。


嗚呼、卑弥呼様。貴女ほど罪作りな歴史上の人物は他にはいません。

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