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心を壊した公爵令嬢は愛する人へ舞を捧げたい  作者: 有川カナデ
心を壊したもの、救うもの
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それぞれの想い -アンジェラとアーノルド-

 ようやく……ようやく終わったのだと思った。

 あの地獄のような日から始まって、どれほどの日が経ったのか。とても長いようにも思えるけれど、わりと短かったのかしら。だけれど彼と、アーノルドと過ごした時間はとても濃厚だったように思う。

 彼はとても優しい、親切なひとだった。今ならはっきりと、ランドルフとは反対の性質を持った人なのだとわかる。

 想いを強要しないけれど、隠すこともしない。彼の純粋な想いはとても暖かくて、柔らかで……そんな想いを向けられていることは、とても光栄なことだった。彼が王子だからでも、彼が何年も片想いしていたからでもなくて。その優しい愛を、私に向けてくれているという事実が嬉しかった。

 愛しているのか……と聞かれたら、まだはっきりと言葉にすることは出来ない。

 ようやく、終わったばかりだから。私とランドルフの間にあった、拗れた糸がようやく切れたばかりだから。

……でも、ね?

 あのとき、ランドルフに囚われてしまったとき……私はずっと、彼の姿を求めていた。ランドルフの狂気に染まった空色の瞳を見ることが怖くて、アーノルドの暖かな紫紺の瞳を求めていた。彼が来てくれたときは本当に嬉しかった。胸が張り裂けそうな想いだった。

 そして彼を守るために炎の加護を使うことには何の躊躇もなかった。むしろ今使うべきだと、そう思ったの。

 アーノルドを守るために、これから先も彼と生きるために。

……そう。私は彼と生きたいと思った。もっと彼を知りたいと……その瞳を見つめて、色々な話をして……もっと彼と時間を共有したいと、はっきり思ったの。

 だから、少し。ほんの少しだけ、……彼が、ソール国でやり直すと言ったとき、寂しさを感じた。

 もっと共にいたいと思うのは私だけなのかしら、なんて。ちょっとだけ、自惚れていたのね。

 彼は、待っていて欲しいと言った。恋人も作らずに、一年くらい待っていて、と。

 そんな「我儘」なお願いをするのだから、私も「我儘」でお返しをしたの。二週間に一度、会いに来て、と。だって、一年も会えないでいるのは寂しいじゃない。焦がれて焦がれて、泣いてしまうかもしれないわ。


 ねぇ、アーノルド。

 あなたに会えないことを寂しいと思うのよ。でもあなたの邪魔はしたくない。あなたがやり直したいというのなら、それを支える私でありたいの。

 わかる、かしら。

 私の心はとっくに、あなたに向いているの。

 だから、待つわ。あなたが私の隣に並ぶに相応しいと、あなた自身が思えるようになる日まで。

 そうして私も、あなたの隣に並ぶに相応しい成長をしたい。あなたが成長するだけ、私ももっと強く有りたい。

 もう心を壊したりはしないわ。私は一人ではないもの。

 ふふ。

 あなたと私、どちらも成長するまで、炎舞はお預けね。

 口約束はしないわ。あなたを信用していないわけじゃないけれど、――約束をしてそれっきりは、もう嫌なの。

 アーノルド。

 あなたの言葉を信じるわ。あなたの想いを、信じるわ。

 あなたが自分を認めたその日に。私の心が成長した、その日に。


 私があなたを愛していると、言えるようになったその日に。

 

 その日こそ、本当の炎舞を、あなたに。

 

 






 彼女と出会ってから、怒涛のように日々が過ぎていった。それまで静かだった生活が嘘のように、本当に一気に色んなことが起きた。

 その中でもアンジェラと過ごした穏やかな時間は、とても楽しくて、幸せで。ずっとこの時間が続けばいいな、なんて、呑気に思っていた。

 ランドルフ・オルブライト。アンジェラが過去、愛した男。そして彼も心底、アンジェラを愛していたのだと思う。アンジェラに裏切られたと思い込んで、心を壊して。彼の中にある感情は、アンジェラへの執着だった。アンジェラ以外何も見えていない。アンジェラ以外のものは全て敵であると言うように。

 一歩間違えていたら、自分もランドルフのようになっていたのかもしれない。

 アンジェラだけを強く求めて求めて、彼女以外何も欲しくなくて……彼女を奪うものは全て害悪だと思っていたかもしれない。

 でも、そんなことをしても彼女が喜ばないことを知っている。彼女はとても聡い人だ。そして強い人だ。出会いこそ、心を壊していたけれど。立ち直った姿は凛として、崇高な印象を与えた。

 盲目的にランドルフを愛していた彼女は、それが自分の求めていたものではないと語った。

 ランドルフがアンジェラに向けた愛の形は、彼女の望むものではなかった。

 なら、オレの愛は。オレが彼女に向ける愛は、どうなのだろう。幼い頃からの、片想い。ずっとずっと、彼女だけを想い続けてきた。

 重いだとか、一途過ぎて気持ち悪いだとか言われたこともある。自覚もある。

……だから、一歩間違えればランドルフと同じ道を辿っていたんじゃないかと思ってしまうのだ。

 彼女のためなら王位も捨てられる。彼女が望むならなんだってしてやりたいと思う。だけど彼女と過ごしていて、わかった。ただ無償の愛を捧ぐだけでは、彼女の本当の心を得ることは出来ない。自分自身の責任も果たさず、ただ彼女のためにと言うのは、ドラグニア国公爵令嬢として恥じない姿で生きようとしている彼女に対する侮辱のようにも感じられた。

 全てが中途半端だ。

 社会勉強こそ充分にしたつもりでいたけれど、まだ知らない部分はいくつもある。彼女のために捨てられると思っていた王位は、そのせいで王族としての覚悟もはっきり持っていなかった。剣の腕も、まだまだだ。ランドルフと対峙したとき、アンジェラの炎の加護がなければ大怪我を負っていたかもしれない。

 もっと強くならなければ。心も、身体も。彼女の隣に立つに相応しい男にならなければ。

 

 アンジェラ。

 オレは本当に、きみが好きだよ。きみとずっと一緒にいたい。もっと時間を共有したい。

 きみについて、まだ知らないことがいくつもあるんだ。新しいドレスを贈りたい。二人きりで、ちゃんとしたデートもしてみたい。

 でもそのためにはもっと、力をつけなきゃならない。ソール国の第一王位継承者として、あるべき姿を取り戻さなければ。

 だけど、きみを探すために要した時間を、後悔はしていない。だってそのお陰で、きみと巡り会えたんだ。

 アンジェラ、初恋の君。そしてこれがきっと、最後の恋。

 きみはいつか、オレに炎舞を見せてくれるだろうか。オレのために、舞ってくれるのだろうか。

――たとえきみが、炎舞を見せてくれなくても。オレはずっと、きみを想い続ける。

 オレの言葉を信じてくれ。重すぎると言われた愛を、信じてくれ。

 

 オレがきみの隣に並ぶに相応しい男になった、その日に。

 もう一度、きみに想いを伝えるから。

 愛している、アンジェラ。きみだけを、ずっと。

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