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心を壊した公爵令嬢は愛する人へ舞を捧げたい  作者: 有川カナデ
心を壊したもの、救うもの
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壊れていた心 -ランドルフの狂気-

 アンジェラたちが姿を消してから、しばらく。

 ランドルフは部屋に閉じこもったままでいた。

 あの日彼に突きつけられた真実は、到底信じられない、信じたくないものだった。

 全てが変わってしまったあの日、あのとき。街を燃やし住民を殺したのは、アンジェラではなくシンシアだった。ランドルフはそれまでずっと罪人はアンジェラだと思い込み、彼女が罪を償うことを望んでいた。

 シンシアを庇い、アンジェラを責めた。

 愛したことが信じられないと告げて、彼女を突き放した。

 だけれど真実は、全く異なるもので。アンジェラはずっと自分に、間違いを伝えようとしていたのだ。

「アンジェラ……」

 心を壊してしまうほどに、想いを向けてくれていた。突き放しても尚、自分の存在を求めてくれていたはずだ。

『話を聞いて欲しいの』

 何度も何度も、彼女はそう言って。お願いだから、と縋って。だけれどなぜ自分はそれに応えなかったのだろうと、ランドルフは絶望的に後悔していた。

 鮮やかな赤い髪に、輝く金色の瞳。勝ち気なその表情が好きだった。ときにしおらしく微笑む表情や、戸惑った表情。嬉しそうに笑う顔も少し怒ったような顔も、何もかもが愛しい存在。

 それは今も、変わっていない。

 罪人だと思い込んで、だけれど恋心を捨てられず――彼女が罪を償えばまた一緒にいられるものと思っていた。

 彼女を王妃として迎え入れ、これから先の人生を共に暮らして行くつもりだった。

 あの日、レイニー国の兵士を無事に撃退したそのとき、ランドルフは改めてアンジェラに告白しようと思っていたのだ。


 やっぱり、きみのことが好きだよ。

 僕にはきみ以外、考えられない。

 愛しいアンジェラ、どうか僕と結婚してくれ。

 

 そう告げれば彼女は、きっと嬉しそうに笑って頷く。

『嬉しいわ、ランディ』――そんなふうに、微笑んでくれるものと思っていたのに。

 彼女は……傷ついたアンジェラは、もうランドルフの方を見てはいなかった。別の男の腕に抱かれて、まるでランドルフの存在など忘れてしまったかのように、その視線が向けられることはなかった。

 ぎり、と、心臓が強く締め付けられた。

「アンジェラ……きみは、あの男を好きになったのか?」

 言葉にして、吐き気を覚える。握り締めた拳はぶるぶると震えて、血が滲んでいた。

 ありえない。あってはならない。彼女の隣に、自分以外の男が並ぶことなど許されない。

「アンジェラ。僕の……僕の、アンジェラ。そんなはず、ないだろう? きみは僕のことが好きなんだ。僕を愛しているんだ。……あぁ、そうだ。僕も同じ気持ちだよ、アンジェラ。きみを、きみだけを、僕は……きみ以外、何もいらない。きみが傍に居てくれるだけでいいんだ。ただそれだけで……執務も社交界のパーティも、なにもしなくていい。僕の傍にいて、……僕の、手の届く場所に、ずっと」

 虚ろな眼差しでランドルフは、アンジェラへの恐ろしいまでの執着心を口にした。

 うっとりとしたその目に浮かぶのはきらきらと輝く彼女の笑顔で、そしてその隣にはいつだって自分の姿がある。「今まで」も「これから」も。

 アンジェラの隣にいるべきはあの男ではなく、自分だ。

「かわいそうに、僕のアンジェラ……好きでもない男に、連れ攫われて」

 嫉妬の感情はいとも容易く憎しみに変わる。ランドルフの中でアーノルドは、アンジェラを連れ去った「悪者」になっていた。

 国王である父は、ドラグニアとの交渉失敗の原因をランドルフに押し付けた。

『お前が選ぶべき存在を間違えたからこうなった。わかっているのだろうな』

 責任をとって「竜族の娘」と結婚しろ。――そう、命令したのだ。

 竜族の娘とはアンジェラのことではなく、真の罪人であるシンシア。クラウディア国王にとってシンシアの犯した罪などもはやどうでもいいのだ。求めるのは強国ドラグニアとの繋がり。息子と竜族の娘が結婚すれば、それだけでドラグニアとの繋がりは出来る。エスメラルダ王妃も決して無視は出来ないだろうと、そう考えているのだ。

 ふざけるなと、ランドルフは怒りに表情を歪ませる。

 今自分がアンジェラと共にいられないのは、元はと言えばシンシアのせいだ。あの女さえ現れなければ、あんな事件を起こさなければ、アンジェラに罪を被せなければ今もアンジェラはそばにいたはずなのに。

 アンジェラと同じ竜族でありながら、その姿も心も、何一つアンジェラには及ばない。それなのによくも騙した。よくも謀った。

 父親に、国王に命令されようとも、ランドルフはシンシアと結婚する気など毛頭ない。彼のシンシアに対する感情は、殺意を帯びた憎悪だ。

 彼にとっての花嫁は、アンジェラ以外にいない。

「アンジェラ。……愛しい、アンジェラ。待っていて、すぐに迎えにいくから」

 光を宿さない、虚ろな眼差し。

 ランドルフの耳には、心には、もう誰の声も届かない。

 

 あの日、あのとき。

 街が燃えて何もかもがなくなってしまったその日に。

 心が壊れてしまったのは、アンジェラだけではなかった。

  

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