時空戦艦と概念兵器と魔王城
「流石、科学者のお屋敷。メカメカしているわね。胸がキュンキュンするわ」
と思わず声を出してしまいました。
150年の歴史があったとは思えない程の綺麗さ。
そして内装の凄さ。
まるで機械龍のお腹の中です。
「博士の手記ですね。概ね、私の空論ノートと変わりませんなぁ。150年の時間が憎らしいですねぇ」
ああ、同士。
同じ時代に生まれられなかったのが残念です、デイモンド博士......。
「このお屋敷は未完成なのですね、博士。だからバリアで保存していたのでしょう。自分の次の科学者に完成させて欲しくて。口惜しかったでしょう。無念だったでしょう。しかし博士!私があなたの志しを受け継ぎ、完成させてみせますよ!」
150年振りに明かりのついたお屋敷に、怪しげな笑い声がこだましたのだった。
○○○
「魔王さま。デュラハンに出撃を命じた時間です。おそらく辺境を蹂躙し、それに対し、人間たちは王都の全戦力を辺境へ集結させていることでしょう」
「うむ。人間のままでは帝国は王国には勝てなかった。だが、魔の者となった今の我々ならば、王国を滅ぼすことも容易い」
「はい。では“空飛ぶ魔王城”を発進させます。上空から王国を攻撃し、火の海に変えてやりましょう」
「よし。到着は明日の昼だな。その時が王国の最後だ!ふはははは!」
○○○
早朝から騎士団の上層部、教会の上層部、冒険者ギルドの上層部は王都への移動を開始した。
昼前には王都に到着する。
急がなくては、またアイが移動するかも知れない。
それを追うようにガラウィンたちも乗合馬車で王都へ移動している。
アイに引導を渡す。
せめてそれは、かつて所属したパーティの面子でしようと決めた。
覚悟を決めた彼らは、もう一言も発しなかった。
言葉を放つことで決意が揺らぐかも知れない。
本来なら揺らいだ方が良いのだが、こういう時だけプロ意識を見せてしまい、取り返しのつかない方へ全力疾走をしている。
もう彼らを止められる者はいない。
○○○
「おおっ!?もうとっくにお昼ですか!時間の流れは早いですね!ははは」
徹夜明けって何でこんなにテンション上がるんでしょうか?
眠くなり、本来なら作業効率は落ちるはずなのに、何故か思考が冴え渡ります。
空腹も感じず、今はただ、このお屋敷の“隠し武装”を完成させたい欲求だけがあるのです。
「150年と9時間!これがこのお屋敷の完成までに要した時間です!そして、これで完成です!目覚めよ!“世界線航行用超弩級万能時空戦艦 ナグルファール”!」
ポチッとな。
○○○
王都は騒然としていた。
王都上空には、城が浮いており、その周りには悪魔が飛んでいる。
魔王が魔界より宣戦布告してきたのだ。
王都には、国を守るはずの騎士団も教会も冒険者もいない。
皆、スタンピートの鎮圧に向かった。
それこそが魔王の戦略であったのだと、王は愕然とした。
王都に入ったばかりの騎士団の上層部、教会の上層部、冒険者ギルドの上層部、そしてガラウィンたちは、絶望感を感じていた。
圧倒的質量、圧倒的物量、圧倒的魔力を肌で感じていた。
そもそもに空を飛ぶ城に対しての攻撃手段が無い。
あるとすれば、王宮魔法使いの“龍の息吹”くらいだ。
だが、分かる。
1発2発のそれでは、アレは落ちないだろうと。
しかしーーー
○○○
王都のはずれ、デイモンド博士のお屋敷周囲が地響きを上げ、揺れ動く。
すでに住民は、王宮の地下シェルターに避難しており、誰もいない。
そんな住宅地が突然爆ぜる。
そして、全長450mはあろう艦の艦首が地表に姿を現した。
「......何だ、アレは」
「申し訳ありません、魔王さま。こちらには情報が入っておりません。王国の秘密兵器やも知れません」
魔王が手を翳す。
「“万魔殿砲”で王国ごと吹き飛ばすのだ」
○○○
「エネルギー充填90、100......、よし!フライホイール、出力全開!アフターバーナー、イグニッション!ナグルファール!発進!!」
周囲を吹き飛ばし、離陸する巨大戦艦。
地上の人間も天空の魔の者たちも注目する。
「今更何が出来るのだ。吹き飛べ」
空飛ぶ城の下部の巨大な口が裂ける。
口から程走る禍々しい光。
GAAAAAAAA!!!
しかし
「け、防御結界です!イグゾーションが弾かれました!!」
「馬鹿な!あのようなガラクタ、溶けて蒸発する熱量なのだぞ!!」
魔王は視認する現実を受け止められず、部下に言葉を荒げる。
「ま、魔王さま!人類の艦が、砲塔を此方に向けております!!」
○○○
“人類総力砲”
ありとあらゆる事象が関与出来ず、発射された事実と、その射線上の全ての空間時間に着弾した事実だけが残る質量崩壊兵器。
質量崩壊した弾頭に着弾した森羅万象を消し去る。
無の空間を補うため、周囲の空間時間は過密圧縮し、反動で多次元時空も含め、巨大な次元振動をもたらす。
ーーー銃口を向け、引き金を引かれたら色々消し飛ぶ大量破壊兵器。
「......えい」
「ええい!人類が如何なる武装を持ち合わせていても、この魔王城は落ちはしない!魔力の結界を張
○○○
「......これダメなヤツですよ、デイモンド博士。こーれは封印しとくべきものです。ラグナロク起こしてでも神さまたちが、この艦沈めに来ますよ」
砲の射線上にあったはずの城は、引き金を引いたら消えた。
その周囲を飛んでいた悪魔たちは、悪魔だったものに変わり果て、地上に降り注いでいる。
地上を見ると、人々がこの艦を見上げている。
王都から離れた平野に、ナグルファールを着陸させた。
近寄ってくる人たちがいる。
しかし、彼らは武装していない。
武装なんてしても無駄だと理解してしまっているのだろう。
○○○
艦から降りると、遠巻きに色々な人が私を見ていた。
そこへ、3人組が近寄ってくる。
「アイ、さん?」
3人組のうちの女性が私に話しかけてきた。
「はい。ええと......すみません。どなたでしょうか......?」
「私はルクシウム教 中央教会の聖女長。大聖女と呼ばれております。タキオンです」
中央教会......。
私がいつも指定依頼を断っていた場所か......。
「あっ、あー。タキオンさま。えー、あの依頼はですね。その、私よりも貧しい者に施しをなさった方が良いと、そう、愚考いたしまして!いえ、そのうち受けさせていただく予定ではあったのです!本当に!決して教会を軽んじたりしたわけではなく!」
とりあえず謝罪だ。
「頭をお上げください。アイさま。あなたは王国を救われた英雄なのです。むしろ、我々が礼をする立場なのですから」
そう言い、3人が跪き、頭を下げた。
高位の人に頭を下げさせるなんてとんでもない。
さっさと頭を上げてもらう。
「確認だけさせていただきたい。機械龍の砦のレッサーメカドラゴンの討伐は、あなたですね?」
「はい」
「......迷宮のスタンピートを制圧したのも」
「はい」
騎士団の人と冒険者ギルドの人がため息を吐く。
「あなたの職業は“科学者”ですね?」
「!?はい!どうしてそれを」
大聖女タキオンさまが“科学者”と言う言葉を放ち、思わず声を上げてしまう。
「教会には秘匿書類、禁忌の書があります。そこには、様々な職業のことが書いてあります。“魔法使い”ならば、“神の理とともに歩む者”と。これは聖職者と変わりありません。我々は“神の言葉を紡ぐ者”ですから。しかし、“科学者”は“神と戦う者”と記されています」
思わず、額に力が入ってしまった。
「......つまり、私はルクシウム教会の敵、なんですか?」
「......そう記されています。しかし、神の敵ではあるのですが、人類の味方、なのです」
「?」
「ええ、そんな顔になりますよね」
タキオンさまに笑われる。
「科学者とは、神が人類に与えられる試練に対し、唯一真っ向から対抗出来る職業なのですよ」
○○○
「流石、アイくん。やはり我がパーティの後衛に相応しい」
声の方を見るとガラウィンが、拍手をしながら近寄ってきた。
「アイくん。我々のパーティは未だ7人。きちんと君の席を残してある。君が教会を敵に回したとしても、それがどうした。長年共に戦った仲間である我々は君を敵とは思わない。英雄たる君とともに戦ってこれて、私たちは光栄だ」
「......期待はずれの才能無し、教会から施しを受けるに相応しい無能の浮浪者の私には、あなたたちのパーティの後衛は務まりませんよ。別の方をお誘い下さい」
引き攣った笑顔でガラウィンが固まる。
「......いやいや、慎ましいね。その美徳たる慎ましさは一旦置いておこうじゃないか」
「ふざけないでください」
「ああ、英雄をクビにしたパーティのリーダーか。大した人選眼だな」
と冒険者ギルドのギルドマスターがガラウィンに言い捨てる。
「彼女は教会の敵ではありますが、志し高い任務を“施し任務”などと見下す輩も、教会の敵なのですよ?」
とタキオンさま。
「君のパーティだね?野営地の場所で我々が先にいた、と他の冒険者を恫喝したり、夜間に馬車を出せと民間人を脅したり、街を救った英雄の部屋を自分たちが泊まる宿がないからと追い出したりしたそうじゃないか。全て情報が入っているのだよ」
と騎士団長。
「いや、それは......」
「「「もう遅いっ!」」」
この後ガラウィンやそのパーティの面子と会うことはなくなりました。
○○○
あれから、すぐに王様がナグルファールに参られました。
ナグルファールを王国に寄贈し、私の身柄を王国が預かる、と言われました。
が、これを所持すると神と戦わなくてはならなくなりますよ、とやんわり伝えたら、スーッといなくなりました。
神の敵だけど人類の味方と言う変な立場の私は、今日も王国近くの空の上で新たな発明品を生み出すことに勤しむのでした。
これにて完結です。
読んでいただきありがとうございました。