衛星兵器とスタンピート
再び、迷宮“機械龍の砦”
7日間程籠り、“遠距離狙撃用熱光体発生装置 バハムートラング”を作り上げた。
天空より高い位置に、予めこの装置を打ち上げておき、必要に応じ、装置に信号を送ることで、地表面にリミッターをかけていないメガブレッサーを放つ。
装置に信号を送っている間に、呪文の1つでも唱えれば、さながら魔法使いだ。
科学者という職業のおかげで、空論ノートの具現化に至れているが、魔法使いの振りをしないと、いつまでも単独攻略をしなくてはいけない。
迷宮から出た私は、すぐさま、空にむかって装置を打ち上げたのだった。
○○○
「あ、アイさん。お久しぶりですね。教会からの指定依頼が何件か来ていますが、いかがしますか?」
「ええっと、パスで。それよりも、迷宮に潜らないタイプの怪物退治の任務ってないかしら」
「......パス、ですか。わかりました。先方にも伝えておきます」
受付嬢は苦笑いをする。
教会の指定依頼の依頼者がだんだんと高位聖職者に変わってきているからだ。
教会も本気で依頼を受けて欲しいと考えているらしい、と分かる。
しかし、冒険者ギルド内でのトラブルが原因で教会からの依頼を断っている節のあるアイに対して、ギルドからは強くは言えない。
しかし、あまりに断り続けると、教会と冒険者ギルドの関係が悪化する。
「......最近、あまり受けて下さる方がいらっしゃらないので、教会も困っているようなのですよ」
と受付嬢が言う。
ちなみにこれは嘘である。
受けている冒険者はいる。
ただ、実力が足りず、本当に施しの意味合いしかない事案が続いている。
「......そうですね。そのうち」
「はい。よろしくお願いします」
○○○
迷宮“滅びた帝国の地下要塞”
観測者は目を疑った。
地上へ死霊の騎士が溢れ出ているのだ。
30分もすれば、1番近くの町は怪物たちに飲み込まれるだろう。
「首無し騎士が、死霊の騎士を先導し、こちらに向かってきています!王都、教会、冒険者ギルドには連絡済みですが、間に合うとは......」
その町を管理する貴族、クライス伯爵は町長から話を聞き、頭を抱えていた。
「ただでさえ、ワイバーンが現れたと騒ぎになっていたというのに......。300年も前に滅んだ国に、更に面倒を起こされるとは!神よ、我々はどうなっても構わない。どうか、か弱き民草を救い給え!」
DOOOOOM!!!
一瞬の閃光が領主館の窓を照らし、その後爆音が響いた。
カタカタと館の窓ガラスが揺れる。
「何事だ!?」
「領主さま!迷宮の方角が火に包まれております!」
「なんと!我々の神への祈りが通じたのか!?」
DOOOOOM!!!
「領主さま!空です!空から光が落ちて来ます!流星です!」
「......いや、あれは“龍の息吹”だ。最高位の魔法使いが、その魔力を燃やし尽くし、その代償に使えるという大魔法だ。もはや王宮の魔法使いでも片手で数える程しか使える者はいないと言われている魔法を......」
「あっ!また!」
DOOOOOM!!!
「機械龍の砦で、使用された記録があったな......。その魔法使いが、この辺境に来ているとしか思えん......」
「何としても探し出し、礼をいたします」
「町長、頼むぞ。救世主さまに、何としても報いねばならぬ」
DOOOOOM!!!
○○○
「ワイバーンは、リミットブレッサーで十分だったから、バハムートラングの試射が出来ないとか残念がっちゃったけど。都合良く、大量に沸いてくれたわね」
スコープ付きの銃身のないボウガンを爆心地に向け、私はまた引き金を引いた。
空からまた巨大な熱光体が落下する。
スピードが早すぎて、1本の光の線にしか見えない程だ。
「連射すると、冷却時間が延びるわね。最初が1分、次が2分、8分、20分か。まぁ、見るからに跡形も無くなっているし、もういいでしょう。ワイバーン持ってかーえろっと。解体したこともあるから興味ないしねぇ。これで金貨3枚なんてちょろいわー!」
金貨3枚で、迷宮氾濫を防ぐ奴に言われたくないだろうが、誰も突っ込む人間はいない。
○○○
ワイバーンの核を冒険者ギルドに持ち込もうとしたら、人で溢れ返っていた。
「お前!魔法使いか!?」
「い、いいえ!?」
「そうか、行けっ!」
「あっ、はいっ!」
ギルドの受付嬢に、ワイバーンの討伐の証である核を渡し、金貨を受け取った。
受付嬢もなんだかソワソワしていて、おざなりな対応だった。
「何だろ......、まぁ、いいや。宿屋でご飯食べよう」
○○○
辺境伯領に王都の騎士団、冒険者ギルドのエース、教会の大聖女率いる浄化軍がやってきた。
もちろん、スタンピートは抑えられた後であり、迷宮の跡地がクレーターになり残っているだけだ。
「“龍の息吹”を4発も撃ち込む魔法使い......。人間か!?」
と騎士団長が唸る。
「そんな魔法使い、登録されていませんよ!?神の使いでは!?」
とギルドマスターが吠える。
「神聖さは感じられません。間違いなく、人間の技です。一体何者が......」
と大聖女が悩む。
「ともかく、この大英雄を何としても探し出したいのです。民草を救ってくれた救世主を!」
と伯爵が猛る。
「しかし、魔法使い、以外に手がかりが無い、となりますと......」
会議室の中の人間たちが頭を抱える。
ふと、手元の資料を眺めていた大聖女が、手を止める。
「......この『ワイバーン討伐任務』の請け負い冒険者......」
大聖女は、控えていた補佐官に資料を見せる。
他の者たちも何だ何だ?と大聖女の方を見つめる。
「間違いありません。例の教会依頼を断り続けている冒険者ですね」
と冷たい声で補佐官が告げる。
騎士団長は「不届き者がいるものだ」と呟き、ギルドマスターは「うちの冒険者が申し訳ない。厳重に注意を致します」と頭を下げている。
「......この方は、私の手元にある情報では、地下墓地の迷宮攻略において、深層3階層を1日で成す程の光魔法の使い手です」
会議室の時が一瞬止まったかのように静まり返った。
「1日で深層を3階層も?」
「ええ」
「しかし、こやつは、錬金術師では」
「光魔法の魔道具を持ち合わせていた、と教会には報告がありました」
するとギルドマスターが連絡用の魔道具で機械龍の砦を管理しているギルドに1通入れる。
「機械龍の砦からの帰還者の中に、アイ、という冒険者はいるか?」
数分後、是の返答が返ってきたため、会議室は大騒ぎになった。
○○○
「あら?アイ。あなた、ここにいたの?」
宿屋の食堂で、夕食を食べていたら、ガラウィンのパーティの魔法使いと聖女に声をかけられた。
「どこも宿屋がいっぱいでね?私たち泊まるところがないのよ」
そう言うと机に銀貨を置かれた。
「......部屋を譲れ、ってことですね」
「そう。察しが良くてありがたいわ」
「野宿は慣れていらっしゃるでしょう?」
「......わかりました」
部屋にあった荷物を片付け、宿屋を後にした。
元の町へ行く馬車は運行を終了していた。
「今なら、王都はがら空きか」
王都の宿屋に泊まることを決め、王都行きの最終便に乗り込んだ。
次話は13時に投稿致します