光線銃と地下墓地の大掃除
『“龍の息吹”を使用出来る魔法使い、募集』
「すごい魔法使いがいるわねぇ」
ギルドの張り紙を見て、唸る私。
ギルドの求人広告、パーティ募集の看板に、超高給の募集が掲げられている。
私がギルドに来たのは、別にこれに挙手するためではない。
私は魔法使いじゃないので、そもそもに満たさない。
それに募集をかけているのは、私をクビにしたパーティだ。
仮に私が魔法使いでも、もう戻らないだろう。
「そろそろ、仕事しないといけないけれども、あんまり募集ってないのね。やっぱり、単独攻略しかないか」
求人広告から任務広告へ移動した。
○○○
迷宮“地下墓地”深層。
光のボウガンの試射と生活費稼ぎのために、受けた任務は、深層の墓地の聖水撒き部隊の護衛。
浅層、中間層までは浄化が終わっている。
行きも帰りも安全であるが、聖職者たちの安全のため、念には念をいれての護衛である。
ただでさえ清貧を貫く聖職者たちが、多額の報酬なんて用意しているわけがなく、食事と僅かな金銭と教会内での知名度くらいである。
まずは食事が欲しかったので、飛びついた。
ただ、結果的に言えば悪くない仕事だった。
確かに大量の死鬼や魂喰霊が出てくるが、ブレッサーで一撃であった。
見つけ次第、引き金を引くだけの簡単なお仕事で、寝床とご飯とちょっとしたお小遣いが手に入るのだから、ありがたい話だった。
1階層で終わっても良かったが、この程度ならまだ行けると、聖水が無くなるまで進行でき、3階層も浄化が出来た。
○○○
そんな簡単なお仕事と言っていたアイとは打って変わっての聖職者たち。
帰還後の教会内のミーティングは、信じられないものを見たという驚異をただ言葉にしているだけだった。
「今回の護衛は大当たりですね、司教さま。神の思し召しですよ」
「パーティから追い出された錬金術師崩れと聞いていましたが、人の噂とは当てにならないですね」
「特にあの光の矢はすごいですね。光の魔法でも、浄化でも無いのに、アンデッドたちに効果覿面でした。塵芥に化していました」
「死霊の騎士もいましたが、特に何気もない感じで消しとばしていましたね。何者なのかと、目を疑いましたよ」
「あの光の矢がすごいのでしょう。あれがあれば、自分たちだけでも墓地の浄化が出来るのでしょうが......。アイさんの食い扶持を奪ってしまうことになりますしねぇ」
「施しを与える我々が、人から仕事を奪ってはいけません。その考えはお捨てなさい」
「すみません、司教さま」
瞬く間に、教会内にアイの評判が広がるのだった。
○○○
冒険者ギルド。
「アイさん。また教会からの指定依頼ですよ」
「わかりました。お仕事があるってありがたいですね」
深層3階層の浄化をしてから、しばらく教会関係の任務ばかりしている。
金銭の報酬は少ないが、ご飯も寝床も用意してくれるのでありがたい。
積極的に受けている。
「受けられるのでしたらば、連絡を致します。シスターが迎えに来られるそうですので」
「受けますよぉ。じゃあ、そこのソファで待ってます」
ちょこんと座って待つ。
「まだ連絡はつかないのか?」
と聞き慣れた声が聞こえてくる。
「申し訳ありません」
受付嬢の返事が聞こえるので、そちらをみると、私をクビにしたパーティの面々がいた。
「これだけの報酬でも食いつかないと言うのか?」
「いえ。まだギルドに立ち寄ってすらいない可能性もありますし」
「ぐぬ。ならば機械龍の砦の最深層にいる可能性があるか......しかし、我々ではグレーターメカドラゴンは倒せない......。その者の帰還を待つしかないか......」
「エンペラーメカドラゴンの討伐ってことですか?」
「あの大魔法を見る限り、可能性がある。......そうなると我々のパーティに加入はしてくれないかもしれないな......。レベルが違い過ぎる」
「ギルドとしては、トップパーティに加入していただけるとありがたいのですが」
「そちらの都合は分かる。分かるが......レベルが違い過ぎて、興味を引いてもらえないかもしれない」
「私、自身の力を自負しています。しかし、あれは同じ魔法使いの私からしても垂涎の魔法です。同じパーティの魔法使いとしてよりも、師として仰ぎたい人です」
「もし、ギルドに立ち寄ったならば、話だけでも、と引き止めてもらえるか?受付嬢殿」
「わ、わかりました」
受付嬢との会話が終わったらしく、振り向いた。
つい聞き耳を立て過ぎていた私は、彼らと目があってしまった。
「おや、アイくん。こんなところで会うとは。何をしているのかね?」
勇者の1人が話しかけてきた。
「教会の人を待ってます」
「......施し任務か。食うに困った冒険者の救済任務だったか。まぁ、君にはお似合いだろう」
「教会は優しいですから。死鬼の1匹くらいは倒して貢献して下さいよ、アイさん」
「せいぜい、教会に迷惑をかけないことだ。元パーティの名前に泥をつけるなよ」
教会からの指定依頼なのに、と言いたくなったが、彼らのパーティにいた頃の私のことを思うと仕方ないかもしれない。
黙って口を噤む。
私への苦言に満足したのか、彼らはいなくなった。
彼らがいなくなった後、入れ替わりのようにシスターさんが声をかけてきたので、任務に向かうことにした。
○○○
地下墓地の中間層の浄化護衛の任務を2日間同行した。
深層よりも出現する怪物が少なく、あっという間に深層まで浄化が終わった。
「シスターさん。こういう教会の任務って、食べていけない人のための施しの意味があるんですよね」
気になっていたことをシスターさんに訊ねてみた。
「はい。もしかして、昨日、ギルドで言われたことを気にされていらっしゃるのでしょうか」
「えっ。いや、あはは」
私のブレッサーがあれば、確かに任務は楽になるだろう。
でも、そうしたら私は良いが、食べるに困っている冒険者の人はどうなるのだろう。
今回は引き受けたが、次からは遠慮した方が良いだろう。
死鬼も魂喰霊もそこまで強くは無いし。
○○○
「例のアイさんに、また任務を断られてしまいましたか」
と大聖女が円卓に並べられた書類をみてため息をつく。
中央教会では、枢機卿を含め、会議が行われていた。
遅々とし浄化の進まなかった地下墓地のうち、特に難易度が上がっていた迷宮を数ヵ所攻略してくれてから以降、指定依頼をしても丁重に断られてしまうようになったからだ。
「私以外の食べるに困っている冒険者の人を当ててあげて下さい」と。
「浅層や中間層の始めまでは、施しの意味合いが強いが......以降は、レベルの高い冒険者の力が必要であるのだが......」
「王宮の魔法使いの光魔法や大聖女さまの浄化の力が無ければ、もはや進まない段階であった地下墓地の浄化が圧倒的に進んだというのに......」
「いえ、私の浄化でもここまで早いことはありません。驚異の早さです」
深層を1日で駆け抜けるなど、全盛期の大聖女でも不可能だと彼女は思う。
「......何故急に断るようになったのか、何か報告はないか?」
枢機卿の1人が最後に任務を受けてくれた教会の司教に訊ねる。
「他の冒険者から“施し任務”と言われ、プライドを傷つけられたのかもしれません」
答えたのは、アイを迎えにきたシスターだ。
「......知らずに受けてくれていたのか、その、アイという者は?余計なことを言ってくれたものだ。そ奴らの情報は?」
書記官が書類を提示する。
その中には、教会所属の聖女の名前もある。
「愚かな。ではこの者たちに、代わってもらおう。聖女を指定し、大層な口に実力が伴っているのか、確かめさせてもらおう」
○○○
「受付嬢さん。最近、ガラウィンたちを見ませんね」
ガラウィンとは、私をクビにしたパーティのリーダー。勇者のガラウィンだ。
「教会の地下墓地の浄化護衛依頼があったはずです。もしかすると、首無し騎士が出現したのかも知れませんね。迷宮の管理者級の怪物ですので、討伐に時間がかかっていらっしゃるのかも知れません」
首無し騎士、デュラハンか。
首無し馬に乗り、高い移動力を持っている上に、光と浄化以外の魔法が効かない高位の怪物。
それならば苦戦するか。
「大変ですね。えっと、この任務を受けたいのですが」
「錬金術師向けの任務ですね。ではよろしくお願いします」
○○○
ガラウィンたちが受けたのは、別に首無し騎士の討伐任務ではない。
やや深層よりの中間層の浄化護衛だ。
しかし、沸いている死鬼や魂喰霊の数が多く、なかなか深層にたどり着けないので、任務が終わらないだけだった。
「......司祭さまから聞いたのですが、数日前まで、光魔法を連発する聖女さまがいらっしゃったそうです」
疲れ気味にガラウィンに、パーティの聖女が話しかけてくる。
「ならば、その方に依頼すれば良いじゃあないか。何故、我々に!」
「その聖女さま......突然身を引かれたらしく。他の地下墓地では、深層を1日で3階層も浄化出来たらしいので、もしかしたら、そちらに呼ばれたのかもしれません」
「そんなすごい聖女さまの後釜が、我々か。......期待されているのだろう。やるしかないか」
「はい。もしかしら......王都の大聖女さまかも知れません。あの方の覚えもめでたくなれば、私たちも王国きっての冒険者になれるかも知れませんね」
3日で中間層を1階層攻略という、まぁ普通よりは早いペースで進み、彼らは1月かけて深層までたどり着いた。
しかし、大聖女の耳には入ることはなかった。
教会としては、1/30のスピードで攻略してくれたアイを傷つけた愚かな冒険者たちという不名誉な情報だけが彼らの印象だった。
次話は11時に投稿致します