光線砲とメカドラゴン
流行りの“追放ざまぁ”“もう遅い”です。
5話完結のお話です。
お時間があれば是非お読み下さい。
テンプレどおりです。ご安心ください。
「やはり、君には才能が無かったようだな。アイくん。君にはパーティを抜けてもらう」
「......分かりました」
「離脱後7日間分の生活費だ。私物は持っていっても構わないが、パーティ経費での購入物は置いていくように」
「......はい」
○○○
冒険者。
世界各地に点在する迷宮に潜り、怪物を倒し、財宝を持ち帰り、繁栄をもたらす者たち。
多難な迷宮攻略を効率的に、そして安全にするために、冒険者は徒党を組む。
それがパーティだ。
前衛、後衛、補助、ポーターなど。
様々な立ち位置の人がいる。
私は、その中では後衛を担当していた。
○○○
“魔法使い”と呼ばれる職業がある。
魔法と呼ばれる奇跡の使い手。
魔力が尽きるまで、一方的に怪物を嬲れる後衛の華。
その魔法使いになるには、2種の前職がある。
1種は“魔術師”。
魔法という現実を捻じ曲げる奇跡に至る前の、魔力を用いて理を誘導し具現化を生業にする職業。
真理に至り、彼らは魔術師から魔法使いにレベルアップする。
もう1種は“錬金術師”。
魔力を有しない真理を追い求める学者。魔術とは似て非なる錬金術を用いて、奇跡を起こした時、魔法使いにレベルアップする。
私がパーティからクビになる前の職業だ。
○○○
騎士や剣士がレベルアップし、勇者になる。
私の所属していたパーティは、私以外に勇者が2人と魔法使いが1人。レンジャーが1人、聖女が1人に、ハイポーターが2人と、私以外が全員上級職のパーティだった。
私が魔法使いにレベルアップすれば、ギルドの売りとなる最高パーティになるはずだった。
だがーーー
「なんなのかしら。“科学者”って」
私が錬金術師からレベルアップして至ったのは、魔法使いとは違う職業だった。
○○○
元々、研究気質だった私がいたせいで、迷宮の攻略は遅々としていた。
安全第一主義だったので、低位の怪物も浅階層の罠も解き明かしながら進んでいた。
「そういうのは、レンジャーやギルドのお抱え学者に任せろよ」
とは言われていたが、本分がそちらだったのだ。
そのせいか、慎重を通り越し、臆病者のレッテルを貼られてしまっていた。
私としては、ほぼ無傷で迷宮攻略出来た方が利益にもなる、と思っていたのだが、そうなると補助職の“治療師”や“聖女”の出番が無くなる。
彼女らの受けも悪かったのだろう。
だから、何かの機会があればクビになるような気はしていたのだ。
魔法使いになれなかった私は、程よく追い出されたというわけだ。
○○○
「科学者って何だろうか。錬金術師からのレベルアップなのだから、魔法使いに匹敵するはずなんだけれどなぁ」
とか誰もいない部屋で呟く。
「......明日からどうしよう。迷宮研究が生業みたいになってたから、今更他の職業にはつけないだろうけれど。追い出された、なんて外聞が悪いから、他のパーティには入れてもらえないよなぁ」
「......単独かしらね、やっぱり」
前衛も補助もポーターも伴わない攻略、はっきり言って非効率だが、選択肢が無い。
貧乏ではお腹が減ってしまう。
「単独攻略がないわけでは無いけれども、ああいうのは、実力のある前衛職の人がやっていた。私に出来るのかしら。......あっ!」
ベッドから起き上がり、私物の中の資料の中からノートを取り出す。
「妄想を書いている暇があったら、ポーションでも作ってパーティに貢献しろ」とか言われた私の空論ノートだ。
「これなら、私でも......」
パーティをクビになった私は、意を決し、単独攻略者になったのだった。
○○○
迷宮“機械龍の砦”浅層。
伊達に長年後衛はしていない。
1人でも準備さえ整っていれば、中級迷宮浅層の低位怪物くらいは倒せる。
「本当なら貴金属を持っていないキミなんかは、冒険者には端にも棒にもかからないんだけれども、悪いねぇ」
浅層の怪物はおいしくなく、深層の怪物は難易度が高いという、不人気迷宮に私はいる。
狙いは、ここいる機械生命体たちだ。
パーティの手切れ金を、食料や野宿の道具に変え、迷宮内に簡易な錬金術のラボを作り込んだ(と言っても、布のテント内に炉と折り畳み机とレンチなどの道具を広げただけだが)。
私は、以前戦った機械龍のブレスの再現を試みている。
この迷宮の管理者、機械龍は光り輝く熱光体を吐く。
この迷宮の機械生命体の到達点である機械龍。ならばその下位存在たちにも、ブレス発生装置の芽くらいあるに違いないと考えたのだ。
それが、空論ノートに記載した、人間がドラゴンブレスを使うという奇跡の再現方法。
“擬似熱光体発生装置”とそれに指向性をつけるための“熱光体照射銃”。
「さあ!倒して分解してくっつけてを繰り返していきますよー!私の食料が尽きるのと装置の完成、どっちが早いか勝負です!」
○○○
迷宮潜泊5日目。
「で!出来たー!」
以前の私なら出来なかった空論装置が、現実の物になった。
「科学者って職業は、こういう奇跡が使えるのかな?」
なんて思いながら、出来上がった装置を撫でる。
装置は背中に背負える大きさに収まった。
子どももいないのに、丁度良い大きさだからと、ランドセルバッグを購入し、調整した。
大の大人がランドセルバッグを背負っているのは、我ながらシュールだ。
ランドセルバッグから覗かせる排熱ノズルもなんだか恥ずかしい。
そのランドセルバッグからチューブが伸び、先が筒型になった金属製のボウガンがある。
安全装置を解除し、引き金を引けば、ブレッサーから超高速の熱光体が発射されるーーー
ーーーはず。
出力調整も何もしていないため、どの程度になるか分からない。
まずは試し打ちだ。
○○○
迷宮“機械龍の砦”深層。
しばらく浅層の低位怪物を倒し続けていたせいで、警戒され、怪物に会うことなく深層にたどり着いてしまった。
そこには“レッサーメカドラゴン”と戦っているパーティがいた。
「くそっ!浅層に怪物がいないからと、潜り過ぎたか!」
「やはり、この迷宮の怪物は強い。装甲が貫けない!」
「耐火、耐電です!魔術が通じません!」
「早く撤退しないと!アベルが血を流し過ぎてる!」
「そんな隙、ないでしょ!」
6人パーティの前衛の1人が怪我を負っているようだ。
撤退したくとも、隙が無く、倒すのが困難なようだ。
人助けにも試し打ちにもなる。
2度美味しいと頭の中で算盤を弾き、援護しよう、結論を出した私は、遠くからブレッサーの引き金を引いた。
○○○
閃光で目が眩む。
オゾンの匂いが立ち込める。
銃身が発熱し、背中も少し熱い。
KABOOOON!!!
凄まじい破裂音と空気の引き裂かれる音が、迷宮内を響き渡る。
閃光が収まり、視力が戻ると、そこには上半身がなく、接面が融解し、蒸気をあげているレッサーメカドラゴンだったものが立っていた。
射線上の向かいの壁は赤く、クレーターになり、熱を発していた。
「......銃身解けてない、わよね?これ、排熱ノズル増やして無かったら、内部から爆発して、私死んでるわね」
と、自分の設計に助けられたことに気づいた。
助けたパーティが私に気づいたようだ。
だが、この装置はまずい。
リミッターも何もないこんな機械を見せたら「俺たちごと消すつもりだったのだろう」と言われること必至だ。
私を擁護してくれるパーティもいない。
とりあえず逃げることにした。
○○○
逃げて2日。
キャンプに戻り、出来る限り引きこもっていた。
その間、出力調整を行い、大量殺戮兵器から光の矢を射出するボウガンくらいにデチューンが終わったので、久々に迷宮から地上に出た。
買い込んでいた食料もなくなったし、身体もだいぶ汚れ、臭くなっている。
ランドセルバッグを背負った流浪の民という風貌だ。
テントの布をローブ代わりにし、ランドセルバッグを隠して、町へ戻った。
極度に汚いと、公衆浴場も使わせてくれないので、とりあえず、川に行き、炉で湯を沸かして清拭をしよう。
そんなことを考えながら、歩いていたら向かいから、見知った顔の集団が歩いていた。
「アイか。......だいぶ汚いな」
「匂うぞ」
軽蔑の混じった視線とトーンだ。
分からないでもない。
元いたパーティの7人だ。
「......お風呂入る余裕なくて」
「だが、すでに手切れ金は渡してある。我々は頼るなよ」
「出て行ったら、すでにこの様か。お前なんかが釣り合うパーティじゃなかった、ってことだ」
「......分かっています」
なんだか惨めだな、私。
「お前の代わりの人材を見つけることが出来てな。今から勧誘に行くところだ」
「魔法使いの中でもかなり高位の方のようでね。あなたなんかとは比べるのも失礼なくらいなの」
「じゃあねぇ、アイちゃん」
そう言って、彼らは“機械龍の砦”の方へと向かっていった。
もう私の代わりが見つかったのか。
やはり、世界は狭い。
助けたパーティの魔法使いの人だろうか?あの人は魔術師だったと思うけれども。
もしかしたら、最深層に別のパーティがいたのかも知れない。
どのみち、魔法使いではなく、科学者の私には何の関係もない話だ。
早く汚れを落として、お風呂に入ろう、と考えて、彼らと反転し、町へと歩を進めるのだった。
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