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トロフィーは、一錠の

作者: りさこりさこ

≪参加者インタビュー≫


Aさん(20代男性 飲食店勤務)の参加動機


とにかく銃を撃ってみたかったんだ。本物の銃を。

サバイバルゲームは好きで、たくさんやってきたよ。元々はオンラインゲームにハマって、画面の中だけじゃ物足りなくなってきて、実践の、エアガンで撃つサバイバルゲームに移ったって感じ?

いや~最初の時は、興奮したなぁ。雑居ビルの中でやるゲームだったんだけど、ハラハラして、アドレナリン出まくった!

けど、何回かやる内にだんだん冷めてきちゃって。やっぱ、所詮エアガンじゃん? それで、また物足りなくなってきたんだ。

ぶっちゃけ、俺うまかったんだよ。銃の扱いが。いやまじで! 相手撃ちまくって勝ちまくってたんだよ。だからもっとハイレベルな手ごたえのあるゲームをしたいと思ってた。

そんなタイミングで、この話聞いたんだよ! 


実弾を使うサバゲーの参加者募集。


マジですごくない? 超最高じゃん。俺のためのゲームだと思ったよ。

でも、ちょっと冷静になったら、むかついてきた。

なんでって?

だって、完全にガセネタだと思ったんだよ。実弾でサバゲ―なんて、ありえねーって。どこかのバカが作った大嘘にまんまと乗せられたーって、マジむかついた。で、ガセネタ流した犯人突き止めてやろうと、いろいろ調べたら、……本物だった。


実弾を使うサバゲ―。嘘じゃなかった。


つまり、人を撃っていいってことだよ。しかも、合法だっていうから更に驚いたね。

こんなの認可しちゃって、日本はどうかしちゃったんじゃねーの?

でもまあ、よく考えたら、ありだよな。急所をちゃんと防御すれば、普通のサバゲ―と変わらないんだから。

そう考えたら、逆になんで今までなかったんだろうな? 実弾サバゲ―。

優勝?

そんなもん興味ない。目的はそれじゃないんだよ。

俺、まだ若いし。

とにかく、撃ってみたいだけ。人を、本物の銃で。それだけ。



Bさん(30代女性 会社員)の参加動機


ストレス解消です。はい。

これ以上のものはないですよ。実弾ですよ、実弾。

撃ったこと? 

ないですないです。銃を持ったことすらない。でも、一回、撃ってみたいな~とは思ってたんですよ。ほら、ハワイに行ったら、『実弾で撃てますよ~』なんて、道で勧誘してるじゃないですか。あれ見た時に、『撃ってみたいな~』って。でもあの時は勇気がなくて……。だから今回の募集を見た時、えい、行っちゃえ~って(笑)。普段、くじ運ないんですけど、今回は抽選に当たって、本当ラッキーでした。

自信? 

ないですないです。もう、参加することに意義があるみたいな? ストレスを吹っ飛ばしたいだけなんで。

バンバン撃って、バンバン撃たれまくって、日ごろのうっぷん、晴らせたらOKなんで。あ、これってまじめに優勝狙ってる人に失礼ですよね。ごめんなさい。ここだけの話ということで。

え? 怖くないですよ。

だって、ちゃんとヘルメット被るんでしょ? だったら安心です。死にませんから。



Cさん(50代 主婦)の参加動機


一人で応募すると言って聞かなかった夫を説得して、夫婦で応募しました。

ええ。本当に運がいいです。二人とも当選するなんて。夫は困った顔をしていましたが……。

どうしてって?

それは、優勝者が一人だからです。頑張って勝ち残っても、夫婦そろって優勝は無理なんですよね?

あの……今からでも規定変更できませんかね? 優勝者を二人に。もしくは、夫が優勝したら、妻も優勝みたいな……。

あ……私、めちゃくちゃなこと言ってますね。忘れてください。


とにかく、規定は変わらないんですから、覚悟を決めてやるだけです。絶対に優勝します。夫ではなく、私が優勝します。そうしなきゃいけないんです。

だってもし、夫が優勝したら……、私はどうしたらいいんですか?

夫のいない世界で、私はどうやって生きていけばいいんですか?



Cさん(60代 無職) の参加動機


再就職がね、うまくいかないんですよ。この不景気ですからね。

それに、働き手がこれだけ余ってますしね。もう八方塞がりですわ。参りましたよ。

定年制度が廃止になったとは言え、65超えたら減給になって同じ仕事させられるだけですからね。やってられないですよ。それで前の会社、辞めたんです。そしたらこの様で……。

全く……。医療技術の進化だかなんだかで、死なない体を手に入れたって、社会がこんな状態じゃ、ただの生き地獄ですよ。年寄だからと、安く使いやがって、ふざけてやがるっ! 仕事の能力は落ちとらんぞ! いやわしらは高いんだよ。時間とともに育んだ、経験ととスキルがあるんだから! 

……あ、すみません。カッときてしまいました。


ハローワークは、いつも満員ですよ。我々みたいな死ねない老いぼれから、本当に若い人たちまで。仕事の奪い合いですよ。全く……世も末だ。


今回のサバイバルゲームは、渡りに船でしたよ。是非とも参加しなければ、と!


でも、大きな誤算がありました。応募直前、妻にバレてしまったんです。

「ずるいじゃないの、自分だけ!」なんて、泣かれてしまいまして……しょうがなく、妻も一緒に応募して、二人とも当選してしまいました……。妻を巻き込んでしまった……。


もう、こうなったら優勝するしかないですよ。優勝して、一人で逝く。それしかない。妻には悪いですが、もう疲れたんです。全部終わりにしたい。どうせなら、きれいに終わりにしたいんです。

臆病者なんで、あんな自殺をする勇気がないんです。だから、優勝して、きれいに死にたい。それだけが希望です。




≪運営委員会からのあいさつ≫


この度は、当サバイバルゲームへご参加いただき、誠にありがとうございます。

100名という定員募集に、何百倍ものご応募をいただきました。ご当選され、こうして参加される方々は、本当に幸運の持ち主だと思います。


今回選ばれた方々の雄姿を拝見できると思うと、心が震えます。

当ゲームの最大の特徴は、優勝者一名に、確実で美しい“死”を贈呈することです。

それは、私たちが開発した、薬を一錠飲むことで叶います。


私たち人間が、不老不死の技術(即行型自然治癒力)を手に入れ、全ての人間に義務化されてから、30年が経とうとしています。

“死”を遠ざけることが、幸せになる唯一の道だと信じ、ようやく、ほぼ“死”のない世界を作ることができました。しかし、それが間違いだったことに、私たちはようやく気づき始めました。


死なない私たちは、永遠に続く生活のために、お金を必要以上に使わなくなりました。

終わらない未来のためには貯金しなければならないと、脅されたように、せっせと倹約しました。

その結果、市場経済は悪化の一途を辿り、多くの会社が倒産。失業者であふれかえりました。多くの人が生活するのにやっとで、結婚して家庭を持つことはごく限られた余裕がある人だけの贅沢なイベントとなりました。

これが、“死”を手放して得ることができた、私たちの幸せでした。

“死”があった時代、未婚率が多かったとは言え、ここまでひどくありませんでした。


“ゴール”のない人生が、こんなにも苦痛に満ちたものであるか、私たちはようやく理解し始めました。これではいけない。

しかし、一度手に入れてしまった“肉体の不老不死”という技術を、手放すことができないのも人間です。弱き存在です。


しかし、死ぬことは不可能ではありません。皆様ご承知の通り、私たちが“死”を手に入れるには、肉体を再起不能になるまでバラバラにするか、脳をつぶすしかありません。

近年、死を望む人たちの無残な死……率直に申しますと、肉片の山が積まれる自殺が多発するという、悲惨な状態が続いています。自殺をした方も、本当はこんな死に方はしたくなかったはず……。

私たちは、『きれいに死ねる薬』の開発を、なんとしてでも成功させるという決意で取り組み、見事に成し遂げました。


私たちが開発した薬は、カプセル一錠飲むだけで、脳機能が停止します。つまり、見た目はそのままで、脳がつぶれ、死に至るわけです。今この時代に、これ以上の安らかな死があるでしょうか?


しかし、このカプセルをドラッグストアで買うことはできません。医者が処方箋を書くこともありません。

なぜか?

国の認可が下りないからです。それは当然かもしれません。経済や人々の生活が悪化し続けていても、国は、死ねる薬を認可するわけにはいかないのでしょう。しかし、死を望む人が増え続けていることも承知している。


そこで私たちは国に、限定的な使用の申請をし、許可をもらいました。それがこのサバイバルゲームです。


優勝者、一人だけに、カプセルを贈呈する。死ぬのは一人だけです。たった一人。


サバイバルゲームは、全国ネットでテレビ中継致します。視聴者が、実弾で撃たれている参加者を見て、どう感じるかはわかりません。死ぬ権利を手に入れた優勝者を見て、羨ましいと思うのか、バカだなと思うのかも、わかりません。

でもこの、たった一つの死が、この行き詰った社会全体に、何かいい変化を与えてくれるのではないか、という我々の提案に、国は同意してくれました。藁をもすがる気持ちなのだと思います。国も国民の幸せを願っている。


人間にとって一番幸せなことは、死ぬその日まで、精いっぱい生き切ること。


ゲームはそのことを、心に刻んでもらうために行われます。



≪ゲームの説明≫


当サバイバルゲームでは、実弾を使用致します。致命傷となる、脳への損傷がなきよう、特別なヘルメットで、頭部をお守り致しますので、けして、ゲーム中に命を落とすことはありません。

ゲームの舞台は、元映画撮影所です。いくつもある倉庫の中には、かつて撮影で使われていた様々なセットがそのまま残されています。参加者の皆様は、俳優になったつもりで、このひとときを楽しんでください。


それでは、良きゲームとなることをお祈りしております。


≪第一回実弾サバイバルゲーム≫ パンフレットより抜粋


おわり


最後まで、お読みいただきありがとうございました!


実弾を使ったサバイバルゲームの、優勝賞品が『死』だったら?、というところから考えて始めたお話しです。

中にも書きましたが、『死ぬその日まで、精いっぱい生き切ること』が、わたし達生物に与えられた最高の目的なんだ、ということを感じていただけたら、とても嬉しいです。


毎月、4日と18日の月二回、短編小説を投稿しています。

よかったら、ブックマークしていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです!


次回もよろしくお願いします!!


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