朝、鳥の話し
毎日のようにベランダにやってくる、スズメたちを見て思い浮かびました。
朝の光が、木々の長い影をつくるころ、鳥たちは木の枝の上で、おしゃべりに夢中になるのが常でした。
ある山の中に大きなブナの木があります。
三羽の鳥は、とりわけこのブナの木が大好きで、毎日のこの枝にやってきました。 .
「今日は、誰かお札を納めにくるだろうか。」「もうすぐ、宝くじが発売されるそうだから、きっとあいつが来るだろうさ。」「ああ、もうその時期か。当たりはしないだろうに、気の毒になあ。」「今年はだれのお札を選んでくださるのかなあ。」
鳥たちの話しは、今年選ばれるお札の主が誰になるかに持ちきりでした。
この村では、この鳥たちがとまっているブナの木に、願い事を書いた短冊をさげると、願いが叶うという言い伝えがありました。
このブナの木に、お願いごとを書いたお札を持って、村人たちがやってきます。
何年か前に、お札を書いて宝くじの高額が当たったお爺さんは、それ以来毎年この木にまたお願いに来ています。可愛いい子供を、授かることができた村人もいます。ただ、お札の願い事がかなったのは、毎年一人のようでした。
毎日、このブナの木にやってくる鳥たちは誰がどのように願い事を叶えているかを知っていました。また、ここにやってくる村人たちが、どのような生活を送っているかも、毎日そうっと観察しています。そしてこのブナの木で、噂話にはなを咲かせているのです。
このブナの木には、鳥たちが姫さまとよんでいる木の妖精が住んでいます。姫さまは、一人で住んでいるので、鳥たちのおしゃべりを聞くのが大好きでした。お爺さんの宝くじを当ててあげたのも、可愛い赤ちゃんを授けてあげたのも、鳥たちの話しを聞いて、村人が可愛いそうに思ったからです。
でも、お爺さんは宝くじが当たってからは、何かひとが変わってしまったようです。お金のことばかり考えて、また宝くじが当たったら何に使に使おうかと考えています。
可愛い赤ちゃんが授かった村人は、赤ちゃんが賢く育つように、勉強ばかりさせています。そういうようすを見て、姫さまは、お札の願い事を叶えることが、だんだん嫌になって、最近はずいぶんと選び方が適当になりました。
「去年は一番歌が上手い者」「今年は、一番足が速い者?」
姫さまが言い出すと、鳥たちはすぐ手分けして歌が上手い者や足が速い者を探してあげました。「一番足が速いのは太郎だけど、太郎の願い事はなんだって?」「大きな家に住みたい」だってさ。「うーん、おれ、太郎の家に行ったことあるけど、ゴミだらけだぞ。どんな家にすんでも、ゴミ箱が広くなるだけじゃないか?」「姫さま、またがっかりするんじゃないかなあ。」鳥たちは、寂しそうな姫さまが心配でたまりません。
「そうだ、陽がいた。陽に願い事を書いてもらおうか?」「陽って、絵描きの兄さんだろ。」「俺たちの絵も、この木の絵も、よく書いてたじゃない。」「陽はこのブナの木が、お札を下げているのがいやみたいだよ。」
陽は子供のころから、このブナの木に登って遊ぶのが大好きでした。木の上で昼寝をしたり、木にとまっている鳥たちを絵に書いて過ごしていました。でも、このブナの木にお札を下げてお願いごとをする人が増えてからここには来なくなっていました。
「陽をどうやって連れてくるんだい?」
「俺様に、まかせなさい。陽は頭がいいからわかってくれるさ。」
毎日のように、陽の家に行っては、庭に撒いてくれた雑穀を食べてきた、太った一羽は陽のことが大好きでした。それから、毎日ブナの木の葉を一枚くわえて、陽の家の縁側においておきました。1週間経った頃、山の中のブナの木に、陽がやってきました。ブナの木にとまっていた鳥たちを見て、不思議そうにつぶやきました。「俺の家に、なんで葉っぱがやってきたんだろう。」ブナの木を見上げて、じっと木を見つめ立っていました。ブナの木には、いつものように、お祭りの日に村人たちが書いたお札が下がっています。風が吹くたびに、ブナの葉っぱがサワサワと音を立てて、揺れています。見ているうちに、小さい頃、毎日このブナの木で、この音を聞いて絵を描いてきたことを思い出しました。
「そういえば、ずいぶんここにきてなかったなあ。」ブナの木は、昔に比べて少し葉っぱが少なくて、元気がないように思いました。
太った鳥の仲間の一羽が、新しいお札を陽の上に落としました。陽は、自分の上にひらひらと落ちてくるお札を受けとりました。お札と、飛び立つ鳥の姿を見て、陽は思いました。「おまえたちは、俺にお札を書いて欲しいのか?」
しばらく考えて、陽はお札に書きました。
「このブナの木が、いつまでも枯れずに成長していきますように。このブナの木が、皆に大切にされますように。」
鳥たちは、それを見て一斉に嬉しそうに歌いだしました。ブナの木も、枝を伸ばして生き返ったように、揺れています。陽はブナの木に言いました。「また、僕がここに来てあげるね。」
鳥たちは、安心した様子で、またいつものおしゃべりを始め、姫さまは嬉しそうにおしゃべりを聞いています。
初めてて投稿します。続は途中で間違えて投稿してしまったので、しょうがなくつけました。パートに出る前の時間に、書いています。読んでくださったら、嬉しいです。