第九十五話 現人神一行、村へと向かう。
「それでは御一行、ご武運を!」
「「「ご武運を!」」」
昨日のメシア祭りを終え、狼男達の配属先が確定し、各村へと送り出した。
白夜達はというと、その部隊の一つに身を置き、早速目先の危険を退けるべく、ゴブリンが出たという村――トルタ村へと向かう。
白夜とコウハクは狼形態となったギンの背中に乗り、イルミナは空をふわふわと飛び、クロヌスはギンと同じく狼形態となり、走っている。
狼男達の走る速度は早い。
時速四十キロメートル以上は確実に出ているだろう。
流れ行く景色の速度が自動車と比べても遜色ない。――イルミナはそんな速度にも関わらず、余裕そうにふわふわと飛んで着いてきている。
「おぉ〜早い早い。コウハク。振り落とされんように、しっかりと掴まってるんだぞ」
白夜はギンの背中にガッシリとしがみ付き、体をかがめて背を低くする。
「はいっ! 主人さま!」
するとコウハクはギュッとしがみ付く。――白夜の背中に。
「……あっ!? コウハクずるい!」
イルミナがギンの隣にまで飛んでやって来て物議を唱える。
「ふふん! これは必要なことなのです! 主人さまにちゃんとしがみ付いていないと、落ちてしまいますからね!」
コウハクは鼻を「ふふん」と鳴らし、離れる気は全く無いようだ。
「……いや、おいコウハク。ギンにしがみ付けよ。俺がもし落ちたらお前も落ちるだろ」
「そうそう! 危ないからさっさとハクヤさんから手を離して、ちゃんとギン君に捕まらないと!」
「何をおっしゃいますか! 主人さまが落ちてしまった際、わたくしがクッションの代わりとなって衝撃を和らげる必要があるでしょう!」
「……お前に衝撃吸収性能なんてあるの?」
「ぷっ! あはは! コウハク貧相な体してるもんね〜」
「ぐはっ!? そ、それは――」
「お二方……移動中に喋っていると――」
ガチンッ!
「「……つっ!?」」
「……? どうしたの? 二人ともすごく痛そうな顔してるけど……」
「「……ひひゃをふぁんふぁ」」
「……あぁ、なるほどね。御愁傷様」
「申し訳ないが、どうしても多少揺れてしまうからな。あまり喋らない方が良いぞ」
「「……ひゅみまへん」」
その後、二人共ほとんど言葉を喋らず、一時間程狼の背中に乗って移動し、ドンブ村と変わらない規模の村――トルタ村へと到着するのであった。
その間コウハクは白夜の背中にしがみついたままであった。
尚、到着してもしがみ付いたまま中々離れないので、無理やり引き剥がすのに少々苦労する白夜であった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
白夜達六人はトルタ村のメシア警察署内の応接室に集まっていた。
他のメシアメンバーは、他の部屋やメシア郵便局内で業務が開始できるように様々な準備を行わせている。
ここでは目先の驚異の排除――近隣の山の森からやってくるゴブリンについての会議を開始していた。
白夜、コウハク、イルミナ、ギン、クロヌス、そしてトルタ村の村長を招いて六人で会議する。
「我々村人でも追い払えるくらいで、件の吸血鬼ほど恐ろしい奴らではありませぬが、数を揃えて攻めてこられると厄介ですじゃ。その数が三桁程になると、もはやこの村では対処出来ますまい」
嗄れた声でトルタ村の村長が語る。
「なるほど……ゴブリンが襲って来たことについて、詳しく教えてもらってもよろしいでしょうか?」
白夜は村長に問いかける。
すると、村長の話から三つのことが分かった。
ゴブリンの数は二十匹程度で、村人達がまだ追い払える程度の規模であったこと。
畑を荒らして作物を奪い、持ち去っていくこと。
怪我人は出ておらず、向こうにも支障は与えられていないこと。
「……ふむ、なるほど。目的は食物だろうか」
ただ人間達を襲うのが趣味な奴らなら、畑よりも家や人を襲うだろう。
ゴブリン達にも生きていくための、何か退っ引きならない事情があるのかもしれない。
「その可能性は高いかと。最近は抗争のせいで山や森も以前より危険度が増しておりますからな。罠や兵が潜んでいるなんて噂もあるようですし。狩りや木の実の収穫に赴くことが出来なくなったのかと」
クロヌスが補足説明をしてくれる。だとすると――
「……ゴブリン達は生活圏を広めようとしている可能性もあるな」
もう森だけで住むことが出来なくなりつつあると判断した可能性もある。
ならば新たな場所へと移住するのが、種の存亡の危険を防ぐ普通のやり方だろう。
「……と、いうことは……まさか……!」
村長がワナワナと震える。
「そうですね。この村を乗っ取るつもりかもしれません。もしかすると食物を奪いに来た体を装い、この村を見定めていたのかもしれませんね」
コウハクがキッパリと答える。
(なんてこった……また面倒なことになって来たぞ……)
最初は人間にちょっかいを出してくるいたずら者をこらしめる感覚で来ていたのだが、向こうはどうもそれだけでは引き下がりそうにもない可能性が浮上してきた。
種の存続の危機となると、向こうも必死だろう。
一斉に攻め込んでくる危険性は大いにある。
「……これは早急に手を打つべきだ。皆、会議を始めるぞ」
白夜達はゴブリン対策会議を開始するのであった。




