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第八十九話 現人神、メシアを創造する。






 一つ。話をちゃんと聞くこと。


 二つ。白夜を無理やり襲わないこと。


 三つ。皆が仲良くすること。


「これが今の所考えられる家訓だ。これらを常に頭の念頭に置いて置くように」


 白夜はきっぱりと宣言する。

 昨日の夜のような悲劇を起こさないためだ。

 制圧するためとはいえ、イルミナに苦痛を与えてしまったことに対して白夜は深く反省し、白夜とコウハクとイルミナが絶対に守るべき教訓――家訓を制定した。


「ふぁい……わかりました……あるじしゃま……んむ」

「ふあぁ……わかったよ……はくやしゃん……むにゃ」


 しかし二人はまだ寝起きでロクに話を聞いてそうにない。


「……ちなみに、守れないようならしかるべき“罰”を与える」


 すると二人の体がビクンと跳ねる。


「撫でない触れない触れさせない近づかない近づかせない目を合わせない喋らない一緒に寝ない他にも色々――」

「「かしこまりました!! しかと記憶に焼き付けておきます!!」」


 一気に覚醒した二人はバッとベッドの上で頭を垂れ、土下座をする。


「……分かってくれたならいいんだ。さて、じゃあ後はここまで運んで来てくれたクロヌスとギンにお礼を言っておくんだぞ?」


 昨日の夜草原で倒れたはずの白夜は、朝気がつくとギンの家のベッドで寝ていた。

 イルミナが白夜を探して飛び出して行ったことを心配し、クロヌスとギンが様子を見に来ていたのだ。

 そこで倒れた白夜にわんわん泣きながらしがみつくイルミナと、地に倒れ伏せて満身創痍だったコウハクを目にしたのだろう。

 ――よくあの場を平定してここまで連れて来てくれたものだ。


「はい。かしこまりました」

「もちろん。迷惑かけちゃったもんね」

「うむ。そして俺の方も謝らないとな」


 白夜はそう言って二人に対して頭を下げ、謝罪する。


「無理して悪かった。この体にまだ慣れてないからな。生前より働き過ぎたのが問題だった。やはり限界はあるものだな」


 この体は生前に比べると随分と動きやすい。

 頑丈だし力もあるし疲労をあまり感じない。

 だが、体はそうでも精神はそれに付いて行かなかったようだ。

 磨耗した精神はやがて体に影響を出し始め、遂には事切れてしまったのだ。


「本当ですよ主人さま。わたくしも一度経験のあることですから強くは言えませんが……無茶はするべきではないです」

「……あたしの罪を正当化するつもりはないけど、本当に気をつけてよね。ハクヤさんがもし死んじゃったらと思うと……あたしどうなるか分かんないもん」


 二人は曇った表情を浮かべる。かなりの心配を掛けさせてしまったようだ。


「……そうだな。ごめんな二人とも。これからは無理せず生前みたいに休み休み行動するよ」






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「ふむ。この村はこの辺りで良いんだな?」

「はい。ハクヤ様」

「……うむ。よし。これで確認は済んだな。じゃあ創造つくるか。コウハク。設計図と地図を俺の<創造クリエイト>にリンクさせてくれ」

「かしこまりました」


 白夜は前夜くたびれる程の思いをしたが、起床後は体調がいつも通りに戻り、いつも通りの朝の日常を過ごした後、スキル<創造>を使用して各村に『メシア警察』と『メシア郵便』の仕事場と、村の間に中間地点を作成する準備を行っていた。

 地図を確認し、建設予定地をしっかりと把握する。


 回数制限はあれど、やはりこのスキルは強力だ。――個数の制限というものが感じられない。

 さすがに限界はあるのだろうが、あの変な名前の魔法石――ミスリルを創造した時だって、いくらでも作れそうだった。

 あの時は三十個あれば良かったので、余裕を持たせて五十個程創造したのだが、なぜかイルミナとクロヌスがギョッとし、コウハクとギンは「お〜すごい」的なことを言っていたのが懐かしい。


 そんなわけで創造したいものと創造する場所がある程度分かってさえいれば、一日一回限りではあるがいくらでも創造することが可能だ。

 早速白夜はスキル<創造クリエイト>を発動する。


「『メシア警察』、『メシア郵便』を近隣の村、各場所に創造する。

 同時に村と村の間に中間地点も創造する。

 スキル<創造クリエイト>発動!」


 すると、ドンブ村の空き地に眩しい光の立方体が姿を現し、やがて光がパッと消える。

 そこには四角形の形をした白塗りの――まるで大きな豆腐のようなごく一般的な家屋が二つ姿を現していた。


「おぉ〜すごいでござるな。あっという間に出来てしまったでござる」

「さすがはハクヤ様ですな。この質素な見た目ならば、何も知らぬ者からすればここが重要拠点などとは分からぬでしょうな」

「ん〜だけどさぁ……ちょっと地味過ぎない?」

「何を言ってるんですか。目立ち過ぎるのはよろしくないでしょうに。忘れたのですか?」

「む〜そうだけどさ」


(地味なのは俺があまり家について知らないからなんだがな……)


 一高校生にはお洒落な家屋などあまり想像出来なかった。

 生前はこのくらいの家に住んでいたことも相まり、白夜の想像範囲ではこれが精一杯だ。


「……まぁ、資金が増えたら後で建て替えることも可能だろうさ。まずは見た目がアレでも、しっかりとした基礎を作ることが大切だろう。ゲームでもそうだったし」

「さすがは主人さまです。正におっしゃる通りかと」

「……まぁ仕方ないか。最初は嫌に目立つ必要ないよね」


 コウハクは白夜のことを全肯定し、イルミナは少々不満そうにしている。 

 するとギンが口を開き――


「……ハクヤ殿。思ったのでござるが、狼男達の家もそのスキルで作れば良かったのではないでござるか?」

「なるほど……確かにそうですな」

「あ、確かにそうだね」

「……」






 ――あっ。確かに。






 個数制限が無いのであれば、各々に対して家を作ってやることも可能だろう。

 ごくごく当たり前のことだ。

 なのにすっかり頭からすっぽ抜けてしまっていた。


(なんてこった……あんなにドヤ顔で司会進行してたくせに、そんな考えさえ頭に浮かばないとは……)


「……やれやれ。まだまだですね皆さん」


 するとコウハクが「はぁ」とため息を吐き、首と両手を左右に振りながら呆れつつ答える。


(……え?)


「……? どういうことでござるか?」

「え? どゆこと?」

「それは……どういうことですかな?」


 皆もコウハクの言っている意味が分かっていないらしい。――白夜も同じく分からないので、説明が欲しい所だ。


「簡単なことですよ。主人さまは……その程度のことは既に分かっていたのです」


(……ええええ!? な、なんだってー!?)


 白夜が内心でそう思っていると、他の面子はさらに不思議そうな表情を浮かべる。


「ど、どういうこと? 分かってたなら、さっさとその案を出せば良いじゃん。そうすればわざわざ村人さんの家にお世話になることもないんじゃ……」

「確かにそうすることで、狼男達一人一人の住居をほとんどリスク無く得ることが出来るでしょう。但し……もしその案を早く出してしまっていたら、ここに居る皆さんから数々の名案は浮かばなかったのではないでしょうか?」

「た、確かに……組織の拠点を周りの住居と同じように質素に作るという案、狼男達を村人達の住居に住まわせるという案は出なかったでしょうな」

「その通りです。そして『メシア』の目的や、わたくし達が旅をしている目的を忘れてはいませんか? それをいち早く達成するために、主人さまはそのことを口に出さなかったのですよ」

「『メシア』の目的……はっ!? ま、まさかハクヤ殿は……助け舟を出されたのでござるか!?」


(……は? なに? わけわかんないんだけど?)


 白夜は尚もコウハク達の言っていることに理解が追いつかない。

 するとクロヌスが何やらハッとした表情になり――


「……なるほど! 我々『メシア』の最終目標は『共存』。人間も魔族も共に生き、共に助け合い、共に分かち合う世界を作るのが目標です。ハクヤ様はその手助けをなさったのですな」

「その通りです。主人さまは世界平和のため、まずはこの村を人間と魔族が共存できる場所にする為に、あえて村人達の家に狼男達を溶け込ませる手段を選ばれたのです。そうすることで、個人で家を持ってしまうより村人達との交流が多くなるでしょう。交流を深めることによって、信頼関係というのは芽生えます。……この他にも主人さまの策は数多くありますよ?」


(ええぇぇっ!? 数多くあんの!?)


 白夜は内心絶叫しているが、表情にはなんとか出さずに済んだ。


「な、なんと……!? まだあるのでござるか!?」

「うっそぉ!? まだあるの!?」

「……神算鬼謀の持ち主とは、正にハクヤ様のことでしょうな」

「わたくしでも全てを把握しきることなど到底できません。さすがは主人さまです!」


 すると皆が皆、白夜のことをキラキラとした尊敬の眼差しで見つめてくる。


(うぉっ!? 眩しっ!)


「お、おう……? そうだろ?」


 白夜は数少ない自分の尊厳を守るため、そう短く言い切り、また一つ嘘を重ねてしまうのだった。






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