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第八十八話 現人神、困惑する。






(……すごいなコウハク。あれ程の速度の突進を利用した右ストレートを一瞬で身を屈めてイルミナの懐に潜り込んでかわし、すかさず自分の背中をがらんどうになったイルミナの胴体に当て、左手で襟の部分を掴みながら地面の方角へと引っ張り、右手で下腹部を上方向に押し上げて力の進行方向を地面へと向かわせ、そのまま叩きつけやがった……)


 白夜はコウハクがイルミナを背負い投げする様を、さながら解説者の如く心の中で語っていた。


「……っ! ハクヤさんっ!」


 イルミナは自身が会いたくてしょうがない対象を目の当たりにし、もがいて体を動かそうとするが、コウハクの拘束は剥がれそうにもない。


「うぅっ! 離してっ!」

「……だから、拘束している者――わたくしに言った所で離すわけないじゃないですか。まだ危険が残っているかもしれないというのに。アホなんですか? 貴女」

「そうだぞイルミナ。少し反省するんだ」


 そう言って白夜は組み伏せられているイルミナに対して近寄り、イルミナの目前にまで迫り腰を落とす。

 すると――






 ビシッ。






 白夜はイルミナの頭にチョップを繰り出す。


「あたっ!?」


 ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ。


 その後も、何度も何度もイルミナの頭にチョップをする。


「――いつっ! あたっ! い、いや! やめて! やめてよ! 叩かないでよ!」

「……」


 ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ。


 しかし、白夜はやめない。


「あたっ!? ちょ、ちょっと! ごめん! 謝るから! 許して! 痛いから!」

「……」


 ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ。


 それでもなお白夜はやめない。


「あ、あうっ!? や、やめて……! ほ、ほんとにごめんなさい……! 許して……! お願いだからもうやめてよぅ……ほんとに痛いの……ぐすっ」

「……」


 ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ。


「ひうっ!? い、いだいっ! いだいっでばぁ! ……うぅっ! ぐすっ! うえええん! はぐやざん! ごめんなざい! ゆるじでぇ! もうだだがないでよぉ! うええええ! やざじぐじでよぉ! ごんなの嫌だよおぉ! ふええぇぇ!」


 イルミナはまるで子供のように泣き喚き、顔を涙でグシャグシャにしながら白夜に対して懇願する。


「……よしよしイルミナ。何回も叩いてごめんな」


 すると白夜はイルミナにチョップを繰り出すのをやめ、代わりに叩いていた箇所を宥めるかのように優しく――優しく撫でる。


「ぐすっ……ふえぇ……ひっぐ……ごめんなざい」

「よしよし。さっきまでのことは、今の体罰で全部許そう。……だけど、これで分かったか? 本人の意思に反して、無理やり拘束されて……乱暴される者の気持ちが」


 白夜はイルミナの頭を撫でつつ、諭すように語る。


「ぐすっ……分かった……ひっぐ……すごく、辛い……」


 イルミナは地面に取り押さえられたまま短く返答し、小さくコクンと頷く。


「……そっか。よし。分かってくれたなら良いんだ。もう拘束は解いていいぞコウハク」

「かしこまりました」


 コウハクは白夜の命令に従い、イルミナの両手を解放し、馬乗りになった状態から身を退く。


 白夜は倒れているイルミナの方へ少し前かがみになり、手を差し伸べ、起き上がるのを手伝おうとする。


「……ほれ、立てるか? 手を貸そう――」






 ギュッ。






 すると瞬時にイルミナが白夜の体に自らの身を密着させ、抱きつく。


「って、ちょ、お前――」

「あ、貴女! また地面に組み伏せてやりましょうか――」






 うええええええええええええええええ!






「ごめんなざいいいい! はぐやざん! あだじのごと……ぎらいにならないでええええ! みずでないでええええ! ぐすっ! ひっぐ! うええええ!」


 イルミナは白夜の胸に顔を埋め、多量に涙を流しながら自らが嫌われ、見捨てられることを恐れ、必死に――本当に必死に懇願する。

 さながらそれは小さな子供が父親に悪さをし、怒りを買ってしまったことに対して必死に許しを請うかのように。


「……お、お〜よしよし。やり過ぎたな。痛かったよな。ごめんイルミナ。お前のことを嫌ってなんかいないから、許してくれ」


 白夜はイルミナの背中越しにイルミナの頭に右手を伸ばして撫でる。

 左手はそのまま背中に回し、ポンポンと子をあやすかのように優しく叩く。


「ぐすっ! ぢがうのぉ! はぐやざんに、ずごじでもぎらわれるのが、づらいのぉ! ひっぐ! うえぇ……」

「……そうかそうか。大丈夫だ。少しも嫌いになってなんかいないさ」


 白夜はイルミナを宥め続ける。

 すると、イルミナがグシャグシャになった顔を白夜に向け――


「ぐすっ……ごめんハクヤさん……少し落ち着いた。あたしのことは、コウハクの次でも、二番目でも、三番目でもいい。だけど……お願い。あたしを見捨てないで……一緒に居るだけでいいから……」


 と、つらつらと述べる。






「……何言ってんだお前。そんなこと出来るわけないだろ」






 しかし、白夜はイルミナの言ったことを否定する。

 イルミナはその言葉に対し、全身が凍りつくかのような錯覚を覚える。


(――っ! や、やっぱり……! ハクヤさんは私のことなんて……)


 等とイルミナが思っていると――


「……俺はコウハクもイルミナも、同じくらい大切に思っているぞ」

「……ふぇ?」

「んなっ!?」


 ハクヤがそう宣言し、二人は驚く。


「だから、お前は二番でも三番でもなくて一番だ。一緒に居るだけなんて、寂しいこと言うなよ。いつもみたいに皆で笑って、泣いて、喧嘩して、仲直りして、また笑えば良いじゃんか」


 白夜はイルミナをギュッと抱きしめる。


「それにイルミナ。俺もイルミナのこと、愛してるぞ?」

「――えっ!?」

「ぐはああぁぁっ!?」


 イルミナは思わぬ言葉に頭の理解が追いつかなくなり、体が震え、パクパクと餌を求める鯉のように口を開閉し、パニック状態に陥る。

 コウハクはあり得ない言葉を耳にし、まるで大ダメージを受けたかの如く腹部を両手で抑え、体が前のめりにくの字に曲がる。

 そしてそのまま下半身が膝から崩れ落ち、そのまま上半身もパタリと地面に預ける。


「……え? コウハク? どした?」

「ぐ、うぐぅ……! 主人さまが……イルミナに対して……わたくしよりも先に……『愛してる』と……そ、そんな……! ぐふっ」

「お、おい!? コウハク!? しっかりしろ!」

「ハ、ハクヤさん!? さっき……その……あ、あたしのことを『愛してる』って言ってくれたよね!?」

「え? 今それどころじゃ――」

「ねぇねぇ! 言ってくれたよね!? ねぇねぇねぇねぇ!」

「んああ! もう! 言ったっての! それよりもコウハクがまずい――」

「――ふあぁっ! いやったあああああ! いよっしゃあああああ! 嬉しいよおおおおお!」

「んぎゃあ!? うるさい! 耳の近くで叫ぶな! 抱きつく力を強めるな! ちょっと静かに――」

「ねぇねぇハクヤさん。そ、その……もっかい言って?」

「あぁん!? いきなり静かになってんじゃねーよ! だから離せって言ってんの! コウハクがなんかまずそうだから――」

「えへへ……幸せ……あたしのことを愛してるって……」

「お、おう……? 耳大丈夫か……? まぁそりゃ良かったな。でも多分それ父性――」

「じゃあさ! じゃあさ! ……さっきの続き、しよ?」

「……は?」

「……んもうっ! さっきの続きったら続き! ……女の子に言わせる気?」

「……あぁ、なるほど。理解した。さっきの続き、だな? お望みとあらば、いくらでもやってやろう」

「――えっ!? や、やだ! ハクヤさんったら! そんな激し――」






 ゴチンッ!






「あたっ!?」

「……さっきの続きで、少し強めのチョップだ。いいから落ち着いて俺の話を聞け。まずはコウハクが――」

「――うぅっ! ひぐっ! うああああああん! ハクヤさんがまたぶったあああああ!」

「……」

「あ……主人さまが……わたくし以外の女を……」

「……ちくしょう」






 ちくしょおおおおお! どうしろってんだよ! このバカ娘共おおおお!






 白夜の溜めに溜めた鬱憤が解き放たれ、元々は静寂であったはずの草原に高々とその叫びがこだますのであった。






 ドサリ。






 そして白夜はその叫びを最後に事切れ、地面へと全身を預ける。――元々疲労した体に鞭を打って動かしていたのだ。

 もはやピクリとも体が動きそうに無かった。


(あぁ……くそ……もう限界、か……)


 意識はブラックアウトし、既に五感は感じられない。


(今頃……イルミナはわんわん泣いてるだろな……まぁ、もう宥めるのは無理……か)


 そして思考も――


(あいつらちゃんとしつけとかないとな……朝一番に……)


 そう思った後、ブラックアウトするのであった。






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