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第八十七話 真祖、幼女と相見える。






(もうっ! もう少しだったのに! ほんと邪魔なんだから!)


 イルミナはコウハクに蹴飛ばされた方向へと飛びながら森の中にまで逃げ込み、思考を巡らせ転機を伺っていた。


 瞬時に<ダークオーラ>を腹部に纏い、防御結界を展開していたにも関わらず、それを貫通してダメージを与えてくるのだからコウハクの蹴りは凄まじい。

 もし防御結界がなければ、今頃腹部に風穴が空いていたかもしれない。

 それほどの威力を醸し出していた。


 しかし、それでもイルミナは問題なかった。

 咄嗟に飛び退きダメージを減少させたこともそうであるが、防御結界や持ち前の防御値等によって、ダメージとは言っても打撲にも満たず、とっくに自らの種族特性<自動回復(大)>によって完全に回復している。

 後はコウハクのことをなんとかし、白夜に襲いかかれば良いだけの話であった。


(取り敢えず、様子を見に行かなきゃ。二人が一緒にいる場合、こちらに勝機はない。上手く分断させないと……)


 そう思いながら元居た草原にまで飛んで行く。

 木に隠れ、遠目で元居た場所を確認すると――まだその場所には二人の姿があった。


(むむむ……まだ二人居るんじゃ到底敵わないな……どうにかしないと)


 しかし、なにやら様子がおかしい。

 二人はお互いに向き合いながら、何やらガミガミと口論をしているように見えた。


(……まさか、仲違いしてるの?)


 二人はしばらくの間、あーでもないこーでもないと言うような様子で激しく口論をし、やがてそれがプツリと止まる時――白夜がスタスタとその場を去って行った。

 白夜はイルミナから見て左方向の森へと入って行き、姿を消す。

 その場に残ったのはガクリと頭を落としたコウハクのみであった。


(……チャンスね。今のうちにとっととやっちゃいますか)


 イルミナはそう思い、その人物の元へと飛んで行く。

 イルミナの大切な、大事な想い人であるその人物の――付き人の方へと。


(ハクヤさんの方角へ行っても、またコウハクに邪魔されちゃ敵わない。……だったら邪魔な方から先に潰す。そしたら後はゆっくり、じっくりと楽しむだけだもんね)


 そして上空からガックリとまだ頭を落としたコウハクに対して声をかける。


「どうしたの? コウハク。もしかして、ハクヤさんに振られちゃった〜?」


 イルミナは勝ち誇ったかのような、愉悦に満ちた表情を持ってして語りかける。


「……やはりまだ生きてましたか」


 コウハクは心底恨めしそうにイルミナのことを睨みつける。


「生きてちゃまずかった〜? 結構痛かったんだよ〜? 死んじゃうかと思った〜」

「はっ。欠片も思ってないくせによく言いますね」


 イルミナはおちょくるかのようにそう言うが、コウハクは未だ変わらずイルミナを睨みつける。


「……で、何しに来たんですか? アレならもうとっくに貴女を探して向こうの森へと向かいましたよ。ただ、見当違いも甚だしかったようですが。……ほんと馬鹿馬鹿しいお方ですね。逆に尊敬してしまいます」

「……ん〜? あたし〜? いや、コウハクがハクヤさんに振られちゃったみたいだからさ〜。慰めてあげよっかな〜って」


 イルミナはいたずらな笑みをコウハクに向け、コウハクはそれに対して心底幻滅したかのような表情を作る。


「……慰めなんて要りませんよ。今まであのような愚者に仕えていたのが馬鹿らしくなりました。……わたくしのことを愛撫しておいて、あまつさえ貴女のことも受け入れようとしたのです。ただの猿ですよあの人は。最低なクズ野郎です」

「――っ! ……ふふふ。最初に愛してくれなかったのは残念だけど、最後にハクヤさんの隣にあたしがいればいいだけだもん。……コウハク。その言動によると、貴女はもう敵じゃなくなったわけね?」


 そう言うとイルミナはふわりと地面に降り立ち、スタスタとコウハクの元へと歩み寄る。


「えぇ。あんなのもうどうだっていいです。さっきアレが言ってた『イルミナ奪還作戦』だとかどうとか言うの、聞いてみますか? 馬鹿らしくなりますよ。えぇ本当に。……最後にはわたくしよりもイルミナの方が大事だとかどうとか抜かしたくせに、わたくしに対してさも当然であるかのように協力を要請してくるのですから。……アレはちゃんとした脳が付いているのでしょうか。今度会った時、スキルを使って解析してみようかと少しばかり思いました。まぁもう二度と会わないでしょうけれど」

「……そっか〜。一番の強敵が去ってくれるなら、あたしもどうだっていいかな〜。じゃ、あたしはハクヤさんの所に行くね。そしたらそんな作戦立てなくても良くなるでしょ」


 イルミナはコウハクの横をそのまま通り過ぎ、ハクヤが歩いて行った方向へとスタスタと歩いて行く。


「あっでもさ――」


 するとしばらく歩いた先で、突然イルミナはくるりとコウハクの方へと向き――


「もう何にも関係ないあんたがっ! あたしのハクヤさんに対して! 下劣な者を見るかのような目で! 悪たれ口を叩くなああああああ!」


 そう言ってドンッと大地を蹴飛ばし、コウハクへと突進する。

 それと同時に左手を突き出し、持っていた魔法陣の描かれた紙に魔力を込め、術式魔法<ダークオーラ>レベル4相当をコウハクに対して撃ち放つ。






 バシュッ!






 しかし、その魔法はコウハクから放たれた光のような魔法により、効果を打ち消される。

 その魔法は――


(――まさかっ!? <ホーリーライト>!?)


 闇属性と相反する属性である光属性の魔法を打ち込み、こちらの魔法を相殺したのだろう。

 ただ――


(あたしの<ダークオーラ>を……相殺出来るほどの威力なんて……!)


 コウハクはこちらの世界に来てまだ間もない。

 本来魔法が行使出来るようになるにはかなりの時間がかかるものだ。

 なのに、こちらの威力を相殺する程の練度でもう使いこなせるようになっているコウハクに対し、イルミナは驚愕する。


 ならば、もう魔法は打っても意味がない。

 他属性の魔法はあまり使用したことがなく、練度も低い。

 相殺し合うだけで魔力の無駄遣いになるだろう。

 だからこそ、ここぞという時にまで魔力は温存しておくべきだ。

 となると――


(ならっ! 接近戦で、あいつをぶっ倒せばいいっ!)


 もう敵は目の前に居る。

 接近戦で相手を制せば良いだけの話だ。


 イルミナはそのまま突進している威力を使い、右拳をグッと握りしめ、コウハクの顔面目掛けてぶん殴りにかかる。






 スカッ。






 しかし、コウハクの体はイルミナの視界から瞬時に消える。

 イルミナの振りかざした右拳はそのまま虚空へとブンッと振り下ろされ、行き場を失う。

 そしてそれに気づき、それと同時に腹部に感じる衝撃に対して慌てる暇もなく――






 ズドンッ!






 イルミナは地面へと仰向けに背中から叩きつけられる。――自身が大地を蹴り、繰り出した突進の威力による衝撃を全身に諸に受けながら。


「ぐぁっ!?」


 咄嗟の出来事に対し、イルミナは悲鳴をあげ、目を瞑り、その強力な衝撃によって、二回ほど体が地面に弾む。


 全身に受けた衝撃は鋭く、重く、意識がグラつく。

 そして何が起きたのか確認する暇もなく、コウハクはイルミナをごろりとうつ伏せにひっくり返し、そのまま背中に馬乗りになり、両手を掴み、背中側に回して片方の手で押さえつけ、もう片方の手は頭を地面にググっと押さえこみ、イルミナはコウハクに完全に取り押さえられてしまう。

 ――これでは身動きが取れそうもない。


「……ぐっ!?」

「……やれやれ。物騒ですね。危ないではありませんか」


 イルミナは全身を動かし、もがき、取り押さえられている状況から何とか脱しようとする。

 しかし体格差があるにも関わらず、コウハクの拘束からはとても逃れられそうにはない。


「う、うぅっ! 離せー!」

「……せっかく暴徒を拘束出来たのに、離せと言って離す馬鹿は居ませんよ」


 コウハクは呆れながらも言葉を発する。

 イルミナはジタバタといくらもがいても、状況が変わらないどころか体力を失うだけだと観念し、大人しくなる。


「……うぅ、あたしを、どうする気……?」

「どうもしませんよ。主人さまのご命令ですから」

「……ふぇ? コウハクは、ハクヤさんのこと、嫌いになったんじゃないの……?」

「何を仰いますやら。わたくしは主人さまのお傍を離れるつもりは一生ありません。ありえません。わたくしが思ってもみない罵詈雑言を吐いてみせたのも、貴女を挑発し、怒らせ、冷静さを失わせるためです。……全て、主人さまのご計画通りのことです」


 イルミナは完全に策にはめられていた。

 コウハクのあの対応も、全ては自分の冷静さを失わせるための計画であり、取り押さえるための行動であったのだ。


 イルミナは心底悔しくなる。


「……うぅ、全部、あたしをはめるための……計画だったのね……」

「その通りです。まんまとはめられましたね」

「……そっか……悔しい。悔しいよ」

「策にはめられたことがですか?」


 もちろん相手の思うままに行動してしまっていたことが悔しくもある。

 だが、イルミナはそれ以上にとても――とてつもなく悔しく思っていることがある。それは――


「……コウハクが、そこまでハクヤさんに、信頼されてることが……悔しい」

「……」


 コウハクは何も言わない。


 イルミナは兼ねてから思っていた感情を吐露し、静かに涙を流し始める。


「……もっとあたしのことも見てよ……もっとあたしのこともかまってよ……あたしを拒絶しないでよ……嫌だよ……ハクヤさん」


 また心のうちに溜め込んでしまっていた弱音をつらつらと吐き出し、涙を流していると――






「アホか。拒絶なんてするもんか」


 突如、イルミナとコウハクの背後から声が聞こえてくる。

 その声の主は二人にとって、聞き間違うはずのない存在――白夜の声であった。






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