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第八十六話 現人神、押し倒される。






(……まずい)


 白夜の中の精神がピカピカとハザードランプを光らせ、ウィンウィンと警報を鳴らしまくっている。






 曰く――逃げろと。






(いや、逃げちゃまずいだろ……かと言ってこの状況、どうするか……)


 イルミナの見ている光景。

 それは――息を荒げながら恍惚の表情を浮かべ、地面に倒れ伏せている少女と、それを楽しむように眺めている白夜の姿だ。






 明らかにまずいだろう。






 イルミナは百二十パーセント誤解していることだろう。――白夜とコウハクが何やら如何いかがわしいことをしていたのだと。

 誰がどう見てもそう思うに違いない。


 もしここで逃げようものなら、説明を放棄しているわけなのだからそれを事実と認め、やり過ごそうとしていると思われて当然だろう。――逃げるのはまずい。

 ならばここは上手く説明して、イルミナの誤解を解く他ない。


 そんなことを数秒間の間で瞬時に考えていると――


「ハクヤさん……これは……どういうことなの……?」

「……っ!」


 イルミナから周りのありとあらゆる生命を怯えさせているかのような、すさまじい威圧感の黒い風が吹いて来る。

 恐らく自身が持つ魔力を解放したのだろう。

 それだけでも半端ではない凄まじい威力を感じる。


「ち、違うんだイルミナ。これにはその……海の底よりも深い事情があってだな……」


 白夜はついたじろいでしまい、いかにも浮気した男が言いそうなセリフをつらつらと述べ、お茶を濁そうとしてしまう。


「……あぁ、そうなのね」


 するとイルミナがふっと威圧感を緩め、いつもの感じに戻る。


(――あれ? 案外物分かりが良いな)


「……わ、分かってくれたか。その通りだ。俺はコウハクによこしまなことをしていたのではなく、ある種の実験的なことを――」

「ハクヤさんはコウハクに無理やり頼まれて、抱いてあげてたのね」


 するとイルミナが全てを悟ったかの如く、つらつらと語る。


「……ま、まぁ、抱いてはいないんだけど、近いことをした……のか?」


 白夜は極度の焦りからか、いらないことまでつい口走ってしまう。


「――っ! そう……」


 イルミナは悲痛な表情を浮かべ、下へと俯いてしまう。


「……」

「……」


(……え? どういう状況? これ……)


 白夜はまるで理解が追いつかず、何も言うことが出来ない。

 イルミナも下に俯いたまま、口を開こうとも動こうともしなかった。

しばらく辺りを沈黙が制し、じれったくなった白夜が口を開こうとすると――


「……だったら、あたしも無理やりハクヤさんのことを襲っても……いいんだよね?」

「……は?」


 突如、イルミナがそんな言葉を言ってのけた。






 ――無理やり襲う。






 その言葉に白夜は一瞬全身が凍りついたかのように動かなくなり、正常な判断力を失ってしまう。


(……あの時みたいに、抵抗虚しく、なされるがまま、まるで玩具を乱暴に扱うかの如く、ズタズタに、メタメタに、ギタギタに、グチャグチャにされる)


 あの夢を見て、また昔のこと――トラウマを強く思い出してしまっていた白夜はそう感じてしまい、それによって体が恐怖に怯え、言うことを聞かなくなり、身動きがまるで取れなくなる。


 イルミナはそんな白夜に対し、ゆっくり、ゆっくりと近づいて来て――






 トンッ。






 白夜の胸を押し、地面にドサリと倒れさせる。


「……ぐっ! イ、イルミナ……! やめろ……!」


 白夜は体が動かず、そのままイルミナに押し倒されてしまう。


「大丈夫だよハクヤさん。貴方はただ……あたしのことを、感じてくれるだけでいいから」


 イルミナは白夜の体の上にとさりと乗って四つん這いになり、そうささやく。


「……ち、ちがう……! お前は……誤解してる……!」

「違わないよ。ハクヤさんに対するこの気持ちは誤解なんかじゃない。あたしは……ハクヤさんを愛してる」

「なっ!? お前、何言って――」


 すると、イルミナは白夜の体に倒れ込み、その身を全て預けてくる。


 紅潮した美しいその顔を白夜の胸に埋め、荒く呼吸していることが胸の温もりとむずがゆさで分かる。

 黒と紫のネグリジェは少しはだけ、間から肩、胸、腹部、背中、太腿ふとももなどの、その眩しいほどに美しい肢体が姿を見せる。

 白夜の体に完全に体を預けたせいか、イルミナの体の柔らかさ、玉のようなすべすべとした肌触りというのを体と密着している部分の触覚が捉え、完全に理解していた。






 その扇情的な体験を今実際に体感し、白夜は――






 この上ない恐怖を感じていた。






(い、嫌だ! 襲われる! 掴まれる! 殴られる! 蹴られる! ――される!)


 もはや理性などどこかへと吹っ飛び、ただそんな恐怖を感じ続ける他無かった。


「い、いや――」

「大丈夫だよハクヤさん。安心して? ……すぐ終わるから」


 そう言ってイルミナが白夜のシャツに手を伸ばし、プチプチとボタンを外していき、シャツを完全に開かせる。


「――っ!? や、やめ……た、助け、誰、か――」


 白夜の声は辺りに飲まれるかのように――かき消えそうなくらいに小さく、誰かの耳に届きそうもない程であった。


 イルミナは肌着の裾に手を伸ばし、親指と人差し指の間でキュッと挟み、そのまま上に持ち上げ、スルスルと体から引き剥がそうとする。


「……っ!? な、何を――」

「ハクヤさん。あたしと一緒に……どこまでも深く堕ちましょう?」


 白夜は抵抗することもできず、ただイルミナのなすがままに、その体を楽しまれ――






「わたくしの主人さまに触れるなあああああ!!!」


 ズドンッッ!!


「――ぐふうっ!?」






 ――ることはなく、寸手の所で復活したコウハクがイルミナの横腹に飛び蹴りを食らわせ、遥か前方へと吹き飛ばした。


「――っ! コ、コウハクゥゥ! ありがとうぅぅ! 助かったぁぁ!」


 まるで小さな子供のように泣き叫びながら、白夜はコウハクにヒシヒシとしがみ付く。


「――っ! お、おぉ〜よしよし。大丈夫でしたか? わたくしが居る限り、アレに主人さまを襲わせることは決してありません。安心してください」


 コウハクは片方の手で白夜の頭を優しく撫で、もう片方の手は何やら鼻を抑え、間からは少し血が滴り落ちている。


「――っ! お、お前! 血が!」

「……あっ!? こ、これは! 大丈夫ですから! わたくし、ちょっと興奮して、出ちゃっただけですから!」


 そう言ってゴシゴシと拭い、まるで無かったことにする。


「……ちょっと興奮してってお前……ふぅ、まぁいい。おかげで落ち着いた。もう体は動く」


 白夜はスッと立ち上がり、イルミナに脱がされたシャツを羽織り、臨戦態勢を整える。――恐らくイルミナは無傷だ。


 確かにコウハクの飛び蹴りはロケットの如く凄まじい勢いではあるが、それにしてもいささか吹っ飛び過ぎだ。

 あれは威力を殺すためにコウハクが蹴る方向へと瞬時に飛び退いたのだろう。


 今のイルミナは暴走状態にある。

 こちらのことを完全に誤解し、なぜか白夜のことを性的に襲おうとしている。

 今は少し落ち着いているから何とかなるが、またマウントを取られた際はこちらもタダでは済まないだろう。――それほどトラウマスイッチは強大だ。


「さて……コウハク。協力するぞ。二人でイルミナの誤解を解き、元に戻してまた皆で一緒に帰ろう」


 そう言ってコウハクの背中をポンと叩く。


「――! はいっ! 主人さま! 主人さまのお役に立てるよう、精一杯お手伝いさせていただきます!」


 コウハクも元気よく返事をして頷き、やる気満々だ。


(お前もなんだかんだ言って、イルミナのこと大切にしてるんだな)


 白夜もうんうんと頷き――


「よし。それじゃあ作戦を伝えるぞ。まずは――」






 白夜達は『イルミナ奪還作戦』を開始するのであった。






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