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第八十四話 現人神、愛を知る。






「主人さま……これは古傷をえぐるのが目的では無いのですが……あの時何が起きたのかお聞かせ願えませんか? もし話すのが辛いのであれば、無理にとは言いません」


 コウハクは白夜に問いかけて来る。――あのこととは例のあの記憶のことだろうか。


「……いや、やめておいた方がいい。お前が良い気分にはならないだろうからな」


 白夜は断っておく。

 あのことはあまりにも刺激が強すぎる。

 白夜はもう大して問題無いが、これ以上コウハクを悲しませたくはなかった。


「……わたくしでは、支えになりませんか?」


 するとコウハクが悲痛な表情を浮かべ、問いかけて来る。


「……わたくしは主人さまの支えになりたいです。喜びを共有し合い、悲しみを共に分かち合いたいです。わたくし達は……一心同体なのですから。やはりわたくしではだめでしょうか?」

「……コウハク」


 コウハクは白夜の悲しみ全てを一緒に背負ってくれようとしているのだろう。――どこまでも健気なやつだ。


「……よし。分かった。あまり詳しくは話さずに、端的に説明するとしよう。……そうだ、その前に一つ話しておこう。俺にはある秘密があるんだ」


 白夜は右手の人差し指を一本立てながらコウハクへと向け――


「俺には……ある障害が残っているんだ。今も……な」


 そして、白夜の過去を語り始めた。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「――というわけで、こんな障害が残っちまったんだ。どうだ? ちょっと幻滅したか?」


 するとコウハクは口元に両手を添え、ワナワナと震えている。


「……許せない」

「……へ?」

「そのクズのことが許せない。先ほどは生かしたまま延々と苦しみを味合わせるつもりだったけど、そんなゴミが世界に存在すること自体が許せない。存在する価値などない。即刻消してやる。塵も残さず消してやる。魂すら跡形もなく、消し去ってやる」


(……こ、こっわ!?)


 コウハクが今まで本当に見たことがないくらいに怒っていた。

 言動がいつもと全く違うし、声音もかなり低い。

 いつの間にか両手で拳をギリギリと握りしめている。

 顔は真っ赤に染まり、眉間にしわを寄せ、歯をギシリと軋ませ剥き出しにしているその表情がやばい。――金剛力士みたいだ。

 これで「怒ってないですよ」とかいつもみたく言われても、まったく信用が湧かない。――かわいさのかけらもない。






 とにかく、コウハクはこの上なく、とてつもなくブチ切れていた。






「お、落ち着け? この世界にはもうそいつは居ないし、そいつはちゃんとその世界で罰を受けた。それに俺も障害があるとは言え、生活は普通に難なく出来る。だから俺はもう何も思ってないから――」

「主人さまが許されても、わたくしが許せないのです。その男、どんな手を使ってでも見つけだし、即刻<削除デリート>するべきです」


(どんな手でもってお前……異世界転移とか軽々と出来るわけないだろうに……)


 あのめちゃくちゃな地球の創造神――アースなら出来るかも知れないが、少なくとも白夜にはそれは出来ない。


「い、いや、まずはこの世界で色々頑張ってからにしよう? な? お前の気持ちはすごく嬉しいよ。俺のことで俺のためにそこまで怒ってくれた奴なんて、今まで居なかったよ。ありがとうコウハク」


 とりあえず、ここは案件を未来の先に置いておく他ないだろう。

 コウハクはこうなったらもう話を聞いてはくれない。

 やるかやらないかは別として、ここは上手くはぐらかすことにする。

 すると――


「……だって……あんまりじゃないですか……そんな……そんな……!」






 『性欲』が無いだなんてえええええええ!






 コウハクが秘密と言ったことを、大声でぶちまける。――秘密とは何なのだろう。

 白夜が知る限りでは、少なくとも大声で叫ぶべきことではなかったはずだ。


(……やめて? そんなこと大声で言うの。秘密って言ったじゃん。恥ずかしいじゃん)


「こら。秘密って言ったろ? 声を落とせって――」

「そ、そんなのあんまりです! それではわたくしと主人さまが……いつまで経っても愛の契りを結べないではありませんか!」

「は? 契り? 何それ? お前と結ぶ気があるのは指切りくらいだけど?」

「――っ! 言いましたね!? じゃあ指切りしてください! わたくしと契りを結ぶと! もし、約束を守ってくれなかったら……わたくしは腹を切ります!」

「いやお前……それずるくない? 無し無し。指切りしない。しかもそれ指切りじゃ無いし。腹切りだし。侍かよ」

「うぐぅっ!? そ、そこまで……わたくしとはしたくありませんか……? わたくしには魅力がありませんか……? やはり、イルミナの方が――」

「いや、別にコウハクのこと嫌いじゃ無いけど。むしろ好きだけど」

「……んぇっ!? あ、あれ? 気のせいですかね? 今一瞬、すごーく幸せな言葉が聞こえてきた気がしますが……イルミナの病気が移りましたかね……」

「ん? 何?」

「え、えぇっと……主人さま? い、今、わたくしのことを……好きとおっしゃいませんでしたか? 聞き間違いなら、申し訳ないのですが――」

「うん。言ったけど?」

「――はぅっ!? や、やったあああああ! よっしゃあああああ! やりましたあああああ!」

「いや、だからうるさいよ? あと近くでピョンピョン飛び跳ねないで? 危ないから」

「はっ!? す、すみません! 嬉しさのあまり、つい! ……で、では! 直ちに! 今すぐに! 初夜を共に過ごしましょう! えへへ……優しくしてくださいね?」

「嫌。だって性欲無いし。コウハクにそういうことする気は微塵もない」

「ぐはぁっ!? じ、じゃあ……なぜ、わたくしを今まで撫でてくださっていたのですか……」

「かわいいものを撫でたいと思う気持ちくらいはまだあるよ?」

「か、可愛いなどと……言う言葉で……わたくしが……納得するとでも……えへへ……ハッ!?」


 その時、ピタリとコウハクが止まる。


(……お? ようやく落ち着いたか?)


「……わたくしのことを可愛いと、撫でたいと思うことは出来ているのですよね?」

「まぁ、そう思うけど」

「……ふふ。ならばまだ可能性はゼロではありませんね」


 そしてコウハクはキリッとした顔――メガネモードになる。


「可愛いとは愛らしいものを愛でる際の感情表現であり、性浴とは生物が本能的に子孫を宿すための身体的接触を得ようとする欲望のことです。これらには大いに関係性があります」

「な、なんだってー」


 白夜は適当にコウハクの持論を水洗便所で便を流すかの如く洗い流す。


「主人さまは性欲を取り戻したくは無いのですか?」

「まぁ……有っても無くても良いと思ってるからどうでも――」


 すると突然コウハクがスッと立ち上がり――


「分かりました! ならば不肖、このわたくし――コウハクが! 主人さまの性欲を取り戻すための! お手伝いをさせていただきます!」


 ドーンと言う効果音が後ろから響いてきそうなくらいの迫力を持ってして、コウハクが力一杯に宣言する。――よく見ると神のポーズその三を取っていた。


(……なんか怪しいことになってきたぞ)


 白夜は薄い本にありそうな展開にも関わらず、ちょっぴりとも湧かない性欲に感謝し、呆れた――残念なものを見るような顔で、コウハクを見つめるのであった。






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