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第七十八話 狼男達、訓練する。






 クロヌスはギンと幾人かの村人を引き連れ、近隣の村を周りに行った。

 各村に自分達――『狼男ウルフマン』を認めてもらい、信じてもらうためだ。

 村に各組織を置くためには必要であり、重要なことである。

 上手くやって欲しい所だ。


 白夜達はというと、クロヌス達が旅立つ前に狼達のグループ分けをし、それが終わった次の日にはもうドンブ村に狼男達全員を招き入れ、村人達全員に挨拶を済ませた。


 村人達は狼形態の狼男、総勢百匹超を目の当たりにし、少したじろいでいたが、クロヌスを信頼しているのだろう。

 すぐに打ち解けることが出来ていた。


 村人達との顔合わせが終わると、村から少し離れた草原に狼男達を集め、各種訓練を行うことにした。


 一つは狼形態で荷物を運ぶための訓練だ。

 今まで上に物を乗せて走ることや、荷台を引っ張ることなどはあまりしてこなかっただろう。

 せっかく目的地に着いたのに、荷物がどこかに放り出されてしまっていたり、正しい目的地に到達していなかったりすると何の意味もない。


「は〜い。狼のみんな、上に乗ってる物を落としちゃダメよ〜? それじゃあよ〜い……どんっ!」


 訓練内容はイルミナに任せた。

 どうやら運動会のような催し物をやっているらしい。

 先ほどは借り物競走のような形式だったが、今はリレーのような形式で訓練している。

 背中に背負っている色付きの箱の中に、これまた色がついた玉が入っており、赤玉なら赤箱へ、青玉なら青箱へと中間地点で待機している仲間に受け渡し続け、ゴールへと向かう。

 狼男達にも受けがいい。

 いち早くゴールすることを競っているチームがあるようにも見える。


「……あっ! そこの狼さん! 玉、落としちゃってるよ!」

「……はっ!? も、申し訳ございません……イルミナ様」

「ううん。大丈夫だよ。なかなか慣れないよね〜」

「はい……今までこのようなことはしておらず、不慣れなもので……」

「う〜んそっかぁ……よしっ! じゃあ次はあたしを乗っけて走ってみてよ!」

「んなっ!? そ、そんな、恐れ多い……! 御身にもしものことがあると……」

「大丈夫っ! あたし飛行能力があるし、落とされても平気よ! それに荷物の気分になってみると、何かコツが分かるかもしれないしね〜」

「お、御身を荷物などとはとても……」

「……あははっ! 冗談よ冗談。それに、そんなこと気にしないで良いよ〜。だから……ねっ? 一緒にがんばろっ!」

「――っ! な、なんと……お優しい……!」


 訓練は順調に上手くやれているらしい。

 周りの狼男達が「「「はぁ……イルミナ様……尊い……」」」と何やら感嘆している。――イルミナファンクラブの皆さんはまだご健在らしい。






「みなさん。聞いてください。みなさんにはこれから諜報機関としての仕事の体験をしてもらいます。この石には連絡魔法回路が組み込まれてあります。まずはこれを人数分配りますので、無くさないようにしてくださいね」


 一つは石を使って情報を速達する訓練だ。

 今までは会議の中でも問題視していた、複製が容易に出来るほど単純な魔法回路が使われていたようだが、イルミナとコウハクの二人が研鑽しあった結果、容易には複製出来ないような見事な魔法回路が完成したらしい。――白夜も見たが、何が何だか分からなかった。


 なので、コウハクに使用方法の伝達を任せることにした。

 今狼男達に一つずつ石を配っているようだ。


「コウハク様。少しよろしいでしょうか?」

「はい? なんでしょう?」

「この魔法石なのですが……どうも価値が高すぎるように思われるのです」

「ほうほう……続きをどうぞ」

「はい。今まで我々が使ってきた魔法石は交信一回きりの魔力しか込められない物でしたから。一回使用したら、また魔力を込め直さないといけませんでした」

「ふむふむ……それで?」

「はい。この魔法石だと、二十回分くらいは溜め込めるかと。かなり長持ちします」

「なるほど……使い捨てにするという手もありましたか。良い意見をありがとうございます。主人さまに伝えておきますね」

「――え? い、いえ……これほどの物を使い捨てにするというのは……」

「――? あぁ、その石は主人さまに作ってもらいました。まだ結構ありますよ?」

「……え? レベル3魔法を込められるほどの貴重な魔法石ですよ? それを作れるというのですか? あのお方は……」

「はい。全く問題なく、一瞬で大量に作っていただけましたが?」

「――んなっ!? なんとっ!? やはりハクヤ様もコウハク様と同じく……とてつもないお方だ……」

「……あなた、すごく、すご〜く良いことを言いますね。気に入りました。頭を撫でて差し上げましょう」


 コウハクも上手くやれているらしい。

 白夜が今日<創造クリエイト>で作った何か良く分からない名前の石に魔力と回路を組み込み、連絡魔法が発動している。


(確か、ミッシェルだったか? 違ったかな……忘れた)


 こちらの狼男達は「あいつ……」「コウハク様に気に入られやがった……」「ありえん……」「羨ましい……」などと嫉妬の念を飛ばしていたが、白夜は石の名前が気になり、聞き流していた。






 そして、白夜はというと――


「それでは、ここに集まってもらった皆には“接客”の心得を教える。皆、心して聞くように」

「「「はっ!」」」


 もう一つの訓練――接客訓練を行っていた。


 接客を侮ることなかれ。

 これは非常に重要なことだ。

 相手に気分良く帰ってもらうことが、何よりも大切なのだ。

 なぜそれが大切なのかというと――リピーターになってもらうためだ。

 リピーターになってくれるということは、その組織の接客態度や仕事の成果に対して信頼を置いている、何よりの証だ。


 極論だがコンビニに入った瞬間、こちらと目を合わせず、一言も喋らず、ダラダラとレジを打ち、釣り銭を数え間違える店員の居る店に果たしてもう一度行きたくなるのか。

 普通ならそんな店には二度と行きたくなくなるだろう。

 例え仕事が出来る奴が居たとしても、仕事が入らなければ意味は無いし、完了した仕事の成果を渡す際に不備があっては、せっかく良い成果があげられたとしても好評価は得られないだろう。


 接客とは仕事の入り口でもあり、出口でもある。

 ここを疎かにしていては、せっかく良い仕事が出来そうな狼男達が「あいつら仕事は出来るけど、態度悪いよな……」などと悪評が立ち、あまり評価されなくなり、いささか勿体無いことになるだろう。

 人々の信用を得るためには、心してかからねばならない重要なことなのだ。


 白夜は生前得たバイトの知識を総動員し、狼男達に叩き込むことにした。


「……接客を侮ることなかれ。お客様は神様であると知れ。故に……全身全霊を持ってして、心してかかれ! 良いな!!」

「「「はっ!!!」」」


(うむ。良い返事だ)


「よし! 声が大きくてよろしい! ではまず……お前達に接客の際、重要となる七つの用語について教えよう……」






 白夜は息をスウッと大きく吸い込み、そして――






「まずは『いらっしゃいませ』からだ! まずはここから全てが始まると言ってもいい。出会い頭の挨拶の言葉だ! 言葉に出すだけではなく、心の底から『来てくれてありがとう……』と、まるで好きな相手を待ち合わせ場所に呼び、その心情を告白する瞬間の時のように思いながら言え! 良いな!」

「「「はっ!!! いらっしゃいませ!!!」」」


「よろしいっ! 次は『かしこまりました』だ! 相手の意思を汲んだことを伝える、重要な言葉だ! 『お前のことは何かも全てお見通しだぞ……?』と言わんばかりの自信を持って答えろ! 良いな!」

「「「はっ!!! かしこまりました!!!」」」


「うむっ! 次は『少々お待ちください』だ! 相手との会話を切り、席を離れる際に放つ言葉だ! 待つことにマイナスのイメージを持たれるような言い方は慎め! 我が子に『良い子に待っているんだぞ……?』と言い聞かせるように優しく、穏やかに、慈悲深く言葉に出すんだ! 良いな!」

「「「はっ!!! 少々お待ちください!!!」」」


「よしっ! 次は『大変お待たせいたしました』だ! 相手に時間を与えてしまった際に発する言葉だ! 先ほど待たせてしまった我が子に対し『良い子にしてたか……?』とあやすかのような態度で挑め! 良いな!」

「「「はっ!!! 大変お待たせいたしました!!!」」」


「良いぞっ! 次は『申し訳ございません』だ! こちらがミスを犯した場合であったり、お客様に何か不服があった際に発する謝罪の言葉だ! 相手に誠意が伝わらなければ意味はない! うそぶき、ねこばば、つまみ食い……今まで犯して来てしまった罪、全部謝罪するかの如き気持ちで臨め! 良いな!」

「「「はっ!!! 申し訳ございません!!!」」」


「ふむっ! 次は『ありがとうございます』だ! お客様がこちらに対して、慈悲や情けをかけてくださった場合に発する感謝の言葉だ! お客様――神様からの祝福であり、奇跡に対する感謝を、誠心誠意述べるんだ! 良いな!」

「「「はっ!!! ありがとうございます!!!」」」


「素晴らしいっ! 最後は『ありがとうございました』だ! 『いらっしゃいませ』とは対極の、別れを告げる言葉だ! 恋の相手に思いを告げることが出来ず、別れる際に『……また来てね』と、別れを心底惜しむかのように励め! 良いな!」

「「「はっ!!! ありがとうございました!!!」」」


 白夜はアルバイトの際、教えられた通りに接客用語について教える。


(――あの先輩は今頃元気にやれているだろうか。多分俺が勝手に抜けたことに対して憤慨してるだろうなぁ……すんません)


「よろしいっ! 接客は一人一人の態度が重要だ。この団体の中で誰かが出来ていても誰かが出来ていなければ、その者だけではなくその者が所属する団体自体の評価が下がる。一人の失敗は、皆の失敗になり得る。それが組織という物だ。

 しかし、逆もまた然りだ。誰かが好評化を得ることが出来ると、その者の所属する団体自体の評価も上がる。一人の成功は皆の成功になり得る。それもまた組織という物の特徴だ。

 故に……皆が皆、組織の代表であるという、自覚を持つことを忘れるな! 一人の成果は皆の成果! 共に喜び、分かち合え! 一人の失態は皆の失態! 共に反省し、協力し合え! 良いなっ!」

「「「はっ!!! かしこまりました!!!」」」


 白夜は狼達に接客の基本中の基本『接客七大用語』と、『組織の心構え』について徹底的に叩き込むのであった。


「すごいな……」「あそこは熱気が違う……」「さすがは主人さま……なんと雄々しい……」「あの自身に溢れた佇まい……素晴らしい」「ハクヤさん……かっこいい……」「俺決めた。あの人に接客について、徹底的に教わるわ」


 他のグループの者達がポツリポツリとそう呟いているのには気づかずに。






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