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第七十七話 救世主、告白する。






 白夜達一行はドンブ村の中心地に集まり、村人全員をこの地に全て集めた。これからある重大な発表をするためだ。


「皆の者。よく聞いて欲しい」


 茶色い髪をオールバックにし、黒い毛皮のコートとズボンを着用した高身長の男――クロヌスはドンブ村の村人達に語りかける。


「今までこの村を脅かしてきた存在。それはこの者達と共闘し、排除することができた」


 クロヌスは白夜達を指差し、宣言する。


「……それはそれは恐ろしい吸血鬼であった。圧倒的力を持ってして地に伏せられ、危うく敗北しそうになる所であったが……何とか奴を屠ることに成功した」


 村人からは「おぉ……」「さすが救世主さま……」「かっこいい……」「あの人達だれー?」「あの子すげえキレー……」「俺は小さい方が好みだな……」などと声が上がる。


「……だが、皆に謝らなければならないことがある」


 クロヌスは突然声音を変え、村人に対して頭を下げる。


「俺は……実は、魔物なんだ」


 クロヌスは村人にそう宣言し、頭を下げ続ける。村人達から動揺が広がった。「なっ……」「嘘……」「そんなバカな……」と声があがる中――


「……みんな、聞いて欲しい。俺達の一族は『狼男ウルフマン』と言う。その昔、人間と共にあった種族だ。互いを信じあい、互いを助け合い、協力し合いながら生きてきた」


 村人はクロヌスの言葉に対し、固唾を飲んで耳を傾けている。


「それが……いつしか魔物と人間が争うようになってしまい、俺達も魔物として認識され、人間から迫害を受けた。そのために、やむなく魔物の国へと逃げて行くしかなかった……」


 クロヌスは唇を噛み締め、悲しげにそう語る。


「だが……だがっ! 俺は思うんだっ! そんなことは間違っていると!」


 クロヌスは顔を上げ、声を張り上げ、言い放つ。


「魔物と人間だって、同じ生命ある生き物だ! 争い合い、奪い合うだけではなく、与え合い、助け合うことだって出来るはずなんだ! 映えある狼男族の英雄が二柱存在した、昔のように……」


 クロヌスは声を段々と小さくしながら、下に俯いてしまう。

 そしてポンと音を立て、狼の姿へと変貌する。すると村人からザワザワと動揺が湧く。


「……今まで騙してしまい、悪かった。俺の正体に気づいていた者はそこのギンと言う少年のみだ。俺達と生き別れた同族だったからな。俺達が人間に抱く感情を理解し、村に呼びかけていたのだろう。俺は危険な存在かもしれないと」


 クロヌスは狼の姿のまま、地に体を伏せ、――謝罪しているのだろうか。

こう語る。


「もし、俺のことを信じられないようだったら、俺は俺のことを近隣の村に伝え、もう二度とこの周辺の村には立ち寄らないことを誓う。もし、俺のことを信じてくれるのであれば、俺は一族を引き連れ、村の繁栄に全力を注ぐつもりだ」


 クロヌスは静かに体を伏せたまま、目を瞑る。


「……俺のことを、俺達一族のことを信じてくれる者が居るなら、このまま残っていてくれ。今後の方針を語るつもりだ。信じられないようであれば、そのまま立ち去ってくれ。二度と顔を見せるつもりはない。一人でも立ち去る者が居た場合、即刻俺も立ち去る」


 そう言った後、クロヌスは何も音を発しなくなる。


 村人達はヒソヒソと何かを喋り、やがて何かを決断したかの如く、スタスタと歩く物音がした。


(……だめだったか。所詮、私は魔物。彼らは人間だ。今の世の中じゃ、手を取り合い、助け合うなんてことは到底不可能――)






 ふわり。






 クロヌスがそう悲観的に思っていたその時。

 頭に優しい感触が宿る。

 突然のことに驚き、目を開くとそこには――村長の娘が居た。


「――なっ!」

「救世主さま――」


 そして、クロヌスの体に抱きつき、こう語る。


「……私は救世主さまがどのような者でも構いません。残虐非道な悪人だろうと、狡猾無稽な狼だろうと、お慕いしております」


 娘は体を離し、にこやかに微笑みながら――


「それは、この村一同――皆が皆、そう思っているようですよ?」


 そこには、先ほどの村人達が目の前に全員居た。――クロヌスが今すぐにでも飛び掛かれそうな距離にまで。


「そうですよ! 救世主さま!」「なんだ、狼男だったのかあんた。道理で強え訳だ」「足も早そうだよな〜。狼男達に手伝って貰えば、畑仕事が早くなりそうだな!」「まじかよ! すげえな狼!」「おぉ! かっこいい!」「すご〜い! もふもふしてるよ〜!」「こらっやめなさい! ……すみません、救世主さま。家の子が……」


 村人達はクロヌスの近くに寄り、何やら盛り上がっている。


「お、お前達……いいのか? 俺は魔物なんだぞ? お前達のことを……ずっと騙していたんだぞ?」

「良いではありませんか。救世主さまは救世主さまなんですから」


 村娘はクスリと笑いながら、クロヌスに言い聞かせる。


「そうそう」「今まで散々助けてくれてたしな〜」「俺達、あんたにまだ何も返せちゃいないんだぜ?」「そうそう。それで勝手に消えるなんて、許さねえ」「救世主さまも野暮ったいな!」


 男の村人達は「ガハハ」と笑いながらクロヌスをぽんぽんと撫で、「うわっすげえフサフサ!」「俺の髪もこれだけあれば……」「あはは。おいやめろ。……やめろ」などと言っている。


「……俺は、悪いやつかもしれないんだぞ? お前達を助けたのだって、計画の内かもしれん。お前達を裏切るかもしれないんだぞ? 近くに寄っている今この時だって、お前達のその喉元に噛み付くかもしれないんだぞ? 怖くないのか?」


 クロヌスはつい、心情を吐露してしまう。すると――


「……貴方が何者でも良いではありませんか。それでも私達は救われましたから」


 そう言って、村娘は微笑む。


「そうだよ!」「ありがとう!」「今までこの村を救って頂き、感謝致します!」「俺達、あんたに何されても別に文句ないぜ?」「アホか。救世主さまが俺たちに危害を加えるかっての」「ありがとう! 救世主さま! 頼りにしてるよ!」「信頼しているぜ? 救世主さま!」


 村人達は口々にクロヌスのことを褒め称え、『信頼している』とまで言ってくれた。


(――あぁ、これほど……これほどまでに、『信頼関係』と言うのは、心地よい物だったのか……)


 クロヌスはそう思い、村人達の暖かいその言葉に対し、ほろりと涙を流す。


(――私は、偽物の救世主だった。だがしかし、例え偽物だとしても、彼等にとって私は……本物の救世主だったんだな……)


「……ありがとう。みんな」


 クロヌスは涙ながらに村人に語りかける。


「……これからは、本物の救世主になれるよう、頑張るよ」

「……何をおっしゃいますやら、クロヌスさまは私にとって――私達ドンブ村の村人達にとって、もう立派な……これ以上ない本物の救世主ですよ」


 すると、クロヌスは狼の姿のまま「うおんうおん」と泣き声をあげ始める。


 白夜達一行は泣き崩れるクロヌスを見ながら、この村にはもう救うべき存在が居なくなったことを知ったのであった。






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