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第七十六話 現人神、会議を深める。






 白夜達は先ほどの会議をより深く進め、今後の方針について色々語る。


 まずは村の自警を任せる件についてだ。

 会議で知った結果、近隣の村で廃村をなんとか免れているのは五箇所にも満たず、たった四箇所のみ。

 ならば総勢百を軽く超える狼男達を三十匹以上は各村に借り出せる。

 配属はギンやクロヌスに任せるとして――などと会議中に考えている時だった。


「あっ! じゃあさ、この村に自警団の本部みたいなのを設置して、各村には支部を配置するなんてどう?」


 と、イルミナがアイデアを出してきた。


「……なるほど。そうすると各々情報交換もやりやすくなるな。もし危険が迫っている時に、各個が情報を持つよりかは各団体支部で情報を持ち、本部に送り、そこから各団体に対して情報を伝達しあえる仕組みを作ることができそうだ。ナイスアイデアだぞ!」


 白夜はイルミナに賞賛を送った。――いい感じに意見を出せるようになってきている。


 前回の会議は練習のようなものだ。

 上手く会議が回るよう、試運転していた。

 会議の場において重要なポイントは『調和』だと白夜は考える。

 その役を担うのが進行役であったり、司会役であったりするその場のチームリーダー的存在だ。

 会議の場の調和が上手くいかなければ、大した会議の結果は生まれないだろうと白夜は考えている。


 白夜の場合、出してくれた意見を頭ごなしに否定するのではなく、まずは肯定し、良い所を切り抜き、最初に相手を賞賛することに重きを置いている。

 意見を出す者に自信を抱かせることにより、新たな発想の芽を芽生えさせることが狙いだ。


 意見を出した瞬間、「それはだめ」「これはだめ」などと言って否定されると、利点もどこかに少なからずあるはずなのに、欠点の方しか考えられなくなる。

そうなると自信は喪失し、思考がネガティブになり、発想の芽は芽生えにくくなるだろう。

 「自分の意見はだめなんだ」と意見を出す役を落胆させてしまうと、その者だけでなく、周りの者もそれを恐れ、意見が出辛くなる。

 意見が出ない会議などする意味がないだろう。


 重要なのは、利点も欠点も全員が理解し合うこと。

 そのためには――


「しかし、少々問題点がありますね。各村は狼男達の足でも少々離れすぎているかと考えます。いざ重要なことを早く伝達しあえる方法を考えるべきかと」


 否定意見も重要だ。

 コウハクはその意見の欠点をしっかりと把握し、新たな問題提起まで出来ている。――完璧だ。


「ふむ。確かにな。各村に自警団の集まる場所を設置するとして、次は各自警団間の情報の速達方法を考えよう」


 ここで白夜がやるべきことは少ない。

 論点を変更し、さらに会議をもう一段階進めるだけだ。


「それなら良い物があります」


 そう言ってクロヌスがコトリと石を机に置く。


「……これは?」

「これは聖属性魔法レベル1<ホーリーライト>が込められた魔法石です。石と石を繋げる魔法回路を構築すれば、片方を光らせると、もう片方も光る仕組みを作れます」

「なるほど……いざという時の救難信号を即座に送る手段に使えるでござるな。光らせ方によって、避難勧告、救難要請などと分けて置くと、瞬時に警戒態勢が取れるでござる」


(へぇ〜このような石があるとは……電話よりかはまだ利便性は少ないが、緊急連絡用なら問題なく使えそうだな)


「ほ〜。便利だな」

「――確かに非常に便利ではあります。しかし、それに依存しすぎてしまうのも問題があるかと。先ほど依存することに対する危険性について会議したことを覚えていますか? 依存しすぎてしまうと以下のような欠点が挙げられましたよね。一つは依存する物が機能しなくたった際の混乱。一つは依存する物に対する信頼性についてです」


 コウハクが欠点を見つけたようだ。


(――優秀な奴だな)


 否定意見の出し方にもコツがある。

 ただ否定するだけならば簡単なことだが、なぜだめなのかと新たな問題提起をすることは少々難しい。

 「あれはだめ」「これはだめ」と否定するだけしておいて、どの点が問題なのか提示しない奴は会議において問題児だ。――というより、居ても邪魔なだけだろう。


「なるほど。つまりはこういうことか。その石に変わる情報伝達手段を持って置くべきであること、その石で伝えられてきた情報の信頼性を高める必要があることだな」

「その通りです。石だけではそれが失われた場合、団体が機能しなくなる危険性さえあります。そして、その石そのものにも問題があります。誰でも容易に複製できそうな危険性を感じるのです」

「確かに……この石は魔導師であれば、容易に複製できるでしょうな。ふむむ……どうしたものか」


 クロヌスはう〜んと考え込んでしまう。

 すると――


「……あっ! えっと、その石の信頼性を高める手段なら良い案があるよ!」


 イルミナが手をバッと挙げ、宣言する。


「お? なんだ? 聞かせてくれ」

「うん。あたしの秘密の場所に行った時のこと、覚えてる? あれの仕組みなんだけどね、まず最初に相手の魔力パターンを解析して、登録されてあるものと一致した時にのみ、後の魔法が発動するようになってるの。これを上手く利用すれば、各支部の伝達役だけが使用出来るようになって、信頼性も高まるんじゃないかな?」


(……なるほど! あの認証システムか!)


 連絡魔法を発動する際、魔力パターンを読み取る魔法を最初に発動させ、伝達役のみそれ以降の魔法が発動するようにしておく。

 すると全く関係のない相手には連絡魔法が発動せず、相手が魔力パターンを登録した伝達役の場合にのみ発動し、情報を伝達することができる。

 よって、送られてくる情報の信頼性が格段に上がる。――これは良い案だろう。


「素晴らしい! よくぞ思いついてくれたな!」


 白夜はイルミナに心からの賞賛を送る。


「え、えへへ……。何か、照れるね」


 イルミナは頬を紅潮させ、頭を下げ、もじもじとしている。


「なるほど……わたくしも良い案だと思います。イルミナの意見に賛成です。早速、あとで仕組みを教えてもらえますか?」

「うん。もちろん良いよ。あとで一緒に作ろっか。コウハク」


 二人娘は「ふふっ」と笑いながら穏やかな雰囲気を醸し出している。


(――あぁ、良いなぁ。この雰囲気)


 白夜は父性をじんわりと醸し出しながらほんわかとしてしまう。

 しかし、まだ問題はもう一つある。


「――よし。二人とも頼んだぞ。あとは……石に変わる情報の伝達方法か」

「それなら、拙者に案があるでござるよ」


 すると、次はギンがパッと手を挙げる。


「お? なんだ? ギン」

「直接届けに参れば良いのでござる」


 さも当然と言わんばかりにギンがキッパリと答える。――まぁそうだろう。


 しかし、白夜としてはもう少し先を見据えた意見が欲しいところだ。

 そう考え、フォローを入れようとすると――


「……確かにそうですが、やはり村と村との距離が問題ですね。伝達係が疲労し、速度が遅れ、効率が低下するかと。何かそれらを払拭できる案があれば良いのですが」

「んん〜? そんなの簡単じゃん。間で休憩すればいいんだよ」

「……ほほう。それはいい案でござるな。であれば……村と村との間に休憩所を作れば良いのでは?」

「おぉ、それは素晴らしい案かと。我々狼男族でも、流石に走りっぱなしは辛いですからな。間に休憩所を作り、そこに何人かあらかじめ配属しておいて、仕事を交代させるというのはいかがでしょうかな?」

「それは素晴らしいですね。間に中継地点を作り、交代制度を設ける。とても良い案だと思います。ついでにそこで情報の伝達先を分岐し、最短距離で送らせることも可能かと。効率の面でも問題ありませんね」

「わぉ……適当に言ったのに、なんだかすごく良い案になっちゃった……」

「……適当だったのでござるか……イルミナ殿」


 皆が「あはは」と笑い声をあげる。


 そこには白夜が何を言うまでもなく、各々から次々と意見が湧いて出てくる場が完成していたのだった。


(……きたきたっ! いいぞっ! とてつもなくいい会議の雰囲気だ! しかもめちゃくちゃ良い案がポンポンと!)


「……素晴らしい。実に素晴らしいぞ! 利点がめちゃくちゃある!」


 白夜はつい興奮し、ガタリと椅子から立ち上がる。


「俺は村と村との交通手段にだって使えると思うぞ! 狼形態になった狼男の中には馬並みに大きい奴も居る。しかも馬と違って互いに意思疎通が出来るし、馬よりも戦闘力が高い。危険も少なくなるだろう。中継地点に待ち合わせ場所もついでに作ると良いな! これからは馬車じゃなくて狼車の時代だな!」

「おぉ〜確かに。この辺りにはもう馬車が通ってないってホフキンスさん言ってたしね〜。さすがハクヤさん!」

「さすがは主人さま! 素晴らしい案かと! まさに……狼の運び屋って所ですね! 物資の受け渡しも可能かと! ……これは各村に配達機関も作る必要がありそうですね……」

「ハクヤ様はやはり素晴らしいお方ですな。狼たちを交通手段に使うとなると、ついでにあたりの安全を見回ることだって出来そうですな」

「お、おぉ……まだそんなに利点があったでござるか」


 ギンは少々驚きつつ、感嘆する。――するとイルミナとコウハクが少し悔しげな顔をギンに向け、クロヌスは尊敬の眼差しをギンに向けている。


「むむむ……やるねギン君……。ギン君の『直接届ければ良い』って意見がなかったら、ここまで良い案を出せなかったよ」

「確かに……やりますねギン」

「さすがは、銀の意思を継ぐお方ですな」

「……え? い、いや、拙者は当たり前のことを言っただけでござるよ……。拙者だけの意見ではないでござる。結果が良くなったのは、みんなのおかげ――ここに居る全員の意見あってこそでござるよ」


 ――みんなのおかげ。

 白夜はその言葉に心が震える。

 会議とは、誰か一人が欠けては意味がないと白夜は考えている。

 たとえその意見がどれほどバカらしくても、良い所や面白い所が必ずある。良い所を見つけあい、さらに意見を出し、また良い所を見つけ合う。

 するとどんどん良い案が浮かんでくるというものだ。

 白夜がそうあって欲しいと思っていた会議に、正に今なっている。


「ギン……お前……良いこと言うじゃないか。ほれ、頭を撫でてやろう」


 白夜はスッとギンの頭に手を伸ばし、銀髪の撫で心地の良い頭をサラサラと撫でる。

 ギンは「て、照れるでござるな……」と少々居心地悪そうにする。


 すると二人娘が何やらギンのことをメラメラとした目つきで見つめ、ライバル視しているように見える。――まぁ、悪いことではないだろう。






 白夜達はその後しばらく話し込み、やがて今回の会議の終了を全員が確信し、意見を纏める。


 第一に、クロヌスの立場を利用し、村人たちに狼男の危険性の低さを知ってもらう。


 第二に、クロヌスを筆頭とし、各種組織を村々に置く。


「……さて、今回の会議はこのくらいで良いだろう。それじゃあ早速、行動に移るぞ」

「了解でござる、ハクヤ殿。頼んだでござるよ、クロヌス」

「はい、主人さま。クロヌスさん、頼みましたよ」

「了解〜。クロちゃん、頑張ってね!」

「ははは……改めて聞くと、私の役回り重要過ぎません……? 上手くいくと良いのですがな……」


 不安がるクロヌスを余所に、白夜達は「頑張れ!」と言って、ケラケラと笑う。






 これにて会議の最終結果である、村に各種組織――『狼のお巡りさん』と『狼の郵便屋さん』を埋め込む計画を実行に移すのであった。






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