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第七十二話 神祖、激怒する。






「……はぁ。なんでわたくしがこんなことを……」


 コウハクは白夜のお願いを心底聞きたくない衝動に駆られていた。――白夜をイルミナの居る上空にまで吹き飛ばすなどという。


 自らの手で主人を危険に晒すなど、聞きたくもないお願いだったからだ。

 ましてやあの女の傍にまで。

 しかし――


「頼む! イルミナのピンチを救うために必要なことなんだ! イルミナはお前を迎えに行く時だって、俺を送り出してくれた。次はお前が俺を送り出してくれ! 文字通りに!」


 と懇願されてしまっては、コウハクに断ることなど出来そうもない。


「……本当に、困ったお方です」


 コウハクはぽつりとそう呟き――


「早く帰ってきてくださいね。……一人はすごく、寂しいですから」


 そう言って、コウハクはギンの家へと戻るのであった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「……え?」


 イルミナは突然のことに理解が追いつかず、困惑していた。


「うおおおおぉぉ! イルミナ! 頼む! 受け止めてくれ! じゃないと俺が死ぬ!」

「――ええええええええ!?」


 突然の出来事に驚き、両手をワタワタと振って慌てる。

 しかし、考える時間などあるはずもなく――


「イルミナああああ!」

「きゃああああ!?」


 ガシィッ!


 白夜はイルミナの胸に飛び込んで来て背中をがっしりと掴み、もう離さないと言わんばかりの強烈な抱擁をする。――しかし、威力が高過ぎた。


「うぐぅっ!?」

「グフゥッ!?」


 衝撃は殺しきれず、二人に襲いかかる。

 イルミナは思わず意識がグラつき、飛行能力を制御仕切れず、地面にヒューッと落下していく。


「……ちょっ!? イルミナっ!? おいっ! しっかりしてくれ! 俺達落ちてるから!」

「……ふぇ? ……はっ!?」


 イルミナは失いかけていた意識を取り戻し、なんとか地面すれすれで飛行能力を発動し、墜落を免れた。


「……はぁ〜なんとかなった」

「……だな。助かったよイルミナ。ありがとな」


 白夜はそう言ってイルミナに微笑みかける。――イルミナの豊満な胸を体に密着させたまま。


「――っ!? ちょ、ちょっと! 早く離れて!」


 イルミナは急に恥ずかしさが襲いかかり、白夜の顔を両手でグイグイと押してしまう。


「いでで! わ、分かった、分かったから。とりあえず地面に足をつけよう」


 そう言って白夜はイルミナの背中で結んでいた手をパッと離し、地面に両足をスタッと乗せ、着陸する。


「ほら、お前も降りてこいよ。じゃないと……さっきみたいに抱きつくぞ?」

「――っ! わ、分かったよ。分かったから……」


 イルミナもスタッと両足を地に付ける。


「さて……色々聞きたいことがあるんだが……」


 白夜は話を始めようとする。だが――


「こっちの方が、色々聞きたいことあるんだけど……」


 イルミナだって、白夜に聞きたいことがあった。


「……じゃあ、お前からでいい」

「なんであんなことしたの!?」


 イルミナは怒気を込めながら、白夜に怒鳴りつける。


「……すまん。痛かったよな」

「そうじゃないっ! なんであんなことしたか聞いてるのっ! あたしが居なかったら、ハクヤさん……無事じゃ済まなかったんだよ!? ばかじゃないの!?」

「……そうだな」

「なんで!? なんであんなことしたの!」


 ついつい頭に血が上ってしまい、イルミナは白夜を問い詰めてしまう。

 すると――


「……お前が心配だったからな。居ても立っても居られなくなった。悪かった」


 そう言って、白夜は頭を下げる。


「こんな夜中に一人で出て行くなんて危ないし、何よりも俺が避けられてる感じがしてな。コウハクにお願いして、吹き飛ばされてきたんだ。心底俺のことが嫌いなら避けてそのまま見捨てただろうし、嫌ってないなら助けてくれただろう。今みたいに」


 すると、白夜は寂しげな表情をし――


「心底嫌われてないのは分かった。だったらどうして、あの時俺を見て罵倒して、咄嗟に逃げ出したんだ?」


 そうイルミナに問いかけてきた。


「――っ! そ、それは……」


 言えない。

 イルミナは言えない。

 もしここでその言葉を発して、はっきりと最悪な答えが帰ってきてしまったら、イルミナはもう白夜に合わす顔がない。


 一緒に居られなくなる。

 それは嫌だ。

 絶対嫌だ。

 絶対絶対嫌だ。

 すると――


 ポロリ。


 涙が瞳からポロリと落ちてきた。


「う、うぅ……」


 それはイルミナが言えない言葉が涙として出てきてしまったのだろう。

 口では言葉を発することが出来ないのに、瞳からは涙が溢れ出ていた。すると――


 スッ。


 白夜は黙ってイルミナの後頭部に手を優しく回し込み、そのまま自分の体に押し込み、胸を貸してくれる。


「……まぁ、今となっては大体想像がつくな。あの城の一件みたいに、俺とコウハクが何か変なことしてるとでも思ったんだろ?」


 イルミナはピクリと体を震わす。


「……図星か。相変わらず分っかりやすいなお前」


 白夜は、イルミナの背中をぽんぽんと優しく叩く。


「安心しろ。上半身裸だったのは、ギンに噛まれた時の傷の具合を確認してたからだ。そのあとコウハクに布団みたいな物を何も被せてなかったことを思い出してな。俺のコートをかけてたんだ。……そりゃ、あの角度から見たら誤解するわな……ごめんなイルミナ。不安にさせて」


 白夜はイルミナをギュッと抱きしめ、説明する。






 ――良かった。






 イルミナは心の底からそう思った。

 まだ白夜はコウハクのことを選んだ訳ではなくて安心した。

 だが――


「……ハクヤさんは、コウハクのこと……好き?」


 イルミナは聞けなかった言葉を発してしまう。


「ん? 当たり前だろ」

「――っ!? そう……」


 白夜は当たり前だと即答する。

 その様子に対してイルミナはズキリと胸が痛んでしまう。

 ここまではっきり言われると、むしろ清々しいものがあった。


 だから――


「じゃあ、あたしのことは……どう思ってくれてるの?」


 もうコウハクには勝てないことが分かった以上、聞いても構わない質問となってしまっていたことを聞く。

 すると――


「もちろん大切に思ってる。絶対にお前を幸せにしてみせるさ」






 ――あぁ、なるほど。






 ようやく分かった。

 白夜がイルミナに対して気をかけてくれている理由が。

 それは――


「それは、お父さんとの約束だからでしょ?」


 イルミナは悲痛な表情を浮かべ、そう問いかけてしまったのであった。






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