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第六十九話 現人神、論争する。






(どうして……)


「どした? 何か辛いことでもあったんだな?」


(どうしてそれを……)


「やっぱりあの時、どこか体を痛めてたのか?」


(違う。どうしてそんなに優しく……)


「……ごめんな。ちゃんと守ってやれなくて」


(違う。悪いのはわたくし。なのになんで……)


「違うん……です……これは……そういうのじゃなくて……目にごみが……」

「何言ってんだ。違わないだろ。そんなに辛そうな顔してるくせに」


 白夜はコウハクに近寄る。

 コウハクは白夜から離れなければと思うのに対し、体は傍に居たいと逆に反応してしまい、その結果身動きが取れなくなってしまっていた。


「嫌……です……わたくしは……傍に居ては、いけないのです……」

「なんだそれ? さっき『傍に居たい』って言ってたくせにか? 面白いやつだな」


 先ほど漏らしてしまった言葉を聞いていたのだろう。

 白夜はコウハクに対して優しく微笑みかけながら、傍にやってくる。


「……なら当ててやろう。お前が気に病んでることは、あの時俺がお前を助けたことについて、だろ? お前は優しいからな。あの時上手く助けてやれずに、俺が怪我しちまったことに対して落ち込んでたんだな。ごめんな」


 白夜はコウハクの核心を突き、そう言いながら頭にぽんと優しく左手を置き、さらさらと撫でる。


「でもな、特性のおかげか、傷ならもうとっくに大丈夫だ。ほら、いつもみたいにお前の頭を撫でてやれてるだろ?」


 白夜はへらっと笑いながら頭を優しく撫で、そうコウハクに語りかける。


「ですが……それよりも前に、つまらない意地を張って、主人さまを失望させるようなことをしてしまいました……。もっと前にだって、ご心配やご迷惑をおかけしてばかりで……。わたくしはだめです。だめなんです。主人さまのお傍に置いて頂くには、身が釣り合いません……」

「コウハク……」


 コウハクは先ほどから思っていた心情を涙ながらにも吐露する。

 すると――


「……そうか。確かにそうだな」


 白夜は心からそう思うように、短くポツリと言い切った。






 コウハクは分かっていながらもその言葉を聞いてしまうと、体がビクリと反応してしまう。――曰く、嫌だと。


 嫌だ。離れたくない。傍に居たい。お役に立ちたい。近くに居て欲しい。褒めて欲しい。撫でて欲しい。優しくして欲しい。――して欲しい。


 体は全身が全身、そう叫んでいた。

 しかし、コウハクは声に出して叫ぶことができない。

 コウハクは「うぐうぐ」と言いながらボロボロと涙を流すことしか出来なかった。


 すると白夜は「はぁ」とため息を一つ零した後、心底呆れた顔をし――


「……もうさぁ、この際だからはっきり言わせてもらうけどさぁ。お前には本っ当にうんざりしてるんだよ俺は」

「――っ! うぐぅっ!?」


 そう、コウハクに吐き捨てた。


 コウハクは白夜のその言葉一つで全身が崩れ落ちてしまうかのような錯覚を感じ、体の各箇所が断末魔の如き悲鳴をあげていた。


 もはや立ってもいられない程の苦痛を感じたコウハクがフラフラとよろけていると――






「……俺よりも、お前の方が相当すごいやつだっての」






 白夜は我が子を慈しむかのようなとても穏やかな表情で、コウハクにそう言ってきたのだった。


「お前の熱血授業だけどな、俺が知らないような面白いことを分っかりやすく教えやがって。お前の授業ほど眠くならないもんはないぞ。どうしてくれるんだ? 俺の睡眠学習の妨げになるんだよ。高校生に取ってお前は悪魔だよ悪魔。

 かと言って、人に教えられたことはじゃんじゃん吸収してすぐに自分のものにしやがって。風の弾の魔法とか、かまいたちの魔法とか何あれ? クッソかっこいいんだけど? また授業ちゃんと聞かなきゃいけないじゃん。寝れないじゃん。ふざけんなよ。

 俺が唯一自信を持って教えてやれた神のポーズだって、ちょっと喋っただけで完璧に、いやそれ以上にバッチリこなして見せたじゃん。あれ神かよって思ったわ。

 とにかく、お前と居ると、俺のだめさ加減とお前のすごさ加減とを比べて、嫉妬に狂いそうになるんだわ。いい加減にしてくれる?」


 次には不快なものを見たときのような心底イラッとした顔をして、コウハクにそう言ってきた。






 すると、なぜか先ほどまであげていた全身の悲鳴はすっかり鳴りを潜め、涙も引っ込み、コウハクは何を思ったかというと――






 カチンときていた。






「……は? 何言ってるんですか? 主人さま。うんざりしているのはわたくしの方ですよ」

「……なんだと?」


 コウハクは「何を言っているんだこの人は」と言いたげに心底呆れたような表情をし、ついには「はぁ」とため息までも零してしまうのだった。


「もうこの際だからはっきり言わせてもらいます。主人さまは……凄いのです。他の何とも比べようが無い程に」


 コウハクは穏やかにそう言った後――


「第一に、生前の生き様が凄過ぎます。己の身を投げ打ってでも少女を救って見せたその雄姿、あれは誰にだって出来るものではありません。神話に載っていないのが不思議なくらいです。神ですか? 神ですよね貴方。

 イルエスさんを危機から救って見せた時もそうです。強き悪を討ち、弱き善を救うその御心は大きさが測り知れないのではないですか? 広すぎませんか? 他の有象無象共に差し上げてはいかがですか? もっとも、残念なことにどうせあげたところでまた自分で勝手に拡張してしまうんでしょうけど。

 そもそも、顔の表情を見ただけでその人の心理を言い当てるリアルスキルは何なのですか? 勝手にわたくしの心覗かないでくれます? 主人さまのことばっかりしか考えてないのがバレちゃうじゃないですか。いい加減にしてくれます?」


 次に心底イラついた顔になり、そう早口に吐き捨てた。


「あ? アホか。あんなもん当たり前のことしただけだろ。何もすごくないって。だから言ってるだろ。お前の方が凄いって。俺なんかと違って」

「は? 馬鹿なのは貴方でしょう。善行を当たり前にこなすことがどれほど難しいことなのかお分かりなのですか? 貴方は凄過ぎるんです。わたくしと違って」

「……あん?」

「……はぁ?」


 その後、コウハクと白夜はお互いに一歩も譲らず、バチバチと火花を散らして睨み合う。


 そして――


「ああん!? カッチーンときた! なんだてめえ! お前のが凄いっつってんだろ! スキルとか<全知アンニシャス>ってなんだそりゃ!? 汎用性高すぎるだろ! ふざけんな! しゅじんこうの影薄くなんだろ!」


「はああ!? カチーンきました! なんですか貴方! 貴方のが凄いって何回言えば分かるんですか!? スキル<削除デリート>と<創造クリエイト>とか言う馬鹿みたいなチートスキル二つ持ちとか舐めてるんですか!? やめてくださいよ! ヒロインの表に立つ機会が減るじゃないですか!」


「あぁ!? じゃあ今だから言うけどさ、お前一々あざとすぎるんだよ! 何回も何回も頭撫でろって顔して甘えてきやがって! ふざけんな! あんなもんかわいすぎてつい撫でちまうだろが! お前のせいで俺の指紋無くなったらどう責任取ってくれんの!?」


「はぁ!? じゃあ今だから言いますけどね、貴方一々優しすぎるんですよ! 何回も何回もわたくしの身を案じて! やめてくださいよ! あんなのかっこよ過ぎてつい甘えたくなってしまうではないですか! 貴方のせいでわたくしは最低一日一回頭を撫でてもらえないと満足できなくなってしまったんですよ!? どう責任取ってくれるんですか!」


「ああん!? てめえ何言って――」

「はあぁ!? 貴方こそ何言って――」






 そうやって、しばらくの間、互いに互いを罵倒(?)しあう。






 やがて二人ともが「ぜーぜー」と息を切らし、言葉を発することが出来なくなった時――


「……はぁ……はぁ……やっぱり、俺達は、一心同体……はぁ、似た者同士、だな」


 白夜はそう言って汗をかきながらニカリと笑い――


「……ふぅ。少しは元気出たか? これからは一人で溜め込まずに、ちゃんとこんな風に発散するんだぞ? わかったか? 愚痴くらい俺が幾らでも聞いてやる。だから……これからもよろしく頼むぞ、コウハク。頼りにしてる」


 穏やかな声音でそう言いながら、コウハクの頭にぽんと右手を乗せ、優しく撫でる。






 ――本当に、この人には、とてもとても、敵いそうもない。






 コウハクは喜怒哀楽の感情全てがごちゃ混ぜになり、やがて決壊し、白夜に力一杯抱きつき、また涙を延々と流してしまうのであった。






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