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第六十三話 狼少年、覚醒する。






「――っ!? なんだと!?」


 あの黒い狼が今まで白夜達のそばにいた狼少年のギンである。

 その事実は白夜達を焦らせるには十分だった。


「まずいっ! ギンはどこに行った!?」


 白夜は慌てて破られた窓の外を見る。

 しかし、周りにはギンの姿が見えない。

 となると――


「まさか……村を襲いに……?」


 イルミナが口を開く。

 その可能性は高いだろう。

 それはなんとしてでも止めなければならない。

 白夜がそう考えていると――


「いえ、その可能性は低いかと。覚醒したての『狼男ウルフマン』は、最初こそ血に飢え暴走してしまいますが、いざ自分の身に脅威が降りかかり、慌てるとまずは危険が降りかかる可能性を避けます。狼男は慎重かつ臆病ですから。群れを探し、合流するかと」


 狼男のクロヌスがそう説明する。


「……となると、向かった先は森か……ならば、まだなんとかなるな」


 白夜はギンが村を襲ってしまうことを一番危惧していた。

 村を必死で守ろうとしていた誰よりも心優しい少年が、そんなことをしてしまう魔物に成り果てるなど悲しすぎる。


「クロヌス。覚醒について教えろ。今度は詳しくだ」

「かしこまりました」


 白夜はクロヌスに狼男の覚醒について聞き出す。

 狼男は通常人間の形態で生まれ育ち、しばらく経つと血肉を渇望する欲に飲まれ、狼形態へと変貌する。

 大概はその家族を貪りその後は冷静になり、欲を満たすために慎重に行動するようになる。






 そして覚醒した後は、覚醒する前の記憶が失われる。






「私は主君で仰せられる、イルミナ様に心を清められ、もはやそのような渇望は毛程もございませんが……狼男とは、そういう種族なのでございます。ハクヤ様」

「なるほどな……分かった」


 白夜は一つ頷き――


「絶対に、ギンをその種族の呪縛から解き放ち、救ってみせる。クロヌス、イルミナ、コウハク。協力してくれ」


 狼少年ギン。

 心優しき少年を取り戻すため、白夜達は行動に出るのであった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 ――渇く。喉が渇く。血を啜れ、啜り尽くせと渇く。




 ――減る。腹が減る。肉を食え、食らいつくせと減る。




 あの小さな人間のメスの血肉は非常に美味そうであった。


 飲みたかった。

 食べたかった。

 食らいつきたかった。

 貪りつきたかった。


 その欲を抑えることなど、到底不可能だった。

 ――俺は食べる。こいつを食らう。貪り尽くす――そう決めた。

 

 だが――


「コウハクから、離れやがれっ!!」


 それを邪魔する者が居た。


(っ! なんだ!? こいつは――)


 そう考えた瞬間、腹部にズドンッと強烈な衝撃を感じる。


「キャインッ!?」


 狼は呻き声をあげ、窓を突き破り、外へと吹き飛ばされる。


(グハァッ!?)


 狼は地面をゴロゴロと数度転がり進んで衝撃を殺し、瞬時に痛む体を起こす。


(……な、何が起きた?)


 未だ自分が何をされたのか分からないが、取り敢えず冷静になることが出来た狼は体制を整え直すことを優先する。


(あの者は強いっ! 取り敢えず、ここから離れなければ!)


 そう考えていると、向こう側から何やら安心する――仲間と思しき者の多数匂いが多数してくる。


(この匂いは……同胞達か! そこに行けば、取り敢えずは安心だ!)


 狼は瞬時にそちらに走り出す。

 村をかけ抜け、森をくぐり、しばらく走り続ける。


 すると――


「――っ! 何者だ!」


 そこには狼と同じような体躯をした、黒い狼が居た。


「あっ……な、仲間だ!」


 狼は咄嗟にそう宣言する。

 すると――


「……何? お前……」


 とまるで怪しげなものを見つめる視線を送ってくる黒い狼。


 狼はかけるべき言葉を間違えてしまったのではないかと焦燥する。

 黒い狼は狼のことを信じられないものを見るかのような疑心の眼差しを向けている。

 見知らぬものが目の前にいきなり現れ、「仲間だ」などとほざいているのだ。

 疑いの念を向けられないはずがないだろう。


 狼が少々落胆していると――


「お前、遅すぎるぞ! 作戦は間も無く開始される。リーダーから指示が降りた瞬間、この村を貪り尽くす。そんな楽しい時間を心待ちにしている者は多いというのに……呑気な奴だな」


 その黒い狼は首を左右に振り、「信じられない」と言いたげな仕草をする。


「あっ……その……かたじけない」


 狼は首を縦に振り、申し訳なさそうにする。


「あぁ、別に責めちゃいない。ほれ、お前もさっさと配置に付け」


 そう言って黒い狼は首をふいっと振り、空いている場所に付くように促す。


「……え? お、俺を……信じてくれるのか?」


 狼は咄嗟に歓喜の感情が心を埋め尽くし、顔を綻ばせる。


「は? 何言ってんだ? お前どう見ても狼男だろ。俺達狼男が同胞を疑うわけがなかろう?」






 その瞬間、狼の心は満たされた。


(嬉しい……! 信じてもらえた……! 今まで、信じてもらえたことなんて……)






 ――おかしい。






 今までとは何か?


 昔のことがいまいち思い出せない。

 狼は自問自答を繰り返していた。

 なぜ、この黒い狼に自分のことを信用してもらえたのが嬉しいのか。

 なぜ、自分は今この場所にいるのか。

 なぜ――


「――っ! おいっ! ついに指示が降りたみたいだぜ……! ひゃっほう! 待ちくたびれたってもんだな? おい!」


 すると、突然黒い狼が満面の笑みとよだれを浮かべ、そう言った。


「……え? 何がだ?」


 狼が黒い狼に対してそう問いかけると――


「何がってお前……何がもクソもあるかよ! 食事の時間ってことさ!」






 狼は思い出した。

 あの時湧いて出てきた衝動を。

 到底抗えそうにもない、あのドス黒い――悪魔的欲望を。




(飲みたい食べたい食いたい食らいつきたい貪りたい)




 狼は欲望に全身を飲まれ、先程抱いた悩みなど、もうどうでもよくなっていた。


 狼は目先の餌場を目標にし、群れに着いて行くのであった。






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