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第五十八話 神様一行、狼少年の家に入る。






 白夜達は狼少年――ギンの家にお邪魔し、疑問に思っていたことを問いかける。

 まず、白夜達が「冒険者である」ということを村長に話した途端、目に見えて怒り、即刻立ち去るように言われた件についてだ。


「そうでござったか……。この村には以前、モンスター対策のためにヒュマノの冒険者ギルドに依頼を送っていたでござる。……しかし、先の抗争によるものでござろうな。冒険者も全く依頼を受けてくれなくなったでござる。『自衛は自分達でするように』ということでござろう。言い方は悪くなってしまうでござるが……見捨てられてしまったのでござるよ」


 ギンはそう説明してくれた。


「なるほどな……分散していた戦力をかき集めるためか」

「左様でござろうな。再度依頼するにしても費用が高く、いざ大金を支払って依頼しても冒険者は依頼を受けてくれないのでござる。恐らくそこまで手が回らんようになったのでござろう。なので冒険者に対して快く思う村人は少ないでござる」

「えぇ……それってあたしたちトバッチリじゃん! あったま来るな〜」

「主人さまの御心を知りもせず、弾き返す。とんだ愚行ですね」

「おいおい……少し静かにしてな」


 白夜は関係ないことでかしましくなりそうな二人をとどめ、少し考える。


(なるほど……冒険者のことを「金の亡者」と言っていたことも納得できる)


 自分達の村を守る手段が無くなり助けを呼んだにも関わらず、冷たくあしらわれてしまったことによって目の敵にしてしまっているのだろう。

 半ば八つ当たりのようにも感じてしまうが、村の命運が関わっていることだ。その気持ちも分かる気がした。


「ありがとうギン。納得できた。だけど……ギンはそう思ってないみたいだな? 俺達を快く家に入れてくれたし」


 白夜はギンに問いかける。

 ギンだってこの村の一員なのだ。

 冒険者を快く思っていなくても不思議ではないはずだ。

 だが――


「そんなの関係ないでござる。誰であろうと困っている者に手を差し伸べるのは当たり前のことでござる。……今は亡き、母上の教訓でござるから」


 そう言ってギンは表情をわずかに曇らせてしまう。


「……すまなかった。いらないことを聞いてしまったな」


 白夜はギンに頭を下げ、心より謝罪する。


「……こちらこそかたじけない。拙者は大丈夫でござる。頭をあげて欲しいでござるよ」


 ギンも白夜に謝罪し、頭をあげるよう促す。


「ありがとう。それでもう一つ聞きたいことがあるんだが……。この村に『救世主』と呼ばれる者は滞在しているか? もし良かったら会って話をしてみたいと思っているんだが……」


 村の救世主と言われるくらいの大物と知り合える利点は大きい。

 白夜はホフキンスの爺さんに次ぐ、新たなパイプを手に入れられないかと画策し、ギンに問いかける。


「……あの者でござるか」


 すると、ギンの表情が何やら不穏なものへと変わる。


(――なんだ?)


「……どうした?」

「……いや、何でもないでござる。確かにそう呼ばれている者はこの村に昨日から滞在しているでござる。村長の家で世話になっているはずでござる」


 ギンはそう白夜に答える。

 だから村長は白夜達のことを救世主と間違えたのだろう。

 行き違いになってしまっていたらしい。

 しかし、あの家に居るとなると、話を伺うのは難しいだろう。

 村長には既に忌み嫌われてしまっている。――どうしたものか。


「……なるほどな。これも納得した。そいつは周りからどういった評価を受けているんだ? ――まずはお前の主観ではなく、そっちから頼む」


 白夜はとりあえず、目の前に居るギンから情報を聞き出すことにするが、一応釘を刺して問いかける。――ギンは救世主のことをあまり快く思っていないように見えた。


「……了解した。その者はこの近隣の村を襲う魔物を退治したり、村の仕事を手伝ったりすることをほとんど無償でこなしてきたござる。現に何人もの村人が救われた経験をしており、その者が滞在する間はその村に危機が迫ったことはないと言われているでござる」


(なるほど。確かにそう聞いただけでは、普通に救世主だな。ギンが何か良く思わなかった理由が果たしてあるのだろうか……)


「なるほど。わかった。じゃあ次に――ギンの意見を聞こうか。あまりそいつのこと、良く思ってないんだろう?」


 一瞬ギンの体がピクリと弾む。――図星のようだ。


「……なぜ、そのように思われたのでござるか?」

「簡単だ。救世主のことを『あの者』呼ばわりだし、何より表情に出過ぎだな」


 白夜は自分の顔をチョンチョンと指差しながらそう指摘する。


「……不思議な方でござるな。何かしらの術でござろうか……」


 ギンはそう言った後、本心を語り始める。


「……あの者からは『死臭』がしたでござる。遠くから漂ってきた僅かな物でござったが、疑うには十分な物でござった」


 ギンは顔を顰めて、続きを語る。


「……村の者にはこれまで何度も忠告したでござる。あの者は何やら危険だと。今日も回っていたでござるが……拙者は見ての通り、獣人族でござる。人間のみが住まうこの村からは腫れ物扱いされているでござる。そんな者の言葉と近隣の村の救世主と言われている者の言葉。どちらを信じるかなど……答えを聞くまでもないでござろう」


 ギンは諦めたかのように顔を振った。

 これまで幾度も村人に忠告して回ったのに、全て信じてもらえず、追い払われてしまったのであろう。

 その表情からは悲痛な悲しみを感じてしまう。


「そうなのか……。よし、分かった。じゃあ俺はお前の言うことを信じるよ。俺達がしばらくこの村で見張っておいてやる。それでそいつが何か怪しい行動をしているようならとっ捕まえてやるさ。あ、お代は結構だぞ?」


 白夜がにこりと笑いながらそう言うと、ギンはパッと顔を向け、その表情には驚愕を浮かべていた。


「なっ……なぜ、拙者の言うことを信じてくれるのでござるか? 村の者達には……全く信じてもらえなかったというのに――」

「簡単さ」


 白夜はギンにウインクをし――


「『誰であろうと困っている者に手を差し伸べるのは当然』だったか? 俺もこれとよく似た教訓を元に生きてるからな」


 そう言って、白夜はギンの言うことを信じることにしたのだった。






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