第五話 現人神、試し打ちする。
白夜は宙に浮かぶステータス画面を見ながら、ある問題点について、しばし悩んでいた。
「しかし……ふむ」
「どうかされましたか? 主人さま?」
発光体が問いかけて来る。
白夜は今までずっと気に悩んでいたことがある。
――発光体と喋る人間って、側から見ると、変じゃね?――と。
異世界では普通のことなのかもしれない。
だが、白夜はつい最近まで現実世界で生きていた。
あの世界で手の上に乗る発光体に喋り掛ける白夜の姿を見て「なんでお前電球に喋りかけてんの?」と、疑問に思わない人は居ないだろう。
今は周りに誰も居ないため問題はない。
が、そのうち誰かに見られるときが来るだろう。
「異世界だから、大丈夫!」という考えは、まだこの世界のことをろくに知りもしない段階ではあまりにも危険すぎる。
異世界でもそれがおかしかった場合、白夜は確実に変な奴というレッテルを貼られる。
早急に手を打つ必要があるだろう。
――正確には<スキル>を打つのだが。
「……一つ、気に食わないことがある」
白夜は重々しく言葉を発する。
「と、申しますと?」
「それは、君についてだ。賢者君」
「――は、はいっ!? 申し訳ございません! 何か、粗相を犯しましたでしょうか……?」
なぜそうなるのか白夜には分かりもしない。
故に先ほどまでの件で、この子に警戒されているのかもしれないと白夜は即席で考える。
(やはり猛反省だな……。これからは、安易にもふり、絶対しない!)
白夜はそう、心の一句を唱えた。
「いや、言い方が悪かったな。ごめんごめん。……君は、実態を持つことはできないのか?」
「――あっ、はい……。わたくしはまだ若輩故に、世界に大きな影響を与える存在である、姿を表すことが出来ないのです……。申し訳ありません……」
(ふーん。なるほどな。だったら――)
「そうかそうか。ならちょうど良い。俺のスキルの試し打ちをさせてもらおうか」
「……! そ、それは、つまり、わたくしを……<削除>する……ということでしょうか……?」
(――もう良いや、めんどくさい。さっさとやろう)
「まぁ任せなさい」
白夜はそう言って<解析>で出ている画面をじっくりと見る。
何やら勘違いされているようだがお構いなしだ。
手を翳してフッと振り払うと、画面が遷移する。
そこには種族、心情、過去などの、白夜の様々な情報が映し出されていた。
(さて、俺のデータは……お、あった。これか。ふんふんなるほど。とする場合は……へぇ、あれが重要か。ふーん。じゃあギリギリで止めて、影響を受けないように? ……うーん。しっくりこんな。パパッとこう……)
何となくわかった。
――理解するのを諦めたわけじゃない。
「それじゃあ、いくぞ?」
白夜は右手の手の平の上にある発光体を左手へと移し、優しくしっかりと握る。
「わっ!? あ、主人さま! 一体何を!?」
「なぁに、すぐに終わるさ」
白夜はニヤリと笑みを浮かべる。
「――っ! も、申し訳ございません……わたくしが至らないが為に……。せめて我が身を持って、主人さまのお役に立てさせてください……」
発光体は声が少し上擦っている。
――どうやら泣いているようだ。
「やっぱり勘違いされてる……悪魔か何かだと思われてそうだ」と白夜は思い、少し気が滅入る。
(……まぁ、いい。悪魔だろうとなんだろうと罵られようと、俺の社会的身の安全のために、その身を持って役に立ってもらうまでだ)
(――あれ? 今のセリフ、なんかちょっと悪魔っぽくね?)
「この世界に姿を現せ! <創造>!」
白夜はスキル――<創造>を発動させるのであった。