第四十七話 真祖と現人神、秘密の場所へと行く。
「ここだよ。二人共」
イルミナは白夜達を先導し、森の先へと歩いて行く。
人が一人通れそうなくらいの、狭い道をしばらく歩いていると、何やら大きな岩の塊が姿を現した。
「え? これ? ただのでかい岩じゃん。こんな所に隠しても、すぐ見つかりそうだが……」
「ふふ〜ん。まぁ見てて」
白夜がそう呆れたように言うと、イルミナは荷物を降ろし、岩肌に手を当て、目を閉じる。
(――んん? 何してんだ?)
「……どうやら、岩に魔力を送り込んでいるようです」
コウハクが説明してくれる。――それまたなぜだろうか。
「……ふぅ。終わったよ」
イルミナは終わったと言うが、岩に何も変化は見られない。
白夜が心底不思議に思っていると――
ゴトリ。ゴゴゴゴゴ。
と音を立て、岩肌の一部に人が一人入れそうなくらいの大きさの穴が開く。――隠し扉だろうか。
「こ、これは?」
「この岩にはね、特殊な細工が施されているの。吸血鬼の王族――あたしやお父さんお母さんでないと、入り口にある魔法の施錠が解除出来ないようにね」
そう言ってイルミナは入口へと入って行く。
「ほら、こっちだよ〜」
イルミナはこちらに手招きしている。
(なるほど〜。現実世界で言う指紋認証みたいなもんか。しかし、岩に施錠する……なかなか面白いじゃないか)
白夜は納得したように頷き、イルミナの案内に従い、岩の内部へと入って行くのであった。
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岩の内部は地下へと続く階段があり、地下には小さな部屋が一空間あるそうだ。
吸血鬼の王族のみが入れるその空間は、有事の際に避難する避難場所でもあり、大切な物を一時保管する保管場所でもあるらしい。――防空壕のようなものだろうか。
今は保管物が何もなく、寝具、机、椅子、棚、照明器具などの最低限度の家具が揃った、ただの岩に囲まれた洞窟のような質素な空間に見えたが――
「これ……なんだ?」
白夜はそこにあまり置いておくべきではなさそうなものを見つける。
それはこの空間の中央に配置されてある、小さな祠であった。
木でできた木祠であるそれは、ハの字型の屋根――切妻屋根を備え、前面にこちら向きに開く扉――観音開きの扉が付いている。
「あぁ……それは吸血鬼の神様を祀ってある祠ね。一応、ここはそれを祀るための場所も兼ねてるらしいから」
イルミナはぶっきらぼうにそう語る。
「吸血鬼の神様って……まさか『真祖』か?」
書斎で見た情報では、吸血鬼の種族である『真祖』というそれは、神にも勝る程の強力な力を有しており、正に吸血鬼における神そのものであった。
だとすると、この祠は『真祖』を祀ってある可能性が高い。
「そうね。あたしを祀ってあるのかもね」
そう言ってイルミナはクスクス笑う。
「いや、お前はつい最近なったばっかりだろ……」
「……その祠、興味深いです。少し詳しく調べても?」
するとコウハクが興味津々に祠を見つめている。――これは賢者モードだ。なら任せて大丈夫だろう。
「だ、そうだが……イルミナ、いいか?」
「いいんじゃない? もう吸血鬼あたししか居ないし。バチも当たんないでしょ」
イルミナは荷物を置き、適当にひらひらと手を降り、了承する。――なんとまあ適当な。
「そうか。なら頼んだぞコウハク。何かいい情報が得られたなら教えてくれ。荷物は俺が預かろう」
「かしこまりました! では失礼ながら、荷物をお渡しします」
白夜はコウハクから荷物を受け取り、空間内に置いていく。
全ての金銀財宝を持ってくることは出来なかったが、これだけあればもしもの際、金銭問題に頭を悩ます必要もなくなるだろう。
白夜は「ふぅ」と一仕事終えた後のため息を吐き、コツコツと歩いてコウハクが調べている祠へと向かう。
「どうだ? 何か分かりそうか?」
コウハクは観音開きの扉を開き、そこに祀られてあるオレンジ色をした綺麗な石を眺めていた。
「……これは?」
「……これは『銀朱石』と言う宝石のようです。神の奇跡を宿すことが出来るほどの強力な石のようです。全てを解析するには、これもまた時間がかかりそうです」
その石の名前は銀朱石というらしい。――レアアイテム二つ目だろうか。
「ふむ……これも持って行きたいものだが……」
「いいんじゃない? 持って行こうよ!」
イルミナはまた適当にそう言う。
「だけどなぁ……神様祀ってある所の物持ち出すと、なんかバチ当たりそうでなぁ……」
と心底不安そうにしていると――
「あはは。神様が何言ってんの? ほら、良いから持って行く。何ならあたしが持っててあげ――」
そう言ってイルミナがその石――銀朱石に触れた瞬間。
イルミナを一瞬ぱぁっと光が包み込み、やがてすぐに解放される。
「――っ! 何!?」
(――何だと!? まさか……これは……)
「……え?」
「……へ?」
コウハクは何やら呆けており、イルミナは何が起こったのか分かっていないようだ。
白夜は自分の予想を確認するため、即座に行動に出るのであった。




