第四十六話 真祖と現人神、金品確認する。
白夜達三人は金品の確認をするために、玉座の間にやってきた。
そこにはキラキラと輝く金銀財宝がバラバラと置いてあった。
中には白夜を地に伏せた、あの頑丈なトラウマ花瓶もなぜか置いてあった。――嫌がらせだろうか。
「思ったよりも少ないのな」
白夜はそれらを見て正直な感想を述べる。
吸血鬼の国の王城なのだから、もう少し大量にあるものかと思っていた。
「仕方ないよ。うちは復興させるのに手一杯だったし」
イルミナはそう答える。
「……すまん。余計なことだったな」
白夜は聞かなくても良かったことを聞いてしまったように感じ、謝罪する。
それほどまでにこの国は余裕がなかったのだろう。
「ふふっ。大丈夫。もう終わったことだし」
そう言ってイルミナは微笑んでくれる。
「……そうか。じゃあイルミナ、コウハク。この中で持って行った方が良さそうな、希少な物はあるか?」
白夜は二人に促す。
自分ではどうも価値が分かりそうになかった。
ここは二人に任せておいた方が良いだろう。
「あたしとしては〜この花瓶とか、オススメだけど〜?」
イルミナがいたずらにそう返してきた。――勘弁して欲しい。
「わたくしもそれが良いかと思います」
コウハクもそれが良いと言い張る。――コウハク、お前もか。
白夜が二人娘にいじめられた悲しみを背負い、「およよ」とすすり泣く直前――
「その花瓶は何やらとても上質な素材で出来ている模様です。わたくしのスキル<全知>による解析も時間がかかりそうです。しばらくは持っておくべきかと」
コウハクは真剣に考えてくれていたらしい。
そう答えてくれる。
おかげで白夜はめそめそと悲しんでいた自分が阿呆らしくなってしまった。
「……そ、そうか。あんまり良い思い出はないが、持っていくか」
そして快く了承しておく。
「へぇ〜お母さんの花瓶、そんなにすごいやつだったんだ〜」
イルミナは呑気にそう呟く。
「えぇ。かなり希少な鉱物のようです」
「そっか〜。なんだろ? ミスリルとかかな?」
「恐らくはその辺り……いや、それ以上かと」
「おぉ〜! すごい!」
「他は特に興味を引く物はありませんね。解析も済みましたし、わたくしの<全知>と組み合わせていつでも主人さまのスキル<創造>で創造出来ます」
「そっか〜。じゃあ置いてこ」
そんな風に二人が仲良く品定めしている間――
(ミスリル……? 聞いたことあるような無いような……。まぁ、何がすごいのか俺には分からん)
などと白夜は考えていた。
白夜はこの世界の鉱物について考えるのは取り敢えず置いておき、旅に持っていく物は花瓶に決定するのであった。
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持っていくものが花瓶に決まり、次はお小遣い――通貨の確認だ。
「イルミナ。通貨はどのくらいあった?」
白夜はイルミナに確認する。
「通貨ね〜。えっと、これかな。ちょっと少ないけど」
そう言って金銀財宝の中に紛れ込んである白い皮袋を指差す。
白夜は皮袋が置いてある場所に近づき、袋を開けて中を確認してみる。
サンタクロースが担いで来そうなくらい大きな袋には、キンキラ輝く金貨が一杯に詰められていた。
「へぇ……結構あるじゃん」
「そう? もうちょっとあると思ったんだけどね〜」
お嬢さんは金銭感覚がおかしいらしい。これだけ金貨があれば――
あれば?
白夜はふと思い出す。
(……金貨は一枚十万円。ここにはサンタが担げそうなくらいある。ってことは……これ……!)
「ええええええええ!?」
白夜はつい、大声を出して絶叫してしまう。
「――っ!? な、何? どうしたの?」
「――っ!? あ、主人さま!? いかがなされました!?」
イルミナが心配そうに白夜を見つめ、コウハクは即座に駆け寄ってくる。
「――あっ!? ご、ごめん。大丈夫。あまりの大金に目が眩んで、ちょっと金銭感覚がおかしくなっただけだから……」
「えっ? そんなに驚くこと?」
「そうでしたか……安心しました」
白夜は心配そうに見つめる二人に対して心配無用と伝え、少し冷静になって考えることにする。
(……ふむ。これだけあるならば、恐らく学費も払えるはずだ。……てか多分こんだけいらない。現実世界の大学だと、一年で一人当たり百万円程度あればいけた筈だ。それが三人分で三百万、生活費は多く見積もっておいて月三十万とすると、年間費用……およそ一千万円。金貨にすると……百枚か。百枚なら三人で大体三十枚ずつ持っておけば良いくらいだし、余裕で持っていけそうだ。後は異世界と現実世界の金銭感覚が同じだと良いが……)
白夜は金銭問題による計画の破綻確率が少なそうなことに安堵し、次の問題へと移る。
(問題は『勿体無い』という俺の欲だ……。これらの金銀財宝はここに置いていくにはものすごく名残惜しい。何か良い案はないか……)
白夜はそう考えるも、良い案は浮かびそうにもない。――ならば、ここは協力プレイだ。
「ここにあるもの全てが誰かの手に渡ってしまうのは惜しい。価値があるものを少しでも隠せるような場所に心当たりはないか?」
白夜はそう二人に問いかける。
「……申し訳ありません。主人さま。わたくしはまだ塔内全てを散策したわけではありませんので――」
「あっ! それなら、良い所があるよ」
イルミナが頭上に電球をピカリと光らせる。――どうやら心当たりがあるらしい。
「おぉ、それは良かった。取り敢えず、必要な分のお金と花瓶以外はそこに置いておこう。そして、また必要になった時に取りに来れば無駄は無いな。――そうと決まれば、すぐ持って行こう。イルミナ、案内頼んだぞ」
白夜達は金銀財宝を持ち出し、イルミナの言う場所へと向かう。
イルミナは得意げに、コウハクは少し悔しげにしている。――何か勝負をしていたのだろうか。
白夜は勝気溢れる二人を見て「なんの勝負してるんだよ……」と少々呆れながら言いつつ、イルミナの言うその場所へと向かうのだった。




