第四十五話 真祖と現人神、出立準備する。
あれから白夜達は城を出て行く準備を始めていた。
イルミナは城内で金品収集、白夜とコウハクは書斎で情報収集。
コウハクの仕事は早く、物の数時間で書斎内の本ほぼ全てを解析することができた。――<全知>、半端じゃない。
その結果、白夜が重要そうだと感じたこの世界についての情報は大きく分けて二つ。
一つは魔法。
魔法とは、魔法陣を描き、それに魔力を流し込むことで発動する、この世界においての科学とも呼べる力のことだ。
現に風呂場やキッチンで水を生み出したり湯を沸かしたりするのにも、魔法が込められた石を使用していた。――イルエスやイルミナから少し教わったものだ。
魔法には属性が存在する。
現在発見されている攻撃属性魔法は『火』、『雷』、『闇』、『水』、『風』、『聖』属性の六つ。これらの属性とは異なる所に、回復属性魔法として『癒』属性がある。
もう一つは冒険者について。
冒険者とは、ヴラッド以外の各国にギルドを持つ自由組織『冒険者ギルド』が保有するメンバーのことである。――以前襲ってきた者達も、どこかで雇われた冒険者だったと言うわけだ。
冒険者ギルドは数々の依頼主から依頼を受け付け、ギルドは依頼請負人を募る。
請負人である冒険者はギルドに張り出された依頼を受け、達成するとギルドから報酬を貰う。――ゲームでよくある話だ。
白夜はこの二つの情報を元に、ある計画を立てる。
すると、書斎の扉がガチャリと開かれ――
「ハクヤさん。金品の整理終わったよ〜」
と言いながら、イルミナが書斎内へと入ってきた。
「おぉ、早いな。……とは言っても、結構時間経ってるのか」
ふと窓の外を見て見ると、もうすでに日が傾き始めている。
「そうだね。あんまり状態の良いものは残ってなかったから」
そう言って、ツカツカと白夜の方へと歩み寄り、隣の席の椅子を引き、ストンと座る。
「はぁ〜疲れた。何か、ご褒美が欲しいな〜?」
すると、イルミナがこちらをチラチラと見てくる。――あざとい。
「よしよし。よく頑張った」
白夜はそう言って、イルミナの頭を撫でておく。
「えへへ……ありがと」
イルミナは途端にご機嫌になった。――目的はこれだけだったのだろうか。
「あ、主人さま! わたくしも頑張りました!」
もう片方隣に居るコウハクが何やら懇願している。
「はいはい。偉いぞ〜」
そう言って、少し乱暴にガシガシと撫でておく。
「む、むむむ……対応に差があるような……」
白夜は少し不満そうにしているコウハクを余所に、先ほどの計画について話すことにする。
「ははは。そんなことないさ。――さて、この世界についての大まかな知識は身についた。だが、まだまだ足りないところがあるはずだ。そこで、俺達がヒュマノに入ったらやることが二つある」
そこで白夜はピッと指を二本立て、説明する。
「一つは冒険者ギルドへの登録、一つは学校への入学だ」
「冒険者と――」
「学校ですか?」
イルミナとコウハクが首を傾げた。
説明が必要だろう。
「そうだ。まず俺達に足りないものは、この世界における身分、知識、それから強さだ」
白夜は腕組みをし、少し考え込む素振りを見せる。
「……そこで、これらを解決するために、冒険者ギルドの登録と、学校の入学が必要になるってわけだ」
ただ、すぐには考えが纏まらず、取り敢えずお茶を濁す。
すると――
「なるほど! 冒険者登録して、あたし達の身分を確立させることで、他の国にも行けるようになるってわけね!」
「それだけじゃないですよ。冒険者となって依頼を達成するたびに、信頼関係が生まれます。そこから人脈も得られますし、依頼をこなし続け、有名冒険者チームとなることでギルドからであったり、冒険者チームからであったり、各種情報が集まりやすくなる利点も考えられます。もちろん、依頼をこなしていく事で強さも得られるでしょう」
「おぉっ! すごい! 良いこといっぱいあるじゃん!」
「身分の確立と情報収集、更に強さが獲得出来る。正に一石二鳥……いえ、二鳥どころではない利点が他にも多々ありますね。さすがは主人さまです!」
「えぇっ!? まだ他にも良いことがあるの!? やっぱりすごいやハクヤさんは!」
などと言って、勝手に理解を深めていく二人娘達。
(おぉ……そんな利点が……)
と白夜が思っているのを余所に、二人は大いに盛り上がってしまっている。
ぶっちゃけ白夜が冒険者になると言った理由は、『面白そうだから』と言う点が大きかった。
だがしかし、よくよく考えてみると、これだけの利点があったのだ。
「ま、まぁな」
白夜は今更「そこまで考えてません」とは言えず、重々しく頷くことしか出来なかった。
「ただ、なんで学校にも入学しないといけないの?」
「えっと……それは――」
「簡単ですよ。確かに冒険者となって、世界を旅することには様々な利点があります。しかし、欠点もあります。そうですね……例えば、わたくしが今から主人さまとジャンケンをすると言って、主人さまがパーを出すことが分かっている場合と、何を出すのか分かっていない場合、どちらの方が勝ちやすいか分かりますか?」
「もちろん。知っている方が勝ちやすい……てか、絶対勝てるじゃん! バカにしてる?」
「すみません。極端でしたね。でもそういうことですよ」
「――? そういうことって……あっ! そっか! 知ってたら、怖くないんだ!」
(え? 何? どゆこと?)
白夜はさっきから一人置いてきぼりを食らっている。――なんだか寂しい。
「ふふっ。分かったみたいですね」
「うんっ! つまり、この世界の危険性について熟知しておくってことね!」
「そう言うことです。冒険の途中で危険なモンスターに遭遇した場合、そのモンスターについての知識が有るか無いかでわたくし達の生存確率は大きく変動します。モンスターだけではありません。自然だって脅威になり得ます。それらの対策方法を知っておくと言う目的が一つです」
「へぇ……あれ? 一つってことは……学校に入ることの利点がまだ他にもあるの?」
「はい。もう一つは、一般的教養を得ることで、人間のみならず、各種族に対する対応方法もある程度は分かるという点です。各種族の礼儀や文化――それらについて知っておくことで、未然に戦いそのものを防ぐ事が出来るかもしれません。
そして強さに関しても、学校である程度の訓練が行えるでしょう。魔法などの知識を得るためにも、魔法学校のような施設がある場合は、そこへ入学するのが一番でしょうか」
「なるほど……事前にちゃんとした礼儀作法を身につけて無駄な戦いを避けて、いざ戦いとなった時のために準備体操をしっかりしておくってことね。ハクヤさん、そこまで考えてたんだ……」
(はぇ〜。そんな利点までもが……)
これに関しても、『魔法学校とか、面白そうだな〜』と言うのが大きかった。――またこれ程利点があったとは。
「その通りです。そういった知識を未然にしっかり備えておくことで、冒険の危険性を下げようとされたのですよね? 主人さま!」
コウハクがいきなりクルンとこちらへ向き、白夜に対して唐突に質問という名の豪速球を投げてくる。
(うっそ。俺? 待って。まだ理解が追いついていないから――)
「ソウダネ。ソノトオリ。サスガハオレノコウハク」
――あん?
(おい! また出てきやがったな! 最近出番無かったからって、適当なこと言うな!)
「お、俺のだなんて……そんな……えへへ」
「おぉ……やっぱりすごいね……ハクヤさんは」
コウハクは先程までの博識な賢者の如き雰囲気から、だらしなく「えへへ」と惚けてしまった雰囲気へと変わる。
イルミナは何やらすごい奴を見るようなキラキラとした尊敬の眼差しで白夜のことを見つめてくる。
(……今回は許してやる。良くやった)
「ノープロブレム」
珍しく仕事をした脳内の白夜に対して礼を言い、白夜は計画の利点(コウハク製)をしっかり理解し、把握しておくのであった。




