第三十九話 現人神、真祖と仲違う。
白夜はコウハクとイルミナを引き連れ、イルエスを背負い、城の中庭まで来ていた。
ここにはイルエスが埋葬した仲間達が眠っている。
イルエスもここで眠りに付きたいことだろう。
すると、仲間達の眠る墓に、一つだけ空きがあった。――どうやらここで眠りに付きたいと言うことだろう。
白夜はイルエスをそっとその場所に寝かせる。
ただ、白夜には一つ不安が残っていた。
「……イルミナ。悲しいとは思うが、一つ提案があるんだ」
「……なに? ハクヤさん」
泣きはらして、目を赤くしたイルミナが問いかける。
「俺のスキル<削除>で、ここに眠る皆を消滅させようと思っているんだ」
白夜は残酷な答えをイルミナに返す。
「――っ! な、なんでそんなことを!」
「イルミナ、聞いてくれ」
キッと睨みつけるイルミナの肩を抱き――
「以前襲って来た奴らが居るだろ? あいつらが帰ってこないとなると、向こうも流石に怪しむ。こっちに向かって、何らかの使者を送ってくる可能性が高い。そうなる前に俺達はここを離れないといけない。そこに来た奴らが誰も居ないこの城の財産、ましてや眠っている仲間達をそのままにしておくと思うか?」
白夜はイルミナを諭すため、真剣な眼差しを向ける。
「――分かってくれイルミナ。俺も酷いことを言っているとは思う。だけど、そいつらが財産だけで済めばいいが、墓まで荒らし出すかもしれない。そいつらがやらなくても、賊がやるかもしれない。だったら、俺のスキルで消してやった方が――」
バシンッ!
白夜の言葉は、頬に向けて放たれたイルミナのビンタにより止まる。
「――つっ!」
「なっ! あ、貴女、何を――」
「どうしてっ! 酷いことをしていると分かっておきながらっ! そんな無感情なことが出来るのっ!?」
コウハクが詰め寄る事に意も介さず、イルミナは今まで見たこともないくらいに怒っていた。
最初に白夜達と会った時よりも、その表情には凄みがあった。
「ち、違う! 俺はお前達のことを思って――」
「うるさいっ! あんたなんか、もう知らないっ! 顔も見たくないっ!」
そう言って、イルミナは走り去って行ってしまった。
「……イルミナ……」
白夜はどうすることも出来ず、ただ立ち尽くすのみであった。
「主人さま……」
「……大丈夫だ、コウハク。このくらい、痛くないさ」
(体はな……)
「しばらくはそっとしておこう。俺が間違えてたんだろう。きっと……」
「……主人さまは、いつでも正しいですよ……」
コウハクは白夜にそっと寄り添い、励ましてくれる。
だが、今の白夜にはあまり効果は無かった。
「……今日はもう、休もう」
(イルミナ……ごめんな)
白夜はあまりにも無神経過ぎたと反省した。
白夜のスキル<削除>は、綺麗さっぱり対象を消滅させてしまう。――塵一つさえ残さないのだ。
仲間達はもちろん、父親のイルエスだって跡形も無く消え去る。
つい先ほど父を失ってしまい、傷心してしまっている娘に対して、すぐに言うべき言葉では無かった。
もう少しタイミングを見計る必要があった。
(少し考えれば……分かったはずなのに)
白夜は後悔に唇を噛み締め、もう居ないイルミナの姿に対して、謝罪するのであった。




