第三十五話 現人神、徒党を組む。
白夜達はある計画を立てている。それは――
〜イルエスドッキリ大作戦! ーびっくりさせて、あの世へ昇天させちゃおうー〜
という計画だ。
名前はイルミナが決めた。――親子共々、ブラックジョークが大好きらしい。
「ふふ。お父さんきっと驚くわよ〜。お父さんにはいつもいっつも! 揶揄われてばっかりだったんだから! 最後くらいビシッと驚かせて天国に昇天させてあげるわ! あはは!」
イルミナが吹っ切れてノリノリになっている。――めちゃくちゃ根に持っているようだ。
白夜は「ほどほどにしとけよ……」と言いつつ、面白そうだったので、計画の立案に参加するのであった。
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(最期に、玉座の間にでも行くか)
イルエスは残り少ない時間、この塔の中を見て回ることにした。
自身と、妻と、娘と、仲間達が暮らし続けた塔だ。
ここが吸血鬼の王の城『ヴラッド=シュタイン城』であるのは、恐らく今日で最後だろう。
「私は……ただの操り人形にしかすぎなかった……愚かな王だ」
この城を守り、死んでいった仲間達を思い、心を痛めていた。
仲間達の死体は一晩費やし、城の中庭に全て埋め終え、最後に墓を一つ作成し、イルエスはここに埋められる予定だ。――もちろんイルミナの場所など無い。
イルミナにはそれはそれは素晴らしい神様が二柱付いてくれている。
イルエスに不安はない。
ただし、それはあの神様達が付いてくれている間だけだ。
あの神様達がイルミナを見捨てることは絶対に有りえないだろうが、何らかの事情で離れなければならない場合、イルミナは一人ぼっちになる。
(心優しいだけの娘が、この大きな世界で一人、生きていけるのだろうか……)
それだけが、イルエスの唯一の心残りであった。
階段をこつりこつりと上がり、イルエスは玉座の間を目指す。
廊下をかつかつと歩いて行くと、やがて大きな扉が姿を現し、押し開く。
するとそこには――絶世の美女が玉座に座っていた。
「――え? あ、貴女は一体?」
イルエスはその美女に語りかける。
「私は――吸血鬼の真祖である」
すると、その美女は吸血鬼の真祖と名乗った。
「……へ?」
――真祖。
それは選ばれし吸血鬼の中の吸血鬼。
全ての吸血鬼の頂点に立てる存在であり、その名は伝説でのみ語られる。
その力は神々のレベルにまで達し、数多の種族を眷属とする術を持つと言われている。
言うなれば――吸血鬼の神。
それが今、イルエスの目の前に居ると言う。
「貴様は、自分の娘のことを……散々、再三と揶揄ってきおったな」
だが、この美女の佇まいは自身に満ち溢れている。
勿論この目の前の存在が真祖とは到底思えない。――だが、嘘とも思えなかった。
「あっ……あの――」
「故に――罰を与える」
「なっ……!」
(なっ!? ど、どういうことだ……!?)
イルエスは美女の話を全て聞いていなかったことも相まり、理解が追いつかなくなる。
「神の裁きを受けよ!」
その言葉を聞いた後、意識が――
ブオンッ。
「――ん?」
飛ばされるようなことはなく、目の前に見たことのある、スクリーン状のデータ群が表示された。
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名前:イルミナ・ヴラッド
性別:女性
年齢:十六歳
種族:真祖
ステータス
LV:1
HP:5
PW:10
MP:10
DF:5
IN:40
SA:5
種族特性
<飲食不要>
<闇属性魔法適性>
<自動回復(中)>
<聖属性耐性弱化>
保有スキル
ハイパースキル<真祖>
魅了した者を眷属とする
吸血鬼を無条件で従わせる
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「――は?」
この美女は、何やらイルエスの娘と同じ名前の『真祖』らしい。――とんだ偶然だ。
「えへへ。お父さん。あたし、真祖になっちゃった。てへっ」
この『真祖』の方は、何やらイルエスのことをお父さんと勘違いしているらしい。――いや、貴女を育てた覚えは全くないのだが。
「わたくし、鑑定士のコウハクと言います。彼女は貴女の娘『イルミナ・ヴラッド』で、間違いございませんよ! ほっほっほ〜」
いつの間にか居た、鑑定士のコウハクさんとやらが、目の前の美女が娘だと言い張る。――付け髭がなければ、イルエスの知っている神様にそっくりだ。
「おっす! 俺、異世界から転生してきました。紅 白夜って言います。御宅の娘さん、俺のスキル<創造>で、ちょっぴり素敵に魔改造しちゃいました! ハハハ!」
いつの間にか、今異世界から転生してきたイルエスの知人と同じ名前と姿の人物が、娘を魔改造したとか抜かしている。――この人、勝手に人の娘に何してくれているのだろうか。
(……ん? ってことは、この美女……! イルミナか!?)
はあああああああああああ!?
イルエスは今まで生きてきた中で一番大きいと言える声を張り上げ、塔内に響かせた。




