第三十四話 吸血鬼の娘、生まれ変わる。
———————————————————————————
名前:イルミナ・ヴラッド
性別:女性
年齢:十六歳
種族:吸血鬼→真祖
ステータス
LV:10→1
HP:20→5
PW:20→10
MP:20→10
DF:20→5
IN:30→40
SA:3→5
種族特性
<飲食不要>(new!)
<闇属性魔法適性>
<自動回復(中)>(new!)
<聖属性耐性弱化>
保有スキル
スーパースキル<吸血鬼>→ハイパースキル<真祖>
魅了した者を眷属とする
吸血鬼を無条件で従わせる
———————————————————————————
イルミナは種族が『真祖』となった。
白夜が知る種族一覧に無かった種族である。
それを生み出せた理由、それは――魔改造であった。
単純にイルエスの『吸血鬼の王』と、イリエルの『吸血鬼の女王』を掛け合わせたのだ。
イルミナから「お父さんとお母さんの種族、合わせられない?」と提案され、白夜の創作意欲に突如電流が走った。――これは創造らねば――と。
結果は大成功。スキル<創造>は、種族情報の混合を難なく承諾し、新しい種族『真祖』を生み出した。
そして分かったこともある。
例えば吸血鬼と現人神の混合。
これはNGであった。
理由はまだ分からないが、イルミナから聞いた<創造>の話が、白夜にある仮説を立てさせた。
種族変更には白夜だけでなく、本人の意思の力も作用される。
コウハクの場合は「神になりたい」という意思が強く、『現人神』になれた。
イルミナの場合は「強くなりたい」という意思が強く、『真祖』になれた。
恐らくこの『真祖』というものは、吸血鬼の伝説に載っているような代物に違いないだろう。――スキルが吸血鬼絶対服従という代物だからだ。
後で書斎を調べるか、イルエスにでも聞いてみることにした。
「しかし……『真祖』ねぇ……めちゃくちゃカッコイイじゃん!」
白夜はいつになくテンションが上がっていた。
「えっ……そ、そう? あたし、カッコイイかな……?」
イルミナが照れ臭そうにそう言った。
「うんうん! 見た目もめちゃくちゃ麗しくなったし、これはスキルの効果も期待できそうだな! ハイパースキル<真祖>の効果は、吸血鬼の絶対服従と魅了された者の眷属化。後者の方、イルミナに魅了された者は無条件で下僕になるってことか。前でも十分だったのに、今だとスタイル抜群、美貌満載だからな! これは眷属が増えるぞ!」
白夜はついオタク魂が発動し、ペラペラと語ってしまった。
「え、えへへ……。ありがと」
再度照れ臭そうにイルミナが微笑む。すると――
「……主人さま。褒めすぎです。まさか、魅了されたりなどしていませんよね?」
不満そうな顔をしたコウハクがずいっと、すかさずカットインしてきた。
確かにそこの所は気になる。
もしかすると先ほどの意見だって白夜の意思が捻じ曲げられている可能性が有り得る。――恐ろしい。
とりあえず確認してみることにする。
「う〜ん……どうなんだろう? 多分されてないと思うんだが……イルミナ、何か俺に命令してくれないか?」
白夜はイルミナにそう頼んでみる。
「――え? えっと……なんでも……いいの?」
するとイルミナが申し訳なさそうにもじもじとしながら白夜に問いかける。――一体何を頼むつもりなのだろうか。
「まぁ……『死ぬがよい』とか、出来ないことはあるけど……常識的範囲で、俺に出来そうなことを命令してみてくれ」
一応、めちゃくちゃな命令を出されないように釘を刺しておく。
もし魅了されていて『死ぬがよい』などと命令されると、後がとんでもないことになりそうだ。――主にコウハクが。
出来ることを出来ないと突っぱねることで、白夜が魅了されていないと証明出来るだろう。
(――さぁ、来るがよい)
「じゃ、じゃあ……その……えぇっと……」
イルミナは目を左右にきょろきょろと泳がせ、両手の人差し指の先を胸の手前でチョンチョンと合わせながら――
「さ、さっきみたいに……頭を……ぽんって、してくれないかな……?」
「……っ!?」
白夜はビシャンッと雷で撃たれたような感覚に陥り、体を固まらせ、言葉に詰まる。
「……」
コウハクは冷ややかな表情で黙ってイルミナのことを見ている。
「ど、どうかな……? えへへ……」
イルミナが頬を紅潮させ、困ったように笑いながら、何かを期待するように白夜を見つめる。
(……は? なに? このかわいい生き物)
白夜はイルミナの頭にすっと手を伸ばし、数度ぽんぽんする。
(フッ……こんなもん……余裕だろ)
「――!」
「――!?」
二人が面白い顔をしている。
一人は喜び。
もう一人は――悲しみだ。
「……えへ、えへへっ!」
「あ、主人さま!? そ、そんな……!」
このままだと面倒なことになりそうだ。だから――
「はいはい。お前もやっとこうな〜」
白夜は取り敢えず悲痛な表情を浮かべているもう一人の方もぽんぽんとしておく。
「あっ……にへへ……」
「――あっ!? ずる〜い! 魅了されてたんじゃなかったの〜!?」
「ハハハ。俺の精神をなめてもらっちゃ困る。あれはお前がただかわいいから撫でただけだ。あんなの魅了使わなくったって余裕で出来る。遠慮せずにいつでも言ってきな」
「か、かわいいって……へへ」
「じゃあ! わたくしの頭をずっと撫でていてください! 二十四時間! 四六時中!」
「お前は少しは遠慮しろ……頭禿げるぞ?」
白夜は齢十八歳にして、二人の娘を持つ父親の気分になるのであった。




