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第三話 高校男子、転生する。






 五感がある。


 聴覚。

 ――風が流れ、植物の葉をさらさらと撫でるような音が聞こえる。

 チュンチュンと聞こえて来るのは鳥の鳴き声だろう。


 嗅覚。

 ――匂いもする。

 草の匂いだ。

 今分かる情報は草があり、鳥がいる場所だということだ。

 森のような場所に居るのだろうか。


 触覚。

 ――ザラザラ、サラサラする。

 これは土と草だ。

 今自分はその上でうつ伏せになって寝ているようだ。


 味覚。

 ――いや、味は見ないでおこう。

 その辺の草を食べる趣味はない。

 他の感覚があるのだから、多分あるだろう。






 そして、視覚は――






 白夜はゆっくりと目を開ける。すると、ある景色が目に浮かんでくる。


 それは木だった。

 白夜の身長の五倍以上はありそうな背丈のその木は、葉を風に揺らされ、サラサラと音を立てている。

 このような光景が見えるということは、白夜は地面に寝転がり、木を下から見上げている状態だということだろう。

 どうやら木陰で倒れて寝ていたらしい。


 白夜はゆっくりと体を起こし、もぞもぞと四つん這いで這い寄り、木に背を預け、もたれかかる。

 渦に飲まれた時は焦っていた為、あまり確認出来なかったが、体も問題なく動くようだ。

 むしろ以前より軽いかもしれないとも感じていた。


 見た目姿は黒いズボンに白いシャツ――生前の学生服そのままだった。

 顔はペタペタと触ると、一応いつも通りの感触が帰ってくる。

 恐らくこれも生前と変わらないのだろうが、鏡を見てみない限り詳しくは分かりそうもない。

 「……変なのに変わってないよな?」と多少不安には思うが、感触からしてしっかり人間していることだろう。






 どうやら転生にはとりあえず成功したようだ。






 白夜はあぐらをかいて、ここから遠くの辺りをざっと見てみる。

 白夜の居る辺りは少し高い丘になっており、辺りが良く見渡せた。

 見てみると、近辺は草原、周りは森であった。

 天気は晴れ晴れとしており、元居た世界で言う所の春のような、心地良くてとても過ごしやすい気温だ。


(ふむ……森の真ん中に木が無い地帯があって、草だけの……緑一面の世界が広がってるな。近くに木があるのは、俺が今もたれかかっているこの一本のみ。周りは草原。ほほう……なかなかにいい景色だ。しかし、こんな景色を現実世界で見たことがあるような……あっゴルフ場だ)


 そう思いつつも、白夜は現実世界のゴルフ場より大自然の雄大さというのを切に感じていた。

 この辺りには人の手が全く入っていないからであろう。

 風が木の葉や草を揺らし、サラサラと気持ちよさそうに揺れている様子を見るだけでもどこか冒険心をくすぐられる感覚を覚えてしまう。


(……ふむ、いいぞ。何か草木見てるだけでテンション上がってきた! ……お? よくみるとあっちの方角になんか黒いでかい建物あんな。でっけ〜。この木、なんでぼっちなんだろう? 今の俺と同じじゃん)






 シーン。






(……あれ? なぜかいきなり悲しくなってきたぞ。け、決して、俺が寂しいと感じているのではないだろう……断じて無いはずだ)


 白夜はそう焦りながら思っていると、ふと思い出す。


(……そうだ。そういえば俺の相棒が居るはずだが……)


 白夜があの神に願ったことの一つとして、誰か相棒を付けて欲しいというのがあった。

 なので、自分が起きたのだから相棒もきっと居るに違いないと思い、辺りを探してみる。

 しかし、一体どこに居るのだろうと、キョロキョロと辺りを見回してみるが、人影は存在しない。


(あれ? おかしいな。あの神……忘れてんじゃ無いだろうな? え、嘘……一人ぼっち?)






 シーン。






(……。めちゃくちゃ寂しい……)


 白夜が寂しさのあまり「およよ」とすすり泣こうとした、その瞬間――






「――おはようございます! 主人さま!」






 突然少し反響のかかった、子供の女の子のような大きい声が辺りに響く。


「ほわぁ!?」


 いきなりの出来事に白夜は奇声をあげ、涙が引っ込んでしまう。


(な、なんだ!? どこだ! どこから聞こえてきた!)


 急いで辺りを見渡すが、されども人影は確認できない。


「お目覚めになられましたか?」

「な、なんじゃ! どこじゃ! どこにおるのじゃ!?」


 慌てふためいたまま、つい何も考えずに、声の主に対してとっさに変な言葉を口から発してしまう。

 ――あの神の口調が少し移ったのだろうか。


「あっ! 失礼いたしました! 今姿をお見せします!」


 そう言う声が上の方向から聞こえてくる。

 その方角を見てみると、頭上の木の葉の影からテニスボールくらいの大きさをした、黄色く光る電球のような発光体がふわりと姿を見せた。

 それはふわふわと宙に浮かんでおり、白夜の居る方向へと飛んでやってくる。


「……んん? もしかして……君が俺の相棒……か?」


 白夜はとりあえず喋る発光体へと問いかけてみる。


「はいっ! おっしゃる通りです! 主人さま!」


 と、元気よく発光体が返事をする。

 どうやら彼女(?)が相棒らしい。

 これはどういった存在なのだろうかと疑問に思うが――


(こいつが相棒か……。てか無計画で喋りかけてたけど、間違えてたら結構恥ずかしかったぞ。俺は電球と喋る趣味はない……マジでない)


 そんな風に考え、取り敢えずホッと一息吐いたのだった。


「――あっ! 申し訳ございません! 挨拶が遅れました! ……おほん。わたくしは『賢者の精霊』です。何処かの世界にて、賢者として生きていたそうです。その生を終え、精霊となり、天界にて神格を得られるよう、勉学を積んでおりました。どうぞよろしくお願い致します。主人さま」


 そう言って発光体が自己紹介をした。

 どうやらこの発光体の正体は“精霊”らしい。白夜の持つ知識だと、何らかの力を携わった聖なる霊であるということしか分からなかった。


 すると、ペコペコとお辞儀をしているつもりなのだろうか。

 宙に浮かぶ発光体は、上下にふわふわと揺れている。


「そうかそうか。精霊が俺の相棒か。なんか勇者っぽくて良いな〜。……あ、自己紹介が遅れたな。俺はくれない 白夜はくやだ。よろしくな」

「はいっ! よろしくお願い致します! お褒めいただき、光栄にございます! 主人さま!」


 ――主人さま。

 ひょっとしてそれは自分のことなのだろうかと白夜は疑問に思う。

 今までそんな風に呼ばれたことがなかった白夜は、そのことに対して多大なる違和感を感じる。


「……その、主人さまってのは……なんかこそばゆいから、好きに呼んでもらっていいぞ」


 とりあえず白夜も自己紹介を終え、お辞儀を返す。

 すると――


「あ、主人さまを呼び捨てだなんて、とんでもない! お顔をお上げください! 地球の創造神でおおせられる、『アース』様からお話を伺っております。なんでも、生ある時は数々の善行を積み、数多の人々を救っていらしたとか……! 尊敬します!」


 そう言って、発光体がキラキラ眩しく輝く。

 どうやらあの神は地球を創ったとされているらしい。

 ――白夜にとっては眉唾物であったが。


「……多分それ、あいつが色々盛ってるぞ。少女がトラックに轢かれそうになってたのを助けたら、しくじって死んじまって、色々あって転生しただけだ」

「はいっ! 聞き及んでいます! 自らの身を犠牲にしてでも、弱き者を救うその雄々しいお姿……わたくし、感激に身が震えました!」

「あっ、そう……」(身あるの? こいつ……)


 白夜は光り輝かせながら話す発光体に対して少し眩しく感じ、右目を瞑り、左目は手で半分程隠しながら事の経緯を語るが、発光体の謎の信仰心は止められそうにもない。


(しかし、あの神、地球の創造神だったのか。割と偉いのか? 知らんけど……。まぁ、この子は俺のことを信頼してくれているらしい。主人さまってのは少々慣れないが……)


 そう思っていると、やがて発光体の光の明るさが落ち着いてくる。


「……まぁいいか。これからよろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」


 白夜達はまたお互いにお辞儀をしあうのだった。






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