第二十八話 現人神、吸血鬼の娘を諭す。
(こっわ! 俺のことめちゃくちゃ睨んでない? 大丈夫かこれ……)
白夜はイルミナと話を始め、早くも不安に陥っていた。――イルミナが白夜のことをまるで親の仇でも見るかの如く睨んで来るからだ。
(何が気に食わなかったのか……ちゃんとノックは三回したぞ? 後は……ハッ!? 入室する前に許可取ってなかった! やっちまった……)
自らの過ちに気がつき、白夜は苦笑いを浮かべる。
(しかし……もう入っちまったもんはしょうがない。最後までやりきるまで!)
そう心に言い聞かせて話を続け、最終目標である、スキル<創造>でイルミナを作り変える計画を話す。
「俺のスキル<創造>は、ものを世界に具現させるスキルです。ここだけの話……あのコウハクも、俺が<創造>で生まれ変わらせたんですよ」
ここでコウハクをダシに使う。
恐らく今の白夜よりはコウハクの方がイルミナに取ってすごい奴に見えているだろう。――自身は花瓶で意識を失いかけていたからだ。
白夜の威厳は今の段階ではまだ無いだろう。――ならば、この機会が取り戻すチャンスだ。
「なっ……何を……はは。お戯れでしょうか。神をお造りになられるなどと」
イルミナは顔を引きつらせ、何やら紛い物を見るような目つきでこちらを睨む。
(こっわ! やっぱり怒ってる? ぐぬぬ……入室許可さえ取っていれば……)
白夜は目を泳がせて内心で慌てる。
「い、いや、ホントですよ。……ですから、選択は貴女に任せます」
(慌てるな俺。ここが勝負所だぞ……!)
白夜は少し深呼吸をし、心を落ち着かせてから覚悟を決めて話し出す。
「もし貴女が……今現状のご自分に満足しているというなら、そのままで居てもらっても構わないと思います」
イルミナがピクリと体を震わせる。――やはり食いついたようだ。
「ですが、そうは思われていない場合……明日が最後のチャンスになるかと思います」
イルミナが“明日”と言う言葉にも反応した。
これにも食いついたようだ。
ならば――
「……貴女はイルエスさんが亡くなることが悲しくて顔を合わすことが出来ないのでは無く、イルエスさんを救うことが出来ない自分が許せなくて、顔向けが出来ないと思われているのでは?」
イルミナが体をビクリと震わし、驚いたような目つきで白夜を睨んでくる。
(こっわ! 顔は美人系なんだけど……目が怖い!)
白夜は睨んでくるイルミナにたじろい、怯えながらも一つ大きな活路を見出した。――この娘は自分の『弱さ』に対して自己嫌悪してしまっているのだ。
それさえ分かってしまえば、もう落とし所は容易い。
「……もし貴女が望むのであれば、俺が貴女を創造り変えて差し上げます。イルエスさんや、イリエルさんだって、驚くような貴女に」
白夜はそう行って、ソファからすっと立ち上がる。
「選択肢は与えられました。選ぶのは貴女です。期日は明日まで。返答、お待ちしてます」
白夜は最後にそう言い残し、そのまま入り口までスタスタと歩を進め、扉に手を伸ばし部屋から去ろうとする。
「……っ! 待ってっ!」
すると、イルミナが大きな声で白夜を制止する。
「……なんでしょう?」
白夜は入り口でくるりと振り返り、問いかける。
「貴方は……なんで、こんなあたしに対して、そこまでしてくれるの……?」
イルミナがさっきまで白夜のことを睨みつけていた表情とは別のものを浮かべて白夜に問いかけてくる。
眉を顰め、瞳には困惑の念を浮かべており、それらの表情からはイルミナの白夜に対する疑心が見て取れた。
(……口調も変わったな。これがイルミナの本質か?)
ならば、ここが落とし所だろう。
イルミナは白夜に疑いの念を向けている。
これを晴らすことが出来ればある程度の信頼が得られるだろう。
白夜は慎重に言葉を選ぶ。
「……そんなの、決まってます」
そして、穏やかに微笑みながら、自信に満ちた口調でこう返した。
「か弱い者を助けるのは、当然のことですから」
白夜はそう言って、両目の内左目だけを一瞬つむり、ウインクをして見せた。




