第二十話 現人神、タネを明かす。
(あぁ……いかん……めちゃくちゃ疲れた……。神経磨り減る……)
イルエスとのものすごく長くて重い話が終わり、白夜はイルエスを宥めるのであった。
(今思えば……とんでもない宣言をしでかした気がする。平和な世界を創造るとか。大丈夫か俺? 大口過ぎないか俺? 高三なのに厨二入ってないか俺? ……はぁ。不安だ)
宥めると言っても、コウハクにするみたいに頭ポンポンとかはしない。
誰これ構わず頭ポンポンするとかあり得ないからだ。
――ラノベじゃあるまいし。
ただ近くに居て、背中を摩ったり、ハンカチを差し出したりしていた。
(ってかほんと俺、異世界来て宥めてばっかだな。やはり俺は損するタイプの人間らしい。いや、神か? まぁいい)
すると、やがてイルエスがゆっくりと起き上がり、何やら吹っ切れたような表情になる。
「……ありがとうございます。紅様。お見苦しいところをお見せしました」
イルエスはそう言って、白夜に対してゆっくりと丁寧にお辞儀をする。
(……いい顔してるんじゃないか? 憑き物が取れたような。よかったな。お見苦しく無くなって)
「いやいや、いいんですよ。あんまり感情溜め込みすぎると、体に毒ですよ。――ってもう余命残り少なかったですね! ハハハ!」
――あれ?
(く、口が滑った!? ふざけんなよ俺! いくらなんでも冗談が過ぎるだろ! 空気読め!)
つい緊張が解けて冗談を口走ってしまう。
――しかもかなり黒いブラックジョークを。
この状況でいくらなんでもそれはまずいと思い、訂正しようとした時――
「ハッハッハ! おっしゃる通りです! もうすぐ死ぬというのに、私は一人、溜め込みすぎていたようです。そりゃあ、何もかも嫌になって、勝てるものも勝てなくなるってものですな! いやはや、やはり貴方は面白いお方だ! あはは!」
(いや、ブラックジョークツボなのかよ! てか誰こいつ……さっきまでべそべそ泣いてたくせに……)
イルエスはもう完全に吹っ切れたようだ。
――ブラックジョークも大好物だったらしい。
よって信用が落ちることは避けられたので、一先ずよしとした。
「ハハハ……。お気に召されたようで、何よりです……。はい……」
ただ、白夜は極度の焦りにより苦笑いを作る他なかった。
「しかし……わかりませんな。よろしければタネを教えていただいても?」
(――ん? タネ?)
「え? なんのことです?」
白夜は首を傾げつつ、本心からそう問いかける。
「いやですなぁ、あんなにビシバシと事実を言い当てたタネですよ。私の妻の名前であったり、敵の策略であったり、どうやって言い当てたのですかな? 妻の名前くらいなら、娘でも知っておりますが……吸血鬼の同族殺しの件は知らないはずですから」
(あぁ、なんだそんなことか)
「あぁ、なるほど。敵の策等については、俺の予測でしかありませんが……」
「え?」
イルエスは「何言ってんだこいつ」と言いたげに、ポカンと白夜を見つめる。
しかし、白夜は無視を決め込み、種明かしをする。
「奥さんの名前を知ったタネはこれですよ――コウハク」
「はい。主人さま」
白夜がそう言うと、コウハクがイルエスの解析結果をスクリーン状に表示させる。
「――っ! な、なんだこれは!? 私の、情報か……!?」
イルエスが目に見えて驚いている。
(お、いいリアクション)
「うちのコウハクのスキルですよ。見たものを解析し、このように結果を他者と共有できるんです。これが貴方の奥さんの名前を知ったタネです。ここに映ってある情報は自分の知ってる情報と同じでしょう?」
イルエスが口をパクパクさせている。
――まるで餌を求める鯉のようだ。
(いいね〜だんだん本性が見えてきた)
「な、なんと……!? コウハクちゃんは、もしや、天才なのでは……!?」
イルエスがコウハクに驚きつつ、問いかける。
「――? わたくしは主人さまの付き人ですよ?」
この人の付き人なのだからさも当然と言うように、首をキョトンと傾げて答えるコウハク。
(……すごいな。どっから湧いてくるんだ? その自信。主人さまと言うのも大変素晴らしい奴なんだろうなきっと)
「そ、それは……。あぁ、そうか……」
イルエスは納得したように頷く。
(なんだ? 一人で勝手に納得しやがって)
「……一人であれほどの強者達を倒すんだ。それに頭も相当切れる。当然のことだったな。貴方も天才……いや、貴方は化け物だ」
ふっと笑いながらイルエスが言う。
(なんだと? 鼻で笑いやがって。化け物はお前だろ失礼な。俺ほど善良な一般市民は居ないと、地球の創造神――アース様のお墨付きだぞ? あいつバカだけど)
白夜は化け物呼ばわりに対してカチンと来る。
――なので、イルエスを徹底的に叩きのめすことにするのだった。
「心外ですね……俺は化け物じゃないですよ。ほら、見てください」
そう言って、コウハクに解析させた白夜のデータを見せる。
「ほら、ここに、ちゃ〜んと、『現人神』って書いてあるでしょ?」
白夜はちょいちょいと指差し、イルエスに種族名を見せる。
「――は?」
イルエスはアホヅラを下げて呆けている。
(は? ってなんだこのやろー。見えてないのか?)
「ほら、ここ。ここ」
白夜は種族名を強調して表示させる。
「な、なんと……! 貴方は、神で仰せられたのか……!?」
イルエスがワナワナと震えだす。
「いや、最初に言ったじゃないですか。別世界から転生して来て、神様やってますって」
白夜は追い討ちをかける。
「あ、あれは……冗談では……!?」
イルエスはまだ信じ切っていない様子だった。
さらに追い討ちをかける。
「真実ですよ。ちなみに、あの五人を消したトリックですけど、俺のスキル<削除>で消しました。な〜んでも、消せちゃうんですよ〜。えへへ」
白夜はにやりといたずらな笑みを浮かべ、答える。
「そ、それは、神のみ成せるような技では……ハッ! つ、つまり……貴方様は……!!」
(かかった! 驚愕の事実に対してワナワナしてらぁ。……だが、これで終わると思うなよ? 最後の一手――トドメだ)
「ちなみに……そこのコウハクちゃんも何を隠そう、神様です」
白夜はコウハクにパチンとウインクし、目配せする。
コウハクはハッとなって頷き、「その通りです!」と言った後、バッと椅子の上に勢いよく立ち上がり、両手を腰に当て、「むふんっ」とドヤ顔をしながら、少し踏ん反り返るポーズを取った。
――完璧だ。
(これこそ正に俺が教えた神のポーズその三!! 椅子の上に立ち上がり、上から見下されるような感じがイイ……ナイスポーズ! 百点満点!)
「……え?」
えええええええええええええええ!?
本日二度目の咆哮が塔内に響くのであった。
親子共々、塔内で叫ぶのが好きらしい。
(やったぜ。ざまぁみろってんだ)
白夜は椅子から立ち、神のポーズその三を取りつつその様を眺め、勝利の余韻を優雅に楽しむのであった。




