第十七話 現人神、書斎へ案内される。
白夜達は玉座の間の奥にある階段を上へと一階分登り、書斎へと案内される。
――最初は応接室へと案内されかけたが、断ったのだ。
なぜ応接室ではなく書斎なのかというと、白夜がそうお願いしたからである。
まず白夜が知りたいと思っているのは、この世界の知識。
この世界の地形、この世界の歴史、この世界の常識、この世界特有の魔法などの未知なる技術。
元居た世界ではなかったそれらを調べるために、図書館や書斎など、書物を扱う部屋へと案内して欲しいと頼み込んだのだ。
(無知は危険だと最初に思い知らされたからな)
白夜達がこの世界について知りたいと話すと、なぜそのようなことを知りたがるのか、少し不思議がられたが、無闇に突っ返されることはなく、「そのような場所でもいいのなら」と、イルエスは案内してくれた。
(書斎に着いたら、この家族には俺達のことをしっかり説明するとしよう。信じてくれるかは知らんが……)
そう思っていると、白夜達は書斎に着いた。
下から一階分上に登ってきた所のすぐそこに両開きの大きな木製の扉があり、そこを開けると、書物が並ぶ部屋――正しく書斎であった。
真ん中には机や椅子がいくつか並んでおり、それを囲うように本棚が転々と並び、部屋の壁全体も本棚となっていた。目に付く所々に本があり、本に囲まれた世界に来た感覚になる。
(……すごいなこれ。さっき書斎とか言ったけど、書斎じゃないよねこれ。図書館だよね。貴族は違うな)
と言う感想を白夜は頭の中で述べる。
「埃っぽくて申し訳ありません。ささ、どうぞ。こちらへお掛けください」
イルエスに机一つ、椅子四つの席へと座るよう、案内される。
「いえいえ、ご立派な書斎です。無理を聞いていただき、ありがとうございます」
白夜は感謝の言葉を述べ、席へと座る。
「イルミナ。すまないが、飲み物を入れてきておくれ。紅様はお茶とコーヒー、どちらが良いですかな? ――あぁ、コウハクちゃんはお茶でいいかな?」
イルエスが飲み物を勧めてくる。
――コウハクは子供扱いのままだ。
(見た目、完全に幼女だしなぁ……十二歳ってなってるけど中身は子供じゃない……よな?)
「ありがとうございます。俺はコーヒー、お願いしてもいいですか?」
(そういや、この世界でもお茶とコーヒーがあるのか。早速、現実世界との違いが楽しめそうじゃないの。ちょっと楽しみだな〜)
白夜が少し期待に胸を膨らませていると――
「では、わたくしも主人さまと同じ物でお願いします」
と言って、コウハクも同じ物を頼む。
(お、コウハクもコーヒーか。おいおい、飲めるのか?)
「……ふふ。そうか。わかったよ。――イルミナ。コーヒー四つ、頼んだぞ」
イルエスがそう言うと、イルミナが少し顔を引きつらせる。
――あの子はコーヒーが苦手なのだろう。
イルエスがいたずらな微笑みをイルミナに向けている。
(このおっさん……やるな)
「か、かしこまりました。しばらくお待ちください。失礼します」
イルミナは引きつった顔を下げてから、パタパタと書斎から去って行く。
ここには白夜とコウハクとイルエスの三人になった。
「……さて、無礼を承知でまず最初に、紅様に頼みたいことがあります」
(――んん? イルエスの雰囲気が、今までとまるで違うな)
イルエスの和やかな雰囲気は鳴りを潜め、何やら真剣な面持ちへと変わる。
白夜はそれを機敏に感じ取り、「なんでしょう?」と問いかける。
「……私の娘――イルミナを、引き取ってはいただけないでしょうか?」
(……これは話が長くなりそうだ)
白夜はそう覚悟を決め、イルエスの話を聞く姿勢を整えるのであった。