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第十五話 現人神、地に伏せられる。






(――はぁ……主人さま……。なんと雄々しい……)


 危険を顧みず、我が道を歩む白夜の姿は、コウハクにとってそれはそれは尊きものであった。

 コウハクとしては、自らの主人である白夜に危害が及ぶような事は避けたいところだが、そんなコウハクに対して、白夜はコウハクの頭の上に手をポンと乗せ、「守ってやる」と、とても清らかな笑顔で言うのであった。

 その清々しい姿を見て、コウハクは自分を抑えるのに必死だった。

 とっさに下を向いてお礼の言葉を言い、惚けた顔を隠す。


(――ばれていないといいのですが……)


 その後、吸血鬼が窮地に立たされているのを知った白夜は、あろうことか「吸血鬼を助ける」と言いだす。

 どのような状況かも分からず、もしかしたら大変危険な状況かもしれないのに、白夜は「生きてるなら助ける」と、はっきりと言い切ったのだ。


(――なんということでしょう)


 生きている者であるならば、救ってみせるという所業。

 それ即ち、生きとし生けるものを救うという、正に神のみぞ為せる所業。


 「あぁ……。やはり、このお方に着いて行くのは、間違っていない」


 コウハクは思わず賞賛の言葉を白夜に聞こえないくらい小さな声で漏らす。


 その後もコウハクは白夜の軽やかな身のこなしや、自らの背で自分を隠し、守ってくれるその雄姿に対して、終始ドキドキとしていた。


 そして、いざ窮地に立たされた吸血鬼を救い出す瞬間を見た時、コウハクは――美しい――と感じていた。


 弱き善を救い、強き悪を断つ正義がそこにはあった。

 肩を抱きかかえ、ゆっくり休めるよう、吸血鬼の王を横に寝かせるその動作でさえも、どこか神々しさを感じてしまう。

 あの吸血鬼の王もそう感じているのだろう。目から涙を一雫流し、感謝の言葉を述べ、安らぎを得ていた。


 そんな自らの主人の素晴らしい姿に目を惹かれ、「ほぅ」と恍惚のため息を漏らしていると――






「お父さあああああああん!」


ズガンッ!


「ぐはああぁぁ!?」


「――はっ!? 主人さまっ!?」


 白夜は突如襲いかかってきた少女の花瓶によって、地面へと倒れ伏せたのだった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






(――いってぇ!?)


 そう思った時には、白夜はもう床とキスを済ましていた。


「お父さんから離れろ!」

「貴女! わたくしの大切なお方に、なんてことを!」


 コウハクが床に倒れ伏している白夜と、花瓶を構えて佇む少女の間に入り、キッと少女を睨みつける。


「うるさい! お父さんから離れろ!」


 そう言って悪鬼のごとく睨んでくるのは、金の装飾があしらってある黒いゴスロリのドレスを着た少女であった。


(――こっわ!)


 白夜は床に倒れ伏せたまま、即座に手を上にあげ、降参のポーズを取りながら――


「ま、待て! 俺は君のお父さんを害すつもりはない! 離れるからどうかその頑丈な花瓶を俺に向けないで! ……ほら、コウハク! 離れるぞ!」


 と言ってそそくさとその場からコウハクを連れて離れ、周りにある柱の内の一本にもたれて座り込む。


(もう殴られるのは勘弁だ……。しかし、頑丈な花瓶だ。割れるどころか、ヒビ一つないぞ)


「大丈夫ですか? 主人さま……?」


 そう思っていると、白夜の横に座っていたコウハクが、心配そうな表情をして白夜の顔を覗き込んでくる。


「いてて……意識が飛びかけた。たんこぶになるなこれ……。レベルアップしてなかったら、危なかったかもな……あはは」


 そう言って、白夜は心配かけまいとヘラヘラ笑う。


「……っ! 申し訳ないです主人さま……わたくしが警戒を怠ったがために……」


 コウハクはまたもや泣きそうになる。

 ――泣き虫なやつだ。


「いや、いいんだよコウハク。俺も気づかなかったし」


 そう言って白夜はコウハクの頭を撫でて宥める。


「これからは、あまり警戒を怠らないようにしよう。いいことが学べて良かったじゃないか」


 頭をポンポンとし、励ます。


「はい……ありがとうございます。主人さま……」


(よし、落ち着いたようだ。……待てよ? そう言えば――)


「そういやさっき、『わたくしの大切な方』とか言ってたな?」


 少々いたずらな笑いを浮かべつつ、白夜は問いかける。


「――へ? あ、い、いや、その、あれは! 本心がつい、出てしまっただけでして! それで……って! わたくしは何を!?」


 あわあわと手と顔を振り回し、赤面しながら慌てるコウハク。


「あはは! それは嬉しいな! まだ会ってほんのちょっとしか経ってないけど、俺もお前のこと大切に思ってるぞ?」


 白夜はそう言いながらパチンとウインクを決めると、コウハクがボンッと顔面を真っ赤にし、へなへなと力なくうなだれた。


「面白い奴だ。揶揄からか甲斐がいがある」

「――っ! 揶揄っていたのですか!? 主人さまは意地悪ですっ!」


 そう言った後、コウハクはプイッと白夜と逆方向へ顔を向けてしまう。


(あれま……嫌われちゃった?)


 しかし――


(……ふむ。残念ながら、ほおをプクッと膨らませてそっぽを向くその姿には、かわいさ以外何も無い。問題ないな。そっとしておくか)


 コウハクとも随分慣れ親しめたようだ。

 このような冗談をお互いに言い合えるようになれる関係にまで進展している。

 白夜はうんうんと満足そうに頷き、二人の吸血鬼がいる方向へと目を向け、倒れている吸血鬼の王と、その横で介抱する少女をしばらく眺める。


「さてさて……あの娘とは話しが出来るんだろうか……」


 さっきの一件で少し関係がこじれてしまっている。

 早い所あの吸血鬼に目を覚ましてもらい、誤解を解いてもらう他ないだろう。

 恐らくあの少女に何か言ったところで聞く耳持たれないのがオチだ。

 こちらの事情を一切聞かずに襲ってくるくらいなのだから、あの少女は相当追い詰められている状況なのだろう。

 赤の他人がそのような状況の人物に対して、通常通りのコミュニケーションが出来るようにするのは、極めて困難だ。

 ならばあの倒れている吸血鬼が復活するのを待ち、自分達が悪者ではないことを証明してもらうのが一番だろう。


 すると、先ほどまであっちの方向を向いていたコウハクがこちらに顔を向けていた。


(――なんだ? 『あっち向いてホイ』の時間は終わりか?)


 白夜がそう思っていると――


「あ、主人さま……? わたくしとはお話し……したく無くなってしまいましたか……? わたくしのこと、嫌いになって、しまいましたか……?」


 声を震わせ、不安そうに瞳をうるうるとさせながら、悲痛な表情で白夜をじいっと上目遣いで見つめてくるコウハク。

 

(……なんだ? このかわいい生き物。あっち向いてホイで俺がコウハクのこと嫌いになったとでも思ったのか? バカだな……)


 すっと、手がコウハクの頭に伸びる。

 ――自然の摂理せつりである。


「何言ってんだ? そんなわけ無いだろ? 誤解を解いて、ちゃんと吸血鬼達と話が出来るようになるかなって思っただけだ。俺がお前を嫌いになるなんてことはありえないさ」


 そう言って頭を優しく撫でる。

 可愛いは正義。

 ――世界のことわりである。

 するとしょんぼりとしていたコウハクが目に見えて心底安心した表情となり――


「よ、よかったです……!」


 と満面の笑みを浮かべる。


(かわいらしいもんだな。まるで妹みたいだ。妹居なかったから知らんが)


「……そ、その……わたくしも、主人さまのこと――」

「お父さんっ!」


 その時だった。

 コウハクが何かを言いかけていたが、吸血鬼の王が目を覚ましたらしい。少女が大きな声で呼びかけ、その小さな声はかき消される。


 吸血鬼の王がゆっくりと目を開ける。


「……おぉ、イルミナ。無事だったか」


 そう言って、ゆっくりと起き上がる。


「お父さあああんんん!」


 少女は泣きじゃくりながら、吸血鬼の王に抱きつく。


「おぉ、おぉ、大丈夫だよ。ほら、泣き止んで」


 吸血鬼の王は少女の涙を拭う。


「……ぐすっ。うん。もう、大丈夫」


(おぉ、強い娘だ。どっかの誰かさんとは大違いだな)


 白夜は誰かと比べて密かに感心する。


「よしよし。……じゃあ、あそこにおられる方達に、まずは謝りに行こうか」

「ふぇ……? あの人達は、お父さんを害そうとした存在なんじゃ……」


 キョトンとした顔で少女が吸血鬼の王に尋ねている。

 すると吸血鬼の王が右手の拳を少女の頭にコツンと軽く当てて叱る。


「あたっ!?」

「コラっ違うぞ。あの方達は、私を助けてくださったのだ」

「――え?」






 ええええええええええええ!?






 この部屋以外には誰もいない塔内に、少女の声のみが響くのであった。






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