第十三話 現人神、城を調べる。
白夜とコウハクは開けた草原から黒い城を目指して移動し、森の中を進んで中央部にある黒い鉄塔が良く見える場所にまで近づいてきていた。
「ヴラッド=シュタイン城。吸血鬼の国城のようですね。しかし、何やら中が騒々しい様子。これは危険なのではないでしょうか? 主人さま」
するとコウハクがそう教えてくれる。
しかし、白夜は――
(吸血鬼ねぇ。いいじゃん! すごくファンタジーじゃん! テンション上がってきた!)
と、一人テンションを上げていた。
「そうだな……危険だろうな。……だが!」
そう言って、白夜はすっと雄々しく立ち上がる。
「先ほども言ったように、危険を避け続けることも危険なことだ。ここらで危険を少々体感し、この世界について少し勉強しようじゃないか」
などと雄弁に語ってみせるが、本音は――
(初めての生吸血鬼見たい! 適当に言いくるめてやる!)
であった。
「し、しかし! 主人さまに万が一のことがあると……わたくし……」
すると、コウハクが泣きそうな表情をする。
(――おっとまずい! 暴走してしまう!)
「大丈夫だ。だからと言って、危険にそのまま身を突っ込むようなバカなことはしない。安全第一でゆっくりと進もう。話くらいは通じるかもしれん。それに、俺やコウハクに危険があると判断したら、即座に逃げる。俺のもう一つのスキルもあるし、何とかなるさ。それにな――」
そう言って、宥めるように頭に手をポンと置く。
「――ちゃんとお前も守ってやる。俺を信じろ。な?」
白夜は最後にキランという音がなりそうなスマイルを浮かべ、そう言う。
(生前に幼馴染がごねた時にも有効だったこのスマイルならば、コウハクだって言いくるめることができるはずだ! ……いや、でもあいつバカだったしなぁ……)
と不安に思うが――
「は、はい……ありがとう、ございます……」
と言って、コウハクはすぐに顔を下に向けた。
どうやら頷いてくれたのだろう。
作戦は成功のようだ。
(コウハクの心配も分かる。自分も危険なところに行くのは怖いだろう。なんか申し訳ないな、俺の好奇心のせいで……。でも、「行くなら一人で行けよ」とか言われたらすっごい傷つく。超傷つく。せっかく興奮するような出来事だというのに、共感する人間がいないのは寂しい。ならば、言いくるめる――巻き込むまでだ)
しかし、幼馴染と同じ手段で誤魔化されるコウハクの将来が心配でもあった。
(……まぁいっか。言いくるめに成功したわけだし)
ぶっちゃけ、吸血鬼とか生で見てみたいという理由しかないなどとは口が裂けても絶対言えず、白夜達はさらに黒い塔に近づいていくのだった。
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白夜達は城門の前にまで近づいて来ていた。
しかし、そこには異様な光景が広がっていた。
(おいおい……。これは門と言っていいのか? なんというか……バラッバラ。欠陥工事どころじゃないぞこれ)
元々は大層荘厳な作りであったであろう黒い石で出来た城門が、まるで重機で破壊された直後のように、粉々に吹き飛ばされていた。
(――なんということをしてくれたのでしょう)
「主人さま……これは……」
白夜が頭の中で事前と事後を見比べる時の音楽をつらつらと再生していると、コウハクが何か見つけたようだ。
「主人さま。死体です。吸血鬼のようです。新しいものみたいですね」
コウハクが吸血鬼の死体を見つける。
(――なんということでしょう)
白夜としてはもう少し良いものを見つけて欲しかった所だが、だからと言って自身が見渡しても良いものは全く見つけられそうにない。
見つけられたのはコウハクと同じもの――人間と遜色ない吸血鬼の死体と、城の破壊痕のみだ。
(新しい死体に破壊の痕跡……まさか、今現在城が攻め落とされてる感じ? まじか……)
「なんとまぁ……このままだとまずいな。吸血鬼が根絶やしにされるやもしれん」
せっかく異世界にやって来たというのに、まだ見てもいない種族を根絶やしにされることを白夜が許すはずもなく、白夜は早急に塔内に足を運ぼうとする。
「――主人さま。もはやここはかなり危険な場所と化しているようです。それでも……御身の危険を顧みず、吸血鬼を救われるのですか?」
しかし、コウハクがキョトンと首を傾げながら不安げに白夜を見つめ、質問して来る。
「当たり前だろ。生きてるなら助ける」
白夜はそう言った後、慌てて誤魔化すようにパチンとウインクをする。
(生きてると良いんだが……全滅してたらショックだな……。死体じゃなくて、生きてる吸血鬼が見たいぞ……)
「……! さすがは主人さまですね……! 感激いたしました!」
(……おぉ……感激されるほどとはな)
コウハクが感激したこと。それは白夜には分かっていた。簡単なことだ。
――自身のウインクの精度だろう。
これがなかなか綺麗に出来るものではない。
生前、白夜は鏡の前で散々練習しまくっていた。
コツは一度両目を閉じた後、片目を開けるといい感じに見えるのでこれを記憶し、今度は片方だけを瞑りまくり、要領を得ていくことだ。
(その内、コウハクにも教えてやるか。きっとかわいく出来るだろう)
白夜はそんなことを頭の片隅で考えながら、先を急ぐことにする。
「少し急ぐぞ! コウハク!」
「はい! 主人さま!」
白夜達は足早に城内へと入って行った。