第十一話 吸血鬼の王、吸血鬼狩りと戦う。
ヴラッド=シュタイン城内は騒然としていた。
いきなり正面の門が破られ、次々と兵士が殺されて行ったのだ。
兵士だって弱くはない。
だが、相手はさらに格上のようで、こちらの弱点を突きまくり、もはや戦いにすらならないのであった。
――間も無くこの一族は壊滅する。
誰にでも分かることであった。
「父上!」
吸血鬼の王女『イルミナ・ヴラッド』は、玉座の間に座る吸血鬼の王たる父『イルエス・ヴラッド』に迫る。
「父上! 逃げましょう? ここはもう持ちません! 兵士達が私達のために、必死で耐えてくださっています! さぁ、逃げましょう!」
イルミナはイルエスに詰め寄り、そう提案する。
だが――イルエスは否定する。
「イルミナよ。私はもう長くは持たぬ。私を連れて逃げると、お前の負担になる。お前だけでも逃げて、生き残るのだ」
「な、何を仰り――」
イルミナの口をそっと指で閉じ、イルエスは語る。
「イルミナよ。お前の母は、私と違って優秀であった。勇者との戦いで命を落としてしまったが、誰よりも強く、誰よりも優しかった。お前もそんな――『吸血姫』たる母親の血が流れている。……生きよ」
イルミナは涙を流す。
「ですが……! 私には、母上のような適性がありません。私一人では無理です! いやです父上! 私を一人に……しないでください……」
「イルミナ……」
イルエスはイルミナを抱擁する。
我が子の先を案じて、また、我が子に全てを託し、全てを擦りつける自分の愚かさを省みて、涙を流すのであった。
そして、その思いは叶わないことを知る。
バァン!
それは扉が殴り開けられる音。
玉座の間にまで、血にまみれた野蛮な男五人集が殴り込んで来る音。
それを聞き、吸血鬼一族はもはや滅びる運命なのだとイルエスは悟った。
「イルミナ! 逃げなさい!」
それでもイルエスは大声で怒鳴り、イルミナを突き飛ばす。
「っ! お、お父さん!」
「早く逃げるのだ! 走れ!」
イルミナは自らの父の剣幕に圧倒され、後ろを何度も何度も振り返りながらも走り、カンカンと音を立てながら階段をかけ登って行った。
「……達者でな」
イルエスはそう言い残し、男五人に立ち向かう。
「おいおい〜悲しいねぇ! 娘さんを逃がして先を託すなんて、まるで御伽噺みたいじゃねえか! いいもんが見れたねぇ!」
五人の男集団の内の一人は嗤う。
――手に持ったベットリと血の付いた銀のナイフを、まるで玩具でも扱うかの如くクルクルと手の内で遊ばせながら。
「黙れ。我が一族を滅ぼさんとする、野蛮な人間共め。我こそ吸血鬼の王――イルエス・ヴラッド。ここより先には進めぬことと知れ」
イルエスは残り少ない力を解放し、五人に挑む準備をする。
己の寿命を縮める行為だと理解しながらも、内に秘めたる力をかき集め、魔法を発動させる。
「あらら……。待ってたらパワーアップしちまったか。まぁいいけどな。俺ら、それでも負けないし! お前ら! やるぞ! 吸血鬼狩りだ!」
男は仲間に指示を飛ばす。
「今、防御魔法を発動した! 属性は闇。ダークオーラだな。……んん? げっ! レベル3以上かよ! 多分4だなこれ。高いな〜。しんどいわ〜」
そう言いつつ、少しもしんどそうな顔をせず、男は嗤う。
「じゃあ今から一方的にボコるから。さっさと死んでくれよ〜? お前の娘さん、だったか? あれ、綺麗だったからなぁ。逃したくねえんだわ。仲良く遊んで……廻して……楽しんだ後……お前の所に送ってやるよ!! せいぜいあの世で俺達と遊んでもらったことを話してもらうんだな! ハハハハハハ!」
『吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)』が、イルエスの貼った防御結界を叩く。
聖なる光を放つ魔法、爆炎を起こす魔法、稲妻を走らせる魔法、特殊な改造を施された武器、超人的スキル、それらの圧倒的破壊力を駆使し、辺りに轟音が響き渡るが、イルエスの結界は耐える。
――だが、それも長続きはせず、やがて崩壊寸前にまで追い込まれてしまう。
「ほれほれぇ! どうしたぁ! 守ってばかりかぁ!?」
「ぐううっ! これほどとはっ……! もはや、これまでか……。イルミナ……無事を祈っているぞ」
その言葉が最後、イルエスは息を引き取るのだろう。
結界が破壊される寸前、目を閉じ、我が子の姿を映す。
(私が至らないばかりに……一族が壊滅するとは……。すまない……イルミナ)
やがて全身に襲いかかって来るであろう苦痛を待ち、イルエスは静かに膝を屈するのであった。