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第百三話 現人神、遅刻する。






 二人娘の喧騒を平定した後、白夜は議長席に座って会議の結果を聞く。

 なんでも重要なことは最初の一時間で話し終えていたようで、コウハクとイルミナは最初の方はちゃんと仕事をしていたようだ。


 ゴブリンの王が知っている情報はクロヌスが知っていた情報と大差なかった。

 それ故に会議も早く終わったのだろう。――問題はゴブリン達のこれからについてだ。


「メシアについてはコウハク達から聞いただろ? ホブゴブリンの王よ」

「……はっ。近隣の村々に所属する者の組織のことで、物資の輸送、情報の交信、村の自衛など、様々な取り組みをしており、行く行くは世界平和の足がかりとなる組織に成長するものだと、皆様からお話を伺いました」

「……ふむ。そうか」


(うっわ……スケールでか……)


 最初は村の守り手や交通網、通信網に使うつもりだったのだが、いつの間にか話が世界スケールにまで及んでいるらしい。――一体何を考えているのやら。


 ちらりと皆の顔を伺うと――先ほどのショックからまだ立ち直れていないのだろうか。

 コウハクとイルミナの表情がどこか上の空だ。


「……おい。コウハク。イルミナ。大丈夫か?」

「……はぇ? あ、はい。大丈夫です。平気です。一緒に寝られないだけです。辛くなんてありません。大丈夫です」

「……ふぇ? あ、うん。大丈夫だよ。あはは。一緒に寝れないだけだもん。寂しくなんてないよ……あはは」


 二人娘は無表情につらつらと語る。――明らかに大丈夫じゃない。


(どんだけ親離れ出来てないんだよ……たかが寝具を別にしただけでこれか……)


 白夜は「はぁ」とため息を吐き、今は二人のことをそっとしておくことに決め、ゴブリンの王と話すことを優先させる。


「……単刀直入に聞くが、お前はメシアの一員になりたいと思うか?」


 白夜はゴブリンの王に顔を向け、問いかける。

 ゴブリン達をメシアの一員の中に加えてしまおうかと考えているのだ。


 しかし、白夜は疑問に思っている。

 ――彼ら彼女らに果たして“やる気”はあるのか――と。

 もしもやる気がないのであれば、メシアに入ってもらわずに山へ帰ってもらおうかとも考えていた。


 組織にとって、内部不和というものは非常に恐ろしいものだ。

 一人が不和をもたらし、それが一人二人三人と増えていくと、やがてはクーデターのようなものが起こり得る。

 そうなってしまうと、もはや組織を維持運営することは難しくなってしまうことだろう。

 そうなるのであれば不和をもたらす可能性のある存在――ホブゴブリン達には、組織に入ってもらわない方が都合良いとも言える。

 お灸を据えられ、恐怖を知り、意思疎通が出来るようになった彼らならば、解放したところであまり問題は起こさないだろう。


 だが――


「えぇ。入りたいです。むしろ入らせてください。お願いします」


 ホブゴブリンの王はうやうやしく頭を下げ、悩むことなく即座にメシアの一員となることを、むしろ懇願してきたのだった。


「……ほう。それはなぜだ?」

「簡単なことです」


 そして王はスッと頭を上げ――







「貴方様に、惚れたからです」

「……えっ?」






 彼は真面目な顔でそう言い切った。――いや、言い切ってしまった。


「「……は?」」


(……あ、こいつらやばい。制止しないと――)


「は? 何考えてるの? ふざけないでくれる? これ以上わたくしの主人さまに近寄る愚者は絶対に増やすまいと覚悟を決めた時に……ましてや男が……!! 貴方、命が惜しくないようですね?」

「……ねぇ。貴方今自分が何言ったか分かってる? 今貴方死にたいって言ったよね? これ以上ハクヤさんの隣の席を危ぶむ存在が増えるのを見過ごしてたまりますか。ましてや男なんて……! 絶対に許さないから」


(うっわ……こわ……)


 二人娘は王を悪鬼羅刹の如き悪相を持ってしてギロリと睨みつけ、イルミナは万物を怯えさせる黒いオーラを身にまとい、コウハクは万物を薙ぎ倒す嵐の如き暴風を身に纏う。






 ――その様を見た王はなんとか自分の生きる術を必死にコンマ数秒で考え出し、言葉を絞り出すことに成功する。






「ひええぇっ!? ち、違うんですっ!! ハクヤ様の御威光に対して惚れ惚れとしたという意味なのです!! 決して生物学的に惚れたとかそういうのではありません!! 本当です!! ハクヤ様のお側に見合うお方など、お二方以外到底居るはずがございません!!」


 王は自分が生き残るために必死に――本当に必死に、冷や汗を多量に流しつつ自己弁護する。


(……あの数秒間だけで、よくこれだけの方便が出せたものだな。こいつなかなかやるな)


 白夜は密かに王の評価を上げるのだった。

 すると――


「なんだ。そうでしたか。これは失礼致しました」

「な〜んだ。そうだったのね。ごめんね〜びっくりさせちゃって」


 二人娘はケロリと一瞬で元に戻り、先ほどの一件はまるでなかったかのように場が平定する。


「い、いえ……こちらこそ……その、本当に申し訳ございませんでした。言葉足らずでした」


 王は未だに震える体をなんとか動かし、ブルブルしながらも頭を下げる。


「……なるほど。その様子だと、メシアに入りたいのは本当のことらしいな」


 白夜はやっと自分の出番かと王に話かける。


「は、はい。我々は思い知らされました。その組織――メシアの脅威を」


 王は「ふぅ」と息を吐き、体の調子を整える。


「我々が束になっても敵わないような存在――狼男達が複数所属する組織なのです。一匹だけでも脅威なのに、それが何十もメシアに所属していることを昨日知りました」

「……ん? 昨日? よく知ってたな。狼男達を見たのか?」


 昨日の作戦では二十の狼男達を連れて巣穴に向かったが、もしもの際を考えて巣穴の周りに待機させ、残党狩りを任せていたのでゴブリン達はその姿を見ていない筈だ。――まさかスキルなどで知ったのだろうか。


「はい。昨日我々の衣服を各村より運んで来てくださったのは狼男達でした。その時に遠目ではありますが拝見させていただきました。この村にも幾人か所属していらっしゃるようで、お仲間達と会話をなされていましたから」

「あぁ、なるほど。そうだったな」


 昨日は各村よりホブゴブリン達に着せる衣服を狼男達に届けさせていたのだった。

 その際に見て知ったのだろう。


「あれほどの狼男達がこの村を守護していたのです。我々ゴブリン程度が百の軍勢を率いた所で無駄だというのが良く分かりました。しかもあの狼男達の元締めは貴方様――白夜様だと知りました」


 王は困ったように笑いながら話を続ける。


「貴方様は末恐ろしいお方だ。あの洞窟で見せた力はほんの一握りにしか過ぎないのでしょう。他のゴブリン達は貴方様のことを『魔王』と呼んでいましたが……貴方様はもしや、遥か天上を超えた頂から君臨した存在――神なのではないでしょうか?」

「お、よく分かったな。俺とコウハクは『現人神』だ。人でもあり神でもある存在ってやつだな」


 白夜はうんと頷き、王の憶測を肯定する。


「な、なんと……! コウハク様も神様で仰せられましたか」

「はい。主人さまと同じく『現人神』です。元々はただの一端の精霊でしたが、主人さまのご慈悲のお陰でこれほど立派なお身体と神格を授けられたのですよ!」


 コウハクはすっかり機嫌を元に戻し、「ふふん」と得意げな顔――ドヤ顔をしている。


 白夜は――幼女の体と残念な信仰対象が備わっただけな気がする――と心の中で皮肉を言うが、内に留めたままにしておく。


「……えっ? か、神をお造りになられたのですか……?」


 王は信じられないものを見たかのような表情をして白夜を見つめる。


「造ったって程では無いさ。後そっちのイルミナとギンだって、そいつらの種族にとっては神様同然の存在だぞ」

「そうだよ〜。『神祖』っていう、吸血鬼にとって最高位の存在なんだから! あたしもハクヤさんに創造してもらったんだよ〜!」

「そうでござるな。拙者の種族――狼男には最高位の存在がもう一人いるらしいでござるから、拙者は差し詰め二番目といった所でござろうか……あっ、拙者もハクヤ殿に創造されたでござるよ」


 イルミナとギンも自信を持ってそう答える。


「……ははは。開いた口が塞がらないとは、こういう場面のことを言うのでしょうか」


 王はとんでもないものを目にしてしまったかの如く、ほとほと呆れ果て、少々疲れた表情になる。


「……折り入って、それほどの力をお持ちである貴方様にお願いしたいことがあります」


 すると王の表情が一変し、真剣なものへと変わる。


「……なんだ? 言ってみな」

「我々はもう山だけで生きることは出来ません。あの辺りの食物はほとんど取り尽くしてしまいました。だから愚かにもこの村にまで降りて来たのです」

「そうだな。その罪は償わねばならんな」

「……しかし、出来ることなら、我々ゴブリン達が犯した罪を許して欲しい」


 王は深々と頭を下げる。


「あの洞窟で言った通り、計画を立てたのはこの私です。どうか……どうか罰は私が全て背負いますから、あの者達だけは救ってはくれませんか」


 王は頭を下げたまま、必死に喉から言葉を絞り出して懇願する。


「……それは聞けない相談だな」


 しかし、白夜は王の願いをバッサリと切断する。


「一組織にとって、一人の失敗は皆の失敗だと俺は考えている。ならば全員に罰を与えるのが道理だろう」

「……それは……確かにそうだと私も思います。ですが――」

「故にお前達には……近隣の村を未来永劫守り続けるという“罰”を与える。しっかりと働くように」


 すると王は下げていた頭をバッと白夜の方へと向ける。


「……っ!? あ、ありがとう……ございます……!」

「なんだ? 罰を与えられて喜ぶとか……まるで誰かさんみたいだな」


 白夜はケラケラと笑いながら王を見る。

 正直言ってあれほどの恐怖を体感させたのだから、罰はもういいかと思っていた。

 彼ら彼女らがメシアに所属するということを望むのであれば、参入させる方がやはり利益は大きいだろう。

 村人からの信頼はクロヌスが説明すればなんとかなることだろう。

 白夜はゴブリン達を快くメシアに受け入れることにした。


「それじゃあ頼んだぞ。クロヌス達の助けになってやれ。仕事内容については狼男の先輩から教えてもらうと良い。……うちは厳しいぞ?」

「はっ!! 必ずや……我が身を削ってでもお役に立ちます! クロヌス様。どうぞよろしくお願い致します!」

「よろしく。それと俺のことはクロヌスでいい。種族リーダー同士、仲良くやろうじゃないか」


 クロヌスと王はその後、メシアのことについて詳しいことを話し始める。


 白夜達はゴブリン達のことを狼男達に一任することとし、クロヌスを筆頭に狼男達がゴブリン達の世話をするようにと指令を出す。


 白夜達四人はその後会議室を出てメシア警察を後にし、またミローネの家に世話になりに行くのだった。






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