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第百二話 現人神、場を正す。






 白夜はメシアの仕事場へと辿り着く。

 ゴブリンの王から様々な話を聞く必要があるだろう。

 とりあえず警察の方へとおもむく。


 内部では多数の男ホブゴブリンがそわそわとしていた。

 すると白夜が入ってきたことに気づいた瞬間、ざわりと辺りが騒がしくなる。


「き、来たぞ……!」「魔王のおでましだ……」「なんとも恐ろしい……」「あの何も考えてなさそうな顔の下で一体どのようなことを……」


(……こいつら揃いも揃って失礼だな)


 白夜は取り敢えず「こんにちは」と愛想の良い笑顔をニコリと向けて挨拶する。

 するとホブゴブリン達は「こ、こんにちは」と少々怯えながらも挨拶を返してくれる。

 白夜は片手を上げて了承の意を示し、スタスタと奥へと進む。――進むたびにささっと道を譲られ、明らかに恐れられている雰囲気を感じながら。


(むむ……演技とはいえ、やりすぎたか?)


 昨日は飛んだ悪役ロールプレイをしてしまった。

 少々ノリノリでやってしまっていた分、あまり強いことを言えないが、彼らにはもう少し仲良く接してほしいものだと白夜は思う。


(まぁしょうがない。少しずつ打ち解けていけばいいだろ)


 会議室の扉の前に辿り着きガチャリとドアを開ける。

 会議室にはアルファベットのUをひっくり返したかのような大きな机が置かれており、そこにはUの丸みを帯びた部分――議長席にコウハク、右側にクロヌスと王とギン、左側にイルミナと村長が座っていた。


 しかし、様子がおかしい。――コウハクとイルミナはグデッと机に突っ伏している。

 二人も白夜と同じく疲れていたのだろうか。

 他の四人はやりどころが分からないように少々オロオロとしている。

 すると――


「……誰です? ノックもせずに入って来る愚か者は。今大事な会議――」


 コウハクが顔だけこちらにちらりと向けて、心底機嫌悪そうな態度を取りつつグチグチと言葉を発する。


「……ごめん。愚か者だった。忘れてたよ」


 白夜は非常に申し訳なく思い、頭を深く下げる。

 どんな場合でも、大事な会議をしている最中に参加する場合、入室許可を取らないといけないのは当たり前だろう。

 会議を中断して――しかも遅刻して来ているのだ。

 コウハクが怒っているのにも納得である。


「……主人……さま……?」

「――っ!?」


 するとコウハクはまるで幽霊でも見るかのような表情でこちらを凝視し、イルミナはバッと顔を起こし、会議室の入り口を鋭く睨む。


(え? なに? ちょっと怖いんだが……)


 白夜が二人娘の表情に恐怖を感じてたじろぎ、思わず一歩後ずさりすると――


「主人さまあああ!!!」

「ハクヤさああん!!!」


 ガタリと椅子を立ち上がった二人娘が即座に白夜の元へと駆け寄り、ガシリと勢いよく両サイドから抱きついて来る。


「ぐふっ!? ちょ、おい、お前ら、落ち着け――」

「寂しかったです! お体はもうご無事なのですか? 申し訳ないです。わたくしのせいで……」

「寂しかったよー! ごめんね? ハクヤさん。あたしのせいであまり眠れなかったんだよね……」


 二人娘はギュッと白夜の胴体を両脇から抱きしめながら、下から顔を覗かせて心配そうに見つめる。


 どうやら二人には疲労が抜ききれていない理由が分かっていたらしい。

 だから頑なに休めと言って白夜を一人残し、二人は仕事場に向かって行ったのだろう。


「……そうか。分かってたんだな。俺が疲れてる理由が」

「えぇ……それはもちろん――」

「うん……それはもちろん――」






わたくしの魅力のせいです!

あたしの魅力のせいだよね!






「……は?」


 白夜は二人娘の言っている言葉の意味が全く理解できなかった。


(え? なに? どゆこと?)


 説明を求めてスッと視線をギンとクロヌスに向ける。――サッと目を逸らされる。


(おいこら。なんでだよ)


 すると二人娘が白夜からパッと離れる。

 そして体を互いに互いの方へと向け、キッと睨み合い――


「はぁ? 何戯たわけたこと抜かしているのですか? 主人さまが貴女のそのだらしない体に魅力を感じるわけがないでしょう?」

「は? 何言ってるの? ハクヤさんがコウハクに欲情するなんてありえないでしょ。そんな貧相な体してるくせに」

「……主人さまはわたくしの可憐さに対して欲を感じ、抑えるのに必死だったのです。貴女さえ居なければ、わたくしに対してあの時のように激しく愛してくださったでしょうに」

「……コウハク。嘘はいけないよ嘘は。ハクヤさんはあたしの美貌に虜になりそうで、抑えるのに必死だったんだよ。コウハクさえいなきゃ今頃一杯愛してもらえたのになぁ……まぁコウハクは言葉でも言ってもらえてないもんね〜あはは」

「……あぁ? ロクに体に触れてもらえてもない小娘が何言ってんですか? 貴女から抱きついていかない限り、主人さまに触れてもらえないくせに。向こうから自然に触ってもらえた箇所なんて、精々頭くらいでしょう? わたくしは既に全身余すところなく主人さまに楽しまれていますが……何か異論はありますか?」

「……あるに決まってるじゃん。てかあれ元々罰だったんでしょ? 聞いたよハクヤさんに。あの草原でもコウハクが何か可哀想だからあやすために脇腹をくすぐってたって……全然愛されて無いじゃん。可哀想。バカみたい」

「……言わせておけば、この小娘はいくらでも愚かな言葉を口々に発しそうですね。貴女アホなんですか? 主人さまとわたくしには切っても切れない縁が既に結ばれているのです。貴女の居場所なんて、どこにもありませんよ。邪魔者はさっさと霧にでもなって、雲散霧消してみてはいかがですか?」

「はんっ。霧になったところでハクヤさんから離れるわけないじゃん。むしろハクヤさんの隣の席にずっと座っているんだ〜ってバカみたいに勘違いしてる奴に纏わり付いて、椅子から転げ落ちる手助けでもしてやろうかしら」

「……」

「……」


「……おい。まさかこんなしょうもないことをずっと会議していたわけじゃないだろな?」


 白夜は気配を消してギンとクロヌスが居る席の方へスッとスライド移動し、二人にこそこそと話しかけて説明を求める。


「いや……最初の一時間はゴブリンから情報を聞いたり、メシアに従属するにあたっての注意点を話したりしていたのでござるが……」

「二時間目ともなると、なぜか議論がハクヤ様のパートナーに相応しい者は誰なのかというものへと変貌してしまい……」

「三時間目になると、寂しさをこじらせたお二方が急にテンションを下げてしまい、机に突っ伏してしまったのでござる……拙者達がどうしたものかと困っている最中に、ハクヤ殿が入室して来たのでござるよ」

「……なんでそうなるんだよ。すまん。うちのバカ娘供が迷惑かけた」


 白夜は事情をなんとなくではあるが理解し、場を平定するべく未だバチバチと視線を交わして睨み合うバカ娘達――コウハクとイルミナの元へと近寄り――






 ゴチンッ!






 両手で正義の鉄槌――チョップを繰り出す。


「ひうっ!?」

「あたっ!?」

「こらっバカ娘供。皆を困らせるんじゃない。俺の疲れが取れなかったのは、只でさえ狭い敷布団にも関わらず、お前達がいつもの如く俺を抱き枕のように両脇でガッチリ掴んで離さなかったからだ。寝返りどころか全く身動きが取れなかったぞ。そりゃ睡眠も浅くなるわ」


 白夜が少々怒気を込めて叱りつけると、二人娘の先ほどの喧騒はどこかへと鳴りを潜め、瞬時にしおらしくなり、やがてどちらともしょんぼりとするのであった。


「……まぁそれはどうでもいいが、お前達は家訓を破ったな? 『皆が仲良くすること』これを破ったお前達には罰を与えねばならんな」


 するとその言葉に二人はビクッと反応する。

 おずおずと顔を向ける二人娘に対して白夜は――


「これからは各自、自分の寝具で寝ること。緊急時以外は他人の寝具に潜り込むことを禁ずる。良いな?」


 と、声高々と宣言する。

 その宣告に対して二人娘は――愕然がくぜんとする。


「ぐはぁっ!? そ、それは……! それだけはっ!」

「ぐふぅっ!? そ、そんな……! ひどすぎるっ!」

「アホか。普通寝具は一人で使うものだろうが。今まで勝手に潜り込んできたのを許容した俺も悪いが、今回は見過ごせん。他人様に迷惑かけたんだからな。いい加減親離れしろ」

「「そ、そんなぁっ!? ご、ご慈悲をっ! どうかご慈悲を!!」」

「慈悲も何もあるかよ」

「「うぐぅっ!?」」


 二人娘は大ダメージを受けたかの如くうめき、よろめき、顔が青ざめる。

 まるで死の宣告を受けた者のように絶望し、頭をがっくりと落とす。


 しかし、しばらくするとハッとして顔をバッと上げ、何やらニヤニヤとした表情を浮かべる。――何を考えているのか分かりやす過ぎる表情だ。


「……ちなみに、なんでもないのに『緊急時だから入っちゃいました〜』とか言って潜り込もうと悪巧みしている場合、更に重い罰を与え――」

「「――っ!? も、申し訳ございませんでしたああああ!!」」


 二人娘は瞬時に正座し、頭を地面に擦り付けて土下座をする。

 もはや見慣れてしまった光景に対して白夜は「はぁ」とため息を吐き、他の皆に「申し訳ない」と一言謝り、議長席へと足を運ぶのであった。






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