第百話 ゴブリン、クリーニングされる。
白夜達一行はトルタ村へと辿り着く。そこでは村長だけではなく、トルタ村の村人達が幾人か今か今かと帰りを待っていた。
故に驚く。――後ろで控えている存在を目の当たりにして。
「……なっ!? ゴブリン!?」
――なぜゴブリンの軍勢がここまでやって来たのか。
もしや救世主御一行はゴブリン達に膝を屈し、この村を奪いに来たのではないか。
――しかし、村人達がそう考えたのは、ほんの一瞬であった。
「おぉ。村人達よ。安心してくれ。ゴブリン達は我らメシアに屈服した。もはや何も脅威はない。少々見た目が見窄らしいのでな。この者達をクリーニングしようかと思って連れてきた」
村々の救世主であるクロヌスがそう言った瞬間――
「なんだそうだったのか」「焦った〜。てっきり襲われるのかと」「救世主さまが居るなら安心だな」「まぁゆっくりしていきなゴブリン達よ」
とくるりと手のひらを返し、すぐに歓迎ムードになるのであった。
(うっそだろおい……少しは疑えよ……村に入れるためにあれこれ策を考えてたのに……クロヌスめ)
白夜はクロヌスの人気ぶりに嫉妬の炎をメラメラと燃やすが、すぐに鎮火させる。
「……では村人の皆さん。少々お願いしたいのですが、ゴブリン達に着せる服と、体を拭くタオルを頂戴出来ないでしょうか? お代はきっちりとお支払い致しますので」
白夜は村人達に問いかける。ホブゴブリン達が着ている服は、服とは呼べそうもない代物だ。男性は腰に布切れを巻いただけの状態で、女性は胸部と腰部をなんとか隠せているのみなので、少々ふしだらなのだ。
「なんだそんなことかい? 兄ちゃん」「倉庫にいくつかあるだろうから用意しといてやるよ」「どこへ持って行けばいいんだい?」
「あぁ、メシアの施設の前にまで持ってきていただけるとありがたいです。少々人数が多いですので、たくさんあると助かります」
「お安い御用さね」「まぁでも集まって三十着程度だろうがね」「足りない分はどうするさね?」
「う〜んそうですね……」
三十着では足りないだろう。ホブゴブリンはここに百以上居る。皆には少々野生的匂いが染み付いてしまっているので、お風呂に入ってもらおうと考えていたのだが、せっかく綺麗にしたところでその匂いが染み付いた布切れを着てしまっていては意味が無いだろう。――どうしたものか。
「……ふむ、どうでしょうハクヤ様。ここは一つ、我々メシアを有効活用してみては?」
するとクロヌスが意見を出してくる。
(なるほど! その手があったか!)
「……それはいいな。では早速各村に指令を出しておいてくれ。『服とタオルを各村で三十着程用意して、トルタ村へと持って来て欲しい。お代は後でしっかり払う』と。頼んだぞクロヌス」
「はっ! かしこまりました!」
するとクロヌスは連絡魔法石を持って各村へと指令を飛ばす。
白夜達はホブゴブリン達を引き連れてメシアの仕事場へと向かい、女性は郵便局の方へと入らせて、イルミナとコウハクに浴室の使用方法を説明させ、男性は警察の方へと入らせて、白夜とギンが浴室の使用方法を説明する。
説明が終わった白夜とギンは外へと出ると、三人の村人達が早くも服を荷車に積んで運んで来てくれていた。
「おう兄ちゃん。服とタオル持って来たぞ」「どうすればいい?」「女性用と男性用に分けておきましょうか?」
「あぁ、ありがとうございます。男性用はこちらに、女性用はあちらに纏めておいてもらえると助かります」
「おう任せときな」「これが男性用の下着でこっちが……」「あんたが触んじゃないよ!」「いてっ!? しょうがねえだろ! 積んでくるときに混ざってんだから!」
村人達はせっせと服を分け、仕事を速やかに完了させる。
「おう兄ちゃん。終わったぜ。タオルは全部で三十だな」「服は女性用が二十着さね」「男性用は十五着だな」
「ありがとうございます。お代はこれで足りますか?」
白夜は金貨を三枚取り出し渡す。
すると――
「……なっ!? き、金貨ぁ!?」「あ、兄ちゃん金持ちだな〜」「白夜さん、金貨一枚でもお釣りが来ますよ?」
と村人達は慌てる。
「あちゃ〜そうでしたか。残念ながら今金貨しか持ち合わせていないんですよね。まぁお釣りは手間賃と思って取っておいてください。では金貨一枚どうぞ」
そう言って白夜は金貨を一枚村人に渡す。
「あ、兄ちゃん太っ腹だなぁ」「ほっそいのになぁ」「これ、失礼だろう? 白夜さん。ありがたく頂戴しておきますね。お釣りの分何か施しをさせてもらいます」
村人達は礼をして去って行く。
「う〜ん……向こうの世界では、大体服一式揃えるのに一万円程度だと思って支払ったんだが……こっちの物価は安いのか?」
「普通の服だと大体銀貨五枚もあれば十分揃えられるでござるよ。ハクヤ殿」
「そんなもんなのか……」
するとコウハクとイルミナも外へとやって来て、クロヌスも連絡を終えて戻ってくる。
「お疲れ〜! ハクヤさん」
「お疲れ様です。主人さま。指導を終えました」
「お疲れ様です。ハクヤ様。連絡終わりました」
「お疲れ様でござるよ」
「三人とも、お疲れさん」
白夜は二人に手を振り、労う。
「それじゃあギン。イルミナ。早速で悪いがそこに分けてある服を中に持って行って、ホブゴブリン達に渡してくれるか? 後で他の村からもメシアが運んで来てくれるはずだから、足りなくなったら外に様子を見にきてくれ。ホブゴブリン達が風邪を引かないように、服とタオルが足りなくなったら一時入浴を制限してくれ。今は男用が十五着、女用が二十着、タオルは全部で三十だから十五ずつ分けるといいだろう」
「おっけー。ハクヤさん」
「了解でござるよ。ハクヤ殿」
「頼んだぞ。クロヌスはここで待機して、メシアの配達物を確認して男用女用と振り分けてくれ」
「かしこまりました。ハクヤ様」
「主人さま。わたくしは何をすれば良いでしょうか?」
「コウハクはしばらくここで待機していてくれ。ギン、イルミナ、クロヌスが疲れたら俺達が仕事を交代しよう」
「かしこまりました。主人さま」
「……よし。では皆、少々疲れていることだろう。辛くなったらすぐに言うように。その時は各々役目を交代して休息を取ろう。では解散!」
こうして白夜達は一晩使用してホブゴブリン達をクリーニングするのであった。
そして、メシアの輸送部隊は一時間程してから各村より到着し、見事その仕事を完遂させるのであった。
これにより、メシアの初仕事は失敗なく滞りなく完了し、トルタ村の一件はメシアの利便性を大いに示すテストケースとなるのであった。