第九十八話 ゴブリン、種族変更される。
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名前:ゴブリンの王
性別:男性
年齢:三十五歳
種族:ホブゴブリンキング
ステータス
LV:1
HP:3
PW:3
MP:3
DF:3
IN:30
SA:3
種族特性
<自動回復(小)>
保有スキル
スーパースキル<小鬼王>
ゴブリン族を従えることができる
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ゴブリン達は皆、種族が『ホブゴブリン』へと変化した。
今回スキル<創造>で操作した箇所は一つ。
『人間種と意思疎通が出来るようにすること』。
その結果ゴブリン達は人間と背丈も容姿もそこまで変わらない種族へと変貌した。
切れ長の耳を持つ肌の色が緑色をした人間と言えるだろう。――ただ着ている服が見窄らしく、服というよりも布切れのような物を羽織っている状態だ。
「こ……これは……?」
ゴブリンの王が目を覚ましたようだ。
言葉も何やら「グギャグギャ」言っていたものから白夜達が理解出来るものへと変わっている。
「目が覚めたか? お前がゴブリンの王だな?」
白夜は洞窟内にある王の居住空間の入り口付近から、地面に倒れているゴブリン達の中で頭冠を被った者――王に語りかける。
「……ひええぇ!? ば、化け物!!」
すると王は驚愕の表情を浮かべ、白夜の後ろに控えている銀色の体毛をした巨大な狼――ギンを見て怯える。
「あぁ、落ち着いて欲しい。こいつは俺の仲間だ。お前達が俺達に対して何か危害を加えない限り、襲ったりはしない。安心してくれ。おいギン。もう戻ってもいいぞ」
「了解」
ポンと音を立て、白い煙を出した後にギンは少年の姿へと戻る。
その様子に驚く者、安心する者が居ることがゴブリン達の中で発生している声音を聞くことで分かる。
「……さて、これで落ち着いて貰えたかな? 自己紹介をしよう。俺は紅 白夜。旅の冒険者だ。お前達が何やら村に悪さをしようとしていたみたいだからな。お灸を据えにやって来たってわけだ」
「ぼ、冒険者……? あれほどの魔獣を従えられる冒険者など……聞いたことが……」
王は混乱する。
あの少年は恐らく狼男であろう。
ゴブリンと同じく一匹だけで行動することがない、狡猾で獰猛な魔獣だ。
危険度にしてAを優に超える。
それほどの強者を従える程の馬鹿げた存在が目の前に居る。
この者は間違いなくSランククラスの冒険者だろう――と思考を働かせていた。
「ま、そうだろうな。最近来たばっかりだし」
すると白夜はへらへらと笑い、その笑みを王に対して向ける。
その表情からは気の緩みを感じさせ、こちらと何やら友好的に接しようとする気さえ伺える。
――これはチャンスだ。
王は考える。
向こうはこちらのことを完全に舐めきっている。
弱者を侮るのが強者の弱点。
しかも今の自分は以前の自分に比べて何やら調子が良さそうだ。
人間の言葉で意思疎通が出来るというのも不思議ではある。
恐らくあの者が自分達に対して何かしらの慈悲をかけたのだろう。
あの者が一瞬の隙を見せたが最後、その首を取って更なる名声を得よう。
それほどの強者の首なのだ。
おのずと自らの評価も上がるであろう。
そしてあの村を乗っ取り、ゴブリン王国を作るのだ。
などと画策していると――
「……お前、何か悪巧みしているな?」
白夜は一瞬で表情を無に変え、王に重々しく問いかける。
その変わり映えであったり、核心に迫られたことに対して王はビクリと身を震わせる。
「……図星か。差し詰め俺が友好的雰囲気を醸し出しているから、隙を付いて寝首をかこうとかいう算段か? 甘く見るなよ」
白夜はスタスタと王の前にまで歩み寄る。
前で寝転がっているゴブリン達は本来であれば道を塞ぎ、王を守る必要があるだろうに、それが出来ない。
白夜本人が醸し出す自身に満ち溢れた佇まい――絶対なる強者の雰囲気もそうであるが、後ろに控える白い少女の纏う荒ぶる風が、「危害を加えた瞬間、お前達を切り刻む」と雄弁に語っていた。――手出し出来るはずもない。
怯えたゴブリン達は地面に身を置いたまま、みっともなく這いずり回り、道を譲ってしまうのであった。
――もっとも、それは王も同じことであったのだが。
「おい。逃げるな。話を聞け」
「ひ、ひぃ! お、お許しを!」
王は地面に頭をこすりつけ、土下座をする。――絶対なる強者が目の前にまで達してしまった時に。
「頭をあげろ。分かるか? 俺はお前達全員を救うべく、人間種と意思疎通が出来るようにわざわざ創造り変えてやったわけなんだが……」
そして白夜は王に向けて右手を開いて向ける。
王は少し頭を上げ、その様を震えながら見つめる。
「創造出来るということは、破壊することだって出来るというわけだ。作ることは難しいが、壊すことは簡単だろ? この手でグシャリと握り潰せば良いだけの話だからな」
白夜は物を握りつぶすかのように右手をグシャリと閉じ、王に語りかける。――王はその様に冷や汗を多量に流す。
「つまり何が言いたいかというとだな……」
白夜は王に背を向け、周囲のゴブリン達を見ながらツカツカと歩いて入り口付近にまで足を運びながら語りかける。
「俺はいつだってお前達全員を屠ることが出来る。しかし、俺はそんなことは出来ればしたくない。だからお前達に慈悲をかけた。何も争い合う必要はない。互いに意思疎通をし合い、仲良く出来るならば仲良くした方が何かとメリットがあるだろう?」
そして入り口付近にまで到着すると、ピタリと歩を止める。
「……だが、お前達の王からは仲良くしようという気が全く感じられないな。それどころか何やら悪行を働こうとしているようだしな。非常に悲しいよ」
白夜はゆらりと振り返り、王の姿を睨みつける。
「俺はゴブリン供全員の命をこの手で握っている。そんな存在に対してゴブリンの王であるお前は何だ? 皆の命運を握っているこの俺に対して危害を加えようというのか? ……せっかくお前達の未来を思って慈悲をかけてやったというのに、そんな簡単なことも分からず、種族の長であるお前が俺の顔に泥を塗ろうとするとは――」
――ふざけるなッ!!!!
白夜は大声で怒鳴る。
ゴブリン達は全身をガタガタと震わせて怯える。
まるで荒ぶる神の怒りを買ってしまったかのごとく、その表情には皆絶望の念を抱いていた。――恐らく自分達は今ここで死ぬのだろう――と。
白夜はそんなゴブリン達に向けてゆっくりと右手を向ける。
「お前から感じ取るに、もはや情けをかけるべき種族ではないと判断した。消えろ。せっかく与えられた神の慈悲にも答えられんような――恩を仇で返すつまらん種族供が。スキル<削除>発動。このゴブリンどもを殲滅――」
も、申し訳ございませんでしたああああああ!!!!!
白夜が右手を閉じ終える寸前、王は洞窟内全域に響き渡る大声で必死に謝罪の言葉を申し上げる。
「い、偉大なるお方……どうかお許しを! 私が……この私がいけないのです! 村を襲い、種族の絶滅を回避し、あわよくばゴブリンの国を建国しようと愚かなる考えを巡らせたのはこの私です! 私だけなのです!」
王は悲痛な大声をあげ、謝罪する。
「ど、どうか、種族を滅することだけは……お許しください! 私の命ならば、いくらでも差し上げます! どうかこの者達だけは……どうか……!」
「な、何をおっしゃいますか王よ! 偉大なるお方! 愚考を実行したのは司令官たる私の責任です! どうか私に罰をお与えください! 王は……王にだけは……!」
王と司令官は頭を地面に擦り付け、懇願する。
互いに互いを救うべく、互いに種族全員を救うべく、必死に――本当に必死に。
その様子をじっくりと見ていた白夜は――
「……ふう。及第点の演技だったか?」
「素晴らしいお姿でした……! わたくし、益々惚れ直してしまいました!」
「あっそう。確認する必要もなさそうだが、コウハク。あれは本心だよな?」
「……素っ気ないです主人さま……。えぇ、そのようです。最初は主人さまの御慈悲に対して、愚かにも欲をかいて夢を見ていたようですが、今となっては種の存続――平和を心より望んでいるようです」
「そうか。お前達、良い上司を持ったな」
ゴブリン達にニコリと心からの笑顔を見せ――
「平和を望むと言うのであれば、大歓迎だ。俺達はお前達に対して危害を加えるつもりはない。しかし、罪は償ってもらうぞ。お前達種族に対して然るべき罰を後ほど与えよう」
そう言った後、白夜は右手の人差し指をゴブリン達に対して向け――
「ではお前達、着いて来い。まずはお前達を……クリーニングしないとな」
彼ら彼女らは少々野生的匂いが強すぎる。
故に白夜はゴブリン達に指を突きつけ、声高々とクリーニング宣言し、くるりと振り返って洞窟の外へと赴くのであった。