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第十話 吸血鬼、窮地に立たされる。






 ヴラッド=シュタイン城。

 吸血鬼の王が住み、吸血鬼の国城とされるこの城。

 黒く荘厳な作りの城壁に囲まれ、中央部に黒くそびえ立つ大きな鉄塔を構えたこの城は窮地に立たされていた。


 この大陸では魔族サイドと人間サイドが抗争を繰り広げており、幸いにもこの城は抗争とほぼ無縁な場所に存在し、巻き込まれるような立地ではなく――そもそも争いなど起こす気は毛頭無かったのだが――この抗争には静観を貫くつもりであった。

 故に、何者かが攻めてくることなどあり得ないはずであった。

 

 しかし、それは突然起きた。

 つい最近、人間サイドの英雄と呼ばれる強力な勇者一行が軍勢を引き連れて、いきなりこの城に殴り込みをかけてきたのだ。

 兵をほとんど殺され、こちらのキングである吸血鬼の王も、重傷を負ってしまった。


 両種の抗争が激化し、こちらにまで人員を割く余裕はないだろうと踏んでいたのが甘かったのだろう。

 勇者一行は、防衛が手薄になった箇所を見極め、戦闘になる前から兵士たちは無残に散って行った。


 ――もっとも、戦闘になっていたとしても、あの勇者一行にはとても敵わなかっただろうが。


 英雄と呼ばれる者達は規格外の戦闘力を誇っていた。

 気付いた時にはもう遅く、城が完全に攻め落とされるのを必死に防衛するだけで手一杯であった。


 それでもこの城がまだ存在するのには、ある理由があった。

 抗争のせいで虐げられたと同時に、抗争のおかげで救われたのだ。

 それまで拮抗していたはずの抗争地帯の戦線が、突然グッと押され始め、人間サイドは慌ててヴラッド=シュタイン城に向かわした軍勢を引き戻したのだ。

 軍勢は攻め入りから数日たった後、強制帰還令が出され、このヴラッド=シュタイン城は崩壊一歩手前で事なきを得た。

 

 一難は去って行ったが、一どころではない難が残った。

 残存兵士は勇者一行率いる軍勢により、万の軍勢が百にまで減らされ、城は愚か、一族は崩壊を目前としていたのであった。






 吸血鬼の王女『イルミナ・ヴラッド』は、父親であり王である『イルエス・ブラッド』の座る玉座の前にて、一族の崩壊を悟り、涙する。






 ――このままでは、自分達はいつ滅んでもおかしくない。






 人間サイドがまたいつ攻めてくるかもしれないこの状況で、希望を抱くことなど到底できないのであった。






 ――そして、その不安はすぐに的中することになる。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 ――俺達はラッキーだ。






 この五人の男集団は、全員が全員、そう思っていた。

 攻め落とされる手前の城を攻め落とす機会が巡って来たのだ。


 元々は人類最高戦力である『イクス BRAVEブレイブ』という、勇者一行を筆頭に招集された討伐部隊によって、あの城を攻め落とす手筈であったが、魔物との抗争地帯がかなり押され、急遽撤退せざるを得なかったのである。

 それでも、あの城が壊滅的被害を負ったのは事実であり、あの軍のような過剰戦力はもはや必要なく、少数精鋭で攻め落としたほうがメリットは大きい。


 この野蛮な五人の男集団は、『吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)』と呼ばれ、有名な冒険者チームである。

 吸血鬼を狩ることにおいて他の冒険者の追随を許さない達人の仕事をこなせる数少ない冒険者チームであり、そのランクはAにも及ぶ。

 チームの団長であるロズウェルは野望を抱く。


(俺達も、このでかい仕事をこなすことで、英傑入りだ……)


 ――英傑。

 それは数々の冒険者達から羨望の眼差しを向けられるそれである。

 危機を救い、希望となり得る存在。

 どの冒険者であっても憧れるそれ――ランクにしてSランクの存在に自分達もなれるのだ。

 ロズウェルは頷く。


(そうなったら……絶大なる権力を得ることになる。全てが俺達のために差し出されるだけのモノに過ぎなくなる! 金だって遊びまくれるほど得られるだろうし、女だって向こうから寄ってくるだろうよ! ハハハ! いい気分だ! 最高だ!)


 頷くだけでなく、顔の表情が歪み、「クックックッ」と笑みを浮かべる。


「おいおい、気持ちはわかるけどよ〜? まだ仕事は終わってないんだぜ? 団長」

 

 <把握グラスプ>という探知スキルを持つ団員、レオルドが呆れたように言い、他の団員達もハハハと笑う。


「スキルで把握すんなよ! ったく……いや、すまんすまん。俺達の輝かしい未来を予知しちまってなぁ。――さて、見えて来たな。ヴラッド=シュタイン城」


 男衆は城付近へと到着する。

 レオルドが城を少し遠くから観察する。

 真ん中に高くそびえる黒塔が立ち、その周りを囲うように、黒い城壁がある。しかし、修復が間に合っておらず、そこには数人の警備がいるようだ。

 数人しかいない警備を殺し、攻め込むことも容易ではあるが、ロズウェルはそう考えなかった。


「俺達の門出を祝ってくれる城だぜ? 感謝を込めて、正面突破だ。正面の門をお前の魔法で破壊し、奴らに絶望を味合わせてやろう」


 白魔導士の団員、アッシュにそう言って、団長は不敵に笑う。


「一匹残らず殺し尽くす! 邪魔するぜ!」






 ドオオオオン!






 吸血鬼一族が滅びの道を歩む轟音が響いた。






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