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◇◇◇


 それからしばらくし、私を襲おうとした首謀者が捕まったとアルから連絡があった。

 首謀者と破落戸たちは牢に入れられ、しかるべき裁きを受けることになるらしい。

 第一王子の婚約者を狙った卑劣な犯行を、アルは厳しく追及し、遺憾の意を露わにした。


「そのような行動を良しとする人物を、僕が愛すると思っているのなら心外だ。僕は僕の婚約者を傷つけようとする者を許さない」


 そう皆に向かって告げ、牽制したのだ。

 それを私は、その場にいたというヴィクター兄様から聞いた。


「これでしばらくは、お前のことを悪く思うものも直接行動には移しにくくなるだろう」


 そうして、私の外出禁止令は解かれ、また孤児院に通い、クロエと会うことができるようになった。

 とはいえ、護衛の数が増えたのは仕方のないことだ。

 皆に迷惑を掛けるのも嫌なので、ほぼ毎日通っていた孤児院通いを、私は週に一日ほどに変えた。

 あんなことがあっては私も自衛するしかない。

 クロエと毎日会えないのは寂しいが、全く会えなくなったわけではないのだからと自分に言い聞かせた。


「悪かったわね、ルーク。クロエとなかなか会えなくなって。あなたも寂しいでしょう?」

「……余計な気遣いをなさいますね、お嬢様。一体何のことか、さっぱりわかりません」

「分からなければ良いのよ」


 ムスッとするルークを見て、クスクスと笑う。その頬が少し赤くなっていることに気づいたからだ。

 クロエはまだ、誰のことも好きではないようだが、ルークの気持ちはまだ彼女の元にあるらしい。

 伯爵家の娘であるクロエと、公爵家の執事のルーク。なかなかに成就するには難しい恋だが、それを「身分違いよ」と笑い飛ばす気にはならなかった。

 いつか、ルークなりに落としどころを見つけることができればいい。そう思っていた。


 そうして、ようやくと言おうか、私は十六になり、デビュタントの時を迎えた。

 誕生日には、アルからプレゼントが届けられ、中には細い鎖が三重に絡まったブレスレットが入っていた。小さな宝石がいくつもついている。繊細なデザインがとても美しかった。


『どうしても都合が付けられなくて。君を僕に縛り付けたいという気持ちを込めて贈るよ。デビュタントで会うのを楽しみにしている。誕生日、おめでとう』


 入っていたカードにはそんな言葉が書いてあり、嬉しくも恥ずかしい気持ちになった。

 今日はその、アルからもらったブレスレットといつものブローチを付け、デビュタント用に久々に新調したドレスを身につけている。

 デザイナーが魂を込めて作り上げたというドレスは、清楚なデザインで、だけど決して地味ではなく、銀色の糸で蝶の刺繍が生地全体に縫い取られていた。

 シルエットはほっそりとしていて、身体のラインがはっきり出る。なのにいやらしい感じのない、素晴らしい出来映えだった。

 全部を身につけ、アルが迎えに来てくれるのを待つ。


「殿下がお迎えにいらっしゃいました」


 ルークの声に顔を上げ、立ち上がった。迎えに来たアルは、黒の盛装に身を包んでいる。

 王子らしい華やかな印象で、ジャケットには銀糸で細かい縫い取りが施されていた。

 すっきりとした立ち姿は優美で、初めて会った日のことを思い出してしまう。


「アル」

「迎えに来たよ、リリ」


 声に、甘さが混じっていた。彼は私を見て目を細めると、「とても綺麗だ」と呟いた。


「こんなに綺麗な君を、僕以外の人に見せなくてはいけないなんて、嫌になるな。……ねえ、デビュタントなんて止めてしまおうよ。このまま二人で、僕の部屋に籠もっていない?」

「……そんなこと、できません」


 デビュタントは貴族の娘にはある意味何よりも大きなイベントなのだ。それを欠席するなど許されないし、あり得ない。

 アルもそれは分かっているので、「だよね、残念だなあ」と言うに留めた。

 アルが乗ってきた馬車で城に向かう。

 城は今日の夜会のために大広間が開放されていた。

 色とりどりのドレスを着た貴族たちが大広間にはひしめき合っている。今夜の夜会は、爵位を持つ者は全員参加の夜会なので、人数がかなり多い。

 私もあとでそちらに向かうことになるが、まずは国王に挨拶しなければならない。

 これはデビュタントの古くからの習わしなのだ。

 国王の待つ部屋へ、アルと向かう。

 今日、社交界デビューするのは私を含めて五人。あとの四人はもう挨拶を済ませたらしく、残るは私だけだった。

 真っ白いドレスはデビュタントの証。それを着て、国王がいる部屋に行くと、扉を守る兵士たちが心得たように扉を開けてくれた。


「僕は、ここで待っているよ」

「はい」


 返事をし、一人で中に入る。

 定められた通りの挨拶をし、国王の祝福を受け、部屋から下がる。

 それだけのことなのに、ひどく緊張した。


「おめでとう。これで君も社交界デビューだね。次は夜会。大丈夫かな?」

「頑張ります」


 廊下で待っていてくれたアルが声を掛けてきた。彼の顔を見るとホッとする。

 エスコートを受け、今度は夜会が行われている大広間に向かう。

 挨拶代わりにひとまずは一曲、踊らなくてはならない。

 その相手を誰に務めてもらえるかが、貴族の世界では重要なのだ。


「そういえば、アルと踊るのって初めてですね」

「そうだね。でも僕、こう見えて意外と踊りは得意なんだよ」

「意外とというか……予想通りですけど」


 幼い頃から天才と称され続けてきたアルは、何をやらせても人並み以上だという噂だ。

 彼と付き合っていて、それは多分本当なのだろうなと思っていたから、意外には思わなかった。





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