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「……」


 思いが溢れすぎて言葉にならない。

 身体の奥底から何かが迫り上がってくるようだ。それが全身に広がり、私を満たしていく。

 呆然とアルを見つめ続けるしかない私に、アルは困ったように言った。


「参ったな。君を困らせるつもりなんてなかったんだ。うーん。とりあえず、今日は帰るよ。あ、そうだ。急ぎはしないけど、一応告白の返事は聞かせて欲しいかな。君の気持ちが知りたいんだ。まあ、君の答えがどうだったとしても、結果は変わらないんだけど。僕は婚約を破棄する気なんてないからね。じゃ、帰るよ。見送りはいらない」

「あ……」


 にこりと笑い、アルは言葉通りさっさと部屋を出て行ってしまった。

 それを追うことすらできない。アルからもらった言葉が大きすぎて、自分の中で上手く消化しきれず、動けなかったのだ。


「にゃあ」

「あ、ごめんね」


 いつの間にか足下に移動してきたノエルが、私を見上げて鳴いてきた。抱っこしてくれという表情をしていることに気づき抱き上げる。

 毎日ブラッシングをしているのと、料理人たちが栄養たっぷりの食事を与えているせいか、ノエルの毛並みはつやつやだ。最近は、ノエルを不細工なんていうのは、ユーゴ兄様くらいのもの。その兄様も、冗談交じりで言っているだけだと最近は気づいてきたけれど。

 ノエルの頭を撫でながら、現実逃避していると、ふと、後ろから声が聞こえて来た。


「……お嬢様、殿下にお返事をなさらないで良かったのですか」

「……ルーク、いたの」


 すっかり存在を忘れていた。思わず本音を零すと、私の隣に立ったルークは溜息を吐いた。そんなルークを見て、ノエルが同じように溜息を吐く。


「どうせそんなことだろうと思っていましたけど、お二人とも、すっかり私の存在を無視して下さいましたよね。いきなり始まる告白劇。いやあ、本当にどうしようかと思いましたよ。今更外に出ることもできないし、空気になりきるくらいしか、私にできることは残されていませんでした。きっとノエルも同じだったのでしょうね。可哀想に、できるだけ邪魔にならないように息を潜めていましたよ」

「……」

「それで? 私たちがせっかく空気になってあげていたのに、返事もしないで良かったのですか、お嬢様。嬉しかったのでしょう?」


 再びの質問に、私は馬鹿にされることを承知で正直に告げた。


「だ、だって、驚きすぎて、言葉が出なかったのだもの!」

「……」


 呆れたような顔で、ルークが私を見てくる。だけど本当に頭の中は真っ白で、言葉なんて出なかったのだ。

 嬉しかった。

 ルークが言った通り、アルに告白されて、本当に嬉しかったのだ。


 ――私も好きです。ずっとあなたが好きでした。

 一目惚れから始まって、そうしてあなたに助けてもらって、変わっていく切っ掛けをもらえて、それを良かったねと言ってもらえて、それがまた嬉しくて。

 気づいた時には、もっともっと好きになっていました。


 そう答えたかったのに、喜びと感動が胸の中に渦巻き、その感情を持て余しているうちに、困らせたと思ったアルが、部屋を出て行ってしまったのだ。


「……お嬢様、馬鹿でしょう」


 たどたどしくではあるが、ルークに説明すると、彼は更に呆れた顔になった。


「そこは即座に『私も好きです』と言って、殿下に抱きついておけばそれで良かったんですよ。お二人は婚約者同士ですし、それで何の問題もありません。どうして返事をしないのかと思ったら……はあ、お嬢様は飛んだ大馬鹿者ですね」

「し、仕方ないじゃない。嬉しすぎたのだもの。ま、まさかアルが私のことを想って下さっているなんて思いもしなかったし」

「そうですか? ものすごくあからさまだったと思いますけど。まめに手紙を書いて、時間ができれば婚約者の屋敷に足繁く通い、見せつけるように町をデートして。どう見たって、殿下はお嬢様のことが好きでしょう。気づいていなかったのなんて、お嬢様くらいですよ」

「う、嘘」

「嘘なものですか。ですから、旦那様もいつも笑顔で殿下をお迎えしていたのです。婚約は順調。殿下はお嬢様を大事にして下さっている。でなければ、いくら殿下でも、あんなにいつもいつも歓待されませんよ」

「……」


 ルークの話を聞き、黙り込んだ。

 確かにアルは、私の手紙にまめに返事をくれた。時間のない中、屋敷に足を運んでくれた。

 でもそれはずっと、私が『悪役令嬢』にならないための協力の一環でしかないと思っていたのだ。


「大体、好きでもない異性のために、わざわざお忙しい殿下が時間を割いたりなさると思いますか? しかも、その理由が、妄言と取られかねない『悪役令嬢』回避に付き合うため? 巫山戯ているんですか。……馬鹿は放っておいて、普通に執務を優先させるでしょう」

「……そうね。その通りだわ」


 はっきりと現実を突きつけられ、私は項垂れた。

 私は当事者で、それどころではなかったから全く気づかなかったが、言われてみれば確かにそうだ。


「殿下は、最初からお嬢様が好きで、だからこそ協力して下さっていたんですよ。……全く、性格が改善されてきても察しの悪さは変わりませんね」

「……ルークの口の悪さは、日々、酷くなっていっている気がするけれど」

「主人がこれですから、このくらいでちょうど良いんです。誰かが、指摘して差し上げないと、何もないところで転びそうな方ですから」

「……」


 しれっと言い切られ、私は唇を尖らせた。腹は立つが否定はしにくい。実際、ルークがこうやって色々とはっきり言ってくれるからこそ助かっていることも多いのだ。


「……私、自分で言うのもなんだけど、結構寛大な主人になったわよね」


 以前までの私なら、使用人の無礼な発言を決して許しはしなかった。そう思いながら言うと、ルークは、


「だから私は、今のあなたにならどこまでもお仕えしてもいいと思っていますよ」


と、寛大な主人になり続けるしかない言葉をくれた。







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