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16



 頬のあたりがじわじわと熱くなっていく。何とも言えず黙り込むと、私の膝の上で目を瞑っていたアルが口を開いた。


「ねえ、リリ。リリは僕に膝を貸してくれているんでしょう? それなのに僕を差し置いて、他の男と話すなんてどういうつもり?」

「ほ、他の男って……る、ルークのことですか?」

「他に誰がいるの」


 拗ねたような口調が可愛い……じゃなかった。まさかのルークと話していることを指摘してくるアルを私は驚きながらも見つめた。


「え、えと……」

「ねえ、リリ。今度、僕とも町を散策しない?」

「え?」


 話が急に変わり、ついていけない。何を言われたのかと目を瞬かせると、アルは瞳を閉じたまま言った。


「だってさ、君は毎日のように、君の執事と町を歩いているわけでしょう? そりゃあ、僕は仕事で、君に同行できないのは仕方ないことだけどさ。ずるいって思うんだよ」

「ずるい、ですか」


 まさかアルがそんな風に言うとは思わなかった。


「そう、ずるいよ。僕だって、君と町を歩きたいし、お洒落なカフェにだって入りたい。綺麗な格好をした君を隣に置いて、この綺麗な人は僕の婚約者なんだって自慢したいんだ」

「わ、私が相手では自慢にはならないと思いますが……」

「それ、本気で言ってる? 嘘でしょ。君は、すごく綺麗だよ」

「~~」


 突然の綺麗発言に、二の句が継げなくなる。

 アルは小さく笑うと「本当だよ」と呟いた。


「元々綺麗だったけど、最近の君は本当に見る度に綺麗になっていく。ね、あまり会えないことに僕が焦りを感じてるって分かってる?」

「そ、そんな……」

「僕の知らない間に君が誰かに取られたら大変だって、いっつも僕は心配しているんだけど?」


 アルの声音は真剣だった。だからこそ、嘘だと簡単に流せない。


 ――アルが? 私が誰かに取られると心配してる? 本当に?


「だからね。あまり僕を嫉妬させないで欲しいんだ。君が君の執事と仲良くしているのは良いことだって分かっているのに、君からの手紙を読む度に苛々する。さっきだってそうだ。君と執事が気の置けない会話をしているのが辛くてたまらない。ねえ、君は僕の婚約者なんだよ。分かってる?」

「わ、分かっています……」

「本当かなあ」


 疑わしげに言うアルの顔をまじまじと見つめる。

 彼が、こんなことを言ってくれるとは思わなかった。

 多分これは、婚約者に対するリップサービスだ。それは分かっていたけれど、嬉しくて嬉しくて、顔がにやけそうになるのが止まらない。


「お嬢様。お顔が」

「はっ……!」


 冷静な声でルークに指摘され、慌てて表情を引き締めた。

 にやけそうになると思っていたが、すでに緩みきっていたらしい。


「とてもではありませんが、公爵令嬢がなさる表情ではありませんでした。お気を付け下さい」

「あ、ありがとう。気をつけるわ」


 ぺしぺしと自分の頬を軽く叩きながら、気持ちを引き締めた。

 アルの前で妙な顔など見せたくない。危なかった。

 ホッとしていると、膝の上から文句が飛んでくる。


「だから、嫉妬するって言ってるんだけど」

「っ」


 いつの間にか目を開けていたアルが私を見上げていた。その目は私を諫めている。


「やっぱり分かってなかった」

「分かってますって……!」


 急いで頷いたが、アルは信じていないような顔で私を見つめている。


「で? 浮気者のリリは僕とデートしてくれるの?」

「へ?」

「だから、デート。さっき誘ったでしょう? 一緒に町を歩こうって。婚約者と町を散策するなら、デートで間違っていないよね?」

「デート、ですか」

「もしくは逢い引き?」

「逢い引き……」

「僕、答えを待っているんだけど」

「い、行きます、行きますっ。是非」


 了承しつつも頭の中は完全に混乱状態だった。

 アルと私がデート? 本当に?

 先ほどの嫉妬発言といい、アルは私をどうしたいのだろう。

 リップサービスとしても過剰だ。

 グルグルと悩んでいると、アルが身体を起こしながら言う。


「気負わないでよ。僕まで緊張しちゃうじゃないか。いつなら空いているかな。帰ってから日程調整をするから、また、手紙で連絡してもいい?」

「は、はいっ」

「楽しいデートにしようね。あ、そこの執事くんは、参加しなくていいから」


 起き上がったアルが、ルークに向かって、しっしと手を振る。ルークはお手本のような笑みを浮かべながらアルに言った。


「申し訳ございません、殿下。私はお嬢様の忠実な執事ですので。勿論、同行させていただきます」

「……君ばっかりリリと二人きりでずるいって言ったの、聞いていなかったのかな?」

「お聞きしましたが、これは私の職務ですので。殿下のご身分を考えても、本当の意味で二人きりは不可能だと思いますよ」


 ルークの言葉を聞いたアルは、首を振りながら溜息を吐いた。


「分かってるよ。でも、気分の問題っていうのはあると思うんだ」


 そうしてうーんと伸びをする。


「君のおかげで、少し回復したような気がする。あ、ヴィクターのことだけど、彼、多分君のことを気にしていると思うよ。君が孤児院に通っていることも知っているようだし、何をしているのか調べているみたいだ」

「そう……なんですか?」


 相変わらず兄に近づけないので、情報は有り難い。

 でも、兄は私を気に掛けてくれていたのか。それを聞いて嬉しくなった。


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