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これでどうだとルークに視線を送ると、彼は「はいはい」という顔をしていた。
どうやら彼の合格ラインには無事達したらしい。何よりだ。
「えと、それで……ルークのご主人様から見て、私はどうなのかな。友達失格?」
再びルークと目と目で会話していると、おそるおそるクロエが尋ねてきた。
「失格だなんて。元々、彼の付き合いに口を挟むつもりはなかったの。ただ、どんな子かなって思っただけで。でもそうね。まだあなたのことは何も分からないけれど、孤児院に毎日通っているような良い子を駄目だと判断したりはしないわ。これからもルークのこと、宜しくね」
ここはルークを推しておくところだと思った私は、しっかりと彼のことを頼んでおいた。
そしてチラリとルークにまた、視線を送る。
――ふふ、私の勇姿、見てくれた? ルーク。この私の完璧なサポート、あとでアルに知らせてくれても良いのよ!
クロエがこの場にいなければ、思いきり高笑いでもしたいところ……いや、あれは『悪役令嬢』っぽいらしいから止めておこう。確か、ウィルフレッド王子が言っていた。
危ない、危ない。
油断大敵。自分の言動にはよく気をつけておかないと。
ついうっかり、『悪役令嬢』っぽい行動を取ろうとしていた自分に気づき、震撼していると、クロエが言った。
「もちろん。でも……リリ、できれば私、あなたとも友達になりたいの」
「え? 私?」
予想外なことを言われ、目をぱちくりする。クロエは「ええ」と頷いた。
「もちろん、あなたが公爵家のお嬢様で、伯爵家の私では本来親しく話せる身分ではないことは分かってる。でも、せっかく偶然とは言え、知り合えたのだもの。良ければあなたも友達になって欲しいなって思う。……駄目、かな?」
「い、いい、けど……」
動揺しつつも頷いた。
吃驚した。友達になって、なんて初めて言われた。
私の返事を聞いたクロエが嬉しそうな顔をする。その顔が本当に嬉しそうで、見ているこちらまで幸せになるような顔だ。
――この子、本当に可愛いわ。
アルから聞いた『ヒロイン』という存在がもし本当にいるのなら、きっとクロエのような子のことを言うのだろう。
そう思ってしまうくらい、彼女は何と言うか、妙に可愛らしかった。
そして、もし彼女が『ヒロイン』で、アルの相手として現れるのなら、これは勝てないとも思ってしまった。
クロエの持つ柔らかな優しい雰囲気。少し会って話しただけでも分かる。これは私には持ち得ないものだ。癒やしや優しさといった、ふわりとした空気感。彼女といると、それをものすごく感じるのだ。
――良いな。私もクロエみたいだったら『悪役令嬢』なんて言われなかったのに。
とはいえ、これはどうしようもないことだ。
私はどこまでいっても私でしかないし、クロエを羨ましがっていても仕方ない。
一つ出会いを間違えていれば、きっと私はクロエを嫌っていただろう。積極的に排除しようとさえしたはずだ。
だけど、今の私はそうは思わない。
彼女が友達になろうと言ってくれるのなら、その手を取りたいと思った。
だって、初めての友達。
つい最近、友達がいないことに気づいた悲しい身としては、こちらからお願いしたいくらいだ。
「ルークの友達なら、私の友達でも構わないわ。その……私、今まで友達というものがいなかったから、何をどうすればいいのかよく知らないの。だからきっと迷惑を掛けるわ。でも、仲良くしてくれたら嬉しい」
「リリ、可愛い!」
友達の作法など、いたことがないので分からない。変な誤解だけはされたくなかった私は、正直にクロエが初めての友達であることを告げた。途端、クロエは目を輝かせ、私に抱きついてくる。
「えっ!? ひゃっ……!」
「私が、リリの初めての友達なの? わー、嬉しい! リリ、これから宜しくね! 仲良くしよう!」
「え、ええ」
キラキラ輝く瞳で見つめられ、私はカッと顔を赤くしつつも頷いた。
こんなにはっきりと同性に好意を示されたことは一度もなかったのだ。いつだって、私の周りにいる子たちは、一線引いた笑顔と言葉で私に接してきた。それを高貴な身分だから当然だと思ってきたけれど。
――違うんだわ。これが、本当に友人になるということ。
私に笑いかけてくれるクロエの笑顔は偽物ではない。私と友達になれて嬉しいとその表情は分かりやすく語っていた。
――悪くないわ。
ニコニコと笑うクロエに、不器用ながらも微笑み返す。
後ろでルークがちょっと呆れたように私を見ていたが、クロエのことで一杯一杯になっていた私は全く気づかなかった。




