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第二章 きょうだい


 ルークに謝ってからしばらく経った。

 あれからルークとの関係は少しだけ変わった。今までは、私が何を言っても「はい」しか言わなかったし言わせなかったのだが、色々と口出しするようになったのだ。

 朝に弱い私をだらしないと嘆いたり、無理やりリネンをはぎ取ったり。

 彼の変化に私の方も最初は戸惑ったが、直に慣れた。なんというか、こちらの方が楽だということに気づいたのだ。

 ルークの雰囲気は以前に比べ、随分と柔らかくなったし、私に対する態度は雑になったが、以前よりも親身に仕えてくれている気がする。

 前は朝の紅茶が気に入らないことも多かったのだが、最近はそれもなくなってきた。

 今朝も、「気分はミルクティーだなあ」と思っていたら、何も言わないうちからミルクティーを準備してくれていたし、以前よりも察してくれることが多くなった。

 そうなると、私だって怒る必要なんてなくなるわけで。

 ルークに当たり散らさないように、酷い言葉を吐かないようにと注意してはいるが、あれからそのような事態に直面することがなくなった。素晴らしいことだ。


「さすがはアル。彼の言うことに間違いはないわ」


 彼のおかげで、ルークとの関係が改善したと言って良い。私はアルに深く感謝をしていた。

 とはいえ、忙しいアルとはなかなか会えない。

 それを少し前の私なら不満に思ったかもしれないが、今の私は当然のことだと認識していた。

 だって、彼は第一王子なのだ。暇であるはずがない。

 そんな風に考えられたのも、ルークとの関係が改善し、心に少し余裕が出てきたからではないだろうか。

 だけど、できればルークとのことや他にも色々、早く彼に伝えたい。だって、アルのおかげで上手くいったのだ。報告くらいしても構わないだろう。

 そう考えた私は、ルークに相談をした。

 これも以前ならしなかったことだ。今の、心を許してくれているように見えるルークになら、気負うことなく色々聞くことができる。


「アルにお礼を言いたいの。でも、忙しいのに王宮に訪ねていくのは失礼よね。どうすればいいかしら」

「それなら、手紙をお書きになればいかがでしょう」


 ルークの助言に、なるほど、と納得した。確かに手紙なら、時間のある時にでも読んでくれるだろう。邪魔にはならない。


「そうね、そうするわ」


 通常なら、王子に直接手紙を書くなど失礼だという話になるが、今だけのこととはいえ、私は彼の正式な婚約者だ。文を送るくらいは許される。

 納得した私は早速手紙をしたため、王城に送った。後日、アルから返事が届いて、私はいそいそと開封したのだが――。


『まさか手紙をくれるとは思わなかったよ。ありがとう。

 執事の件、よく頑張ったね。本当は、直接君を褒めてあげたいんだけど、今は仕事が立て込んでいて、どうしても手が離せなくて。

 ごめん。一週間ほどで時間ができると思うから、その時にまた改めて話を聞かせてくれると嬉しいな。

 少し前に、君に会ったというのに、もう君が恋しくてたまらないよ。

 早く会えるように頑張るから。                       アル』


「……アルは、私を殺したいのかしら」

「は?」


 文を読んだあと、真面目に言った私を、隣でお茶を用意していたルークが眉を寄せながら見つめてくる。

 私は、最後の文面を彼に見せた。


「ほら! ここ! 『君が恋しくてたまらない』とか! アルは一体私をどうしたいのだと思う?」

「……そうですね。普通に考えるなら、なかなか会えない婚約者へのリップサービスだと思いますが」

「……そうね。その通りだわ」


 ルークの的確な指摘に、極限まで上がっていたテンションがスンと落ちた。

 確かに、ルークの言うとおりだ。これは私への愛の言葉などではなく、婚約者に対するフォローの言葉。変な期待をした私が馬鹿なのだ。


 ――だから、期待って何よ。


 アルに私は相応しくないと思っているくせに、そんなことを考えるなんて最低だ。

 そうは思うが、あんなに素敵な人にまるで口説いているかのような言葉を贈られれば、誰だって期待するだろう。少なくとも私はした。

 項垂れつつも、手紙をしまう。もうしばらくは、来られないと手紙には書いてあった。それは仕方のないことだし、彼を責める気もなかったが、それなら彼が来るまでの間、私はどうしていればいいだろう。

『悪役令嬢』にならない。

 この目標に向かって突き進むには、アルの助言が欠かせないのだ。


「むうううう……」

「お嬢様。変なうなり声はお止め下さい」


 考え込んでいるとルークが私の態度を咎めてきた。それに私は口を尖らせて返す。


「妙なうなり声って何よ。ただ、考え事をしていただけなのに、そんな風に言われるのは心外だわ」

「貴族令嬢は、『むううう』などといううなり声は出さないと思ったのですが、それは私の勘違いだったようですね。失礼致しました。今後はそのまま流すことに致します。もし、お嬢様がアラン殿下の前で同じことをしても、決して止めることは致しませんから」

「待って! それは本当に待って!」


 アルに妙なうなり声など聞かれたくない。

 結婚する気はなくとも、憧れている、素敵だなと思っている婚約者であることは確かなのだ。そんな相手に、『変人なのか……』などと思われたら、羞恥の極みだ。生きていけない。

 想像して、恐ろしさのあまり震えているとルークが言った。


「では、今の内から妙なくせが付かないよう努力しましょう」

「……ええ、そうね」


 最近、うちの執事がものすごく毒舌になってきたように思えるのだが、気のせいだろうか。

 だけど、彼の言うことは尤もだ。アルの前でしでかさないように、普段から気をつけることにしよう。


「お嬢様、そろそろ夕食のお時間ですが」

「あら、もうそんな時間?」


 溜息を吐いていると、時計を確認したルークが言った。時間が経つのは早い。アルからの手紙に夢中になり、知らないうちに時間が過ぎていたのだろう。


「食堂に行きます」

「はい、お供致します」


 ルークを連れ、外に出る。廊下を歩き、階段を降り、長いロングギャラリーを抜けたところにある扉の先が目的地だ。

 食堂に入ると、すでに家族が勢揃いしていた。






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