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◇◇◇


 婚約式は、二週間後の週末ということで正式に決まった。

 第一王子であるアルと私の婚約式が執り行われることが王家から正式に発表され、王都は祝福のムード一色だ。

 そんな中、私は一人カーライル伯爵邸を訪れていた。

 アルに止められはしたが、どうしてもクロエの意向を確認したかったからである。

 馬車を降りると、出迎えに来てくれたクロエは嬉しげに私を歓迎してくれた。彼女の部屋に案内され、人が居なくなったのを確認してから口を開く。


「ねえ、クロエ。最近、ウィルフレッド殿下とはどうなの?」


 いきなりの問いかけに、クロエは目を丸くした。


「どうしたの、いきなり。別に、普通だと思うけど。ウィルとは親しい友人づきあいをさせていただいているわ。話も合うし、一緒にいてすごく楽しいの。最初からこんな風に話せれば良かったのにと思うくらい」

「そう……」


 やっぱりクロエはウィルフレッド王子に外堀を少しずつ埋められていることに気づいていないようだった。

 一瞬、ウィルフレッド王子の思惑について語ってしまおうかと考える。

 だけど、同時にアルの言葉を思い出していた。

 今回ウィルフレッド王子は、別に卑怯な真似をしているわけではない。クロエに無理強いしているわけでもないし、ただ、好きな人をどうにか手に入れようと画策しているだけだ。

 その画策の仕方がどうなのだろうと思わなくもないが、それがローズブレイド王家の男とアルに言われてしまった私としては、否定もしにくい。

 応援はできなくとも、邪魔もできないというのが本当のところだった。


「? どうしたの? ウィルがどうかした?」

「……いいえ。ただ、ウィルフレッド殿下は本当にクロエのことが好きなんだなって改めて思っただけよ。この間も、あなたたちが城の庭で仲良く話しているところを見かけたから」


 邪魔はしないが、彼が未だ恋心を抱いていることくらいは伝えておいても良いだろう。私には、友人同士の親しい付き合いにしか見えなかったが、実の兄であるアルが言うのだ。そこは彼の見立ての方が正しいに違いない。

 精一杯の忠告のつもりでクロエに告げる。クロエはきょとんとした後、「見られていたのね」と納得したように笑った。


「なんだ。あの時、リリも城にいたのね。気にせず声を掛けてくれたら良かったのに」

「その……アルと会っていたから」

「アラン殿下と? なら仕方ないわね。恋人同士の邪魔はできないわ」


 頷くクロエだったが、私としても聞いておきたい。


「ね、ねえ、クロエ。あんなに無防備で大丈夫? その、クロエにその気がないのは知っているけど、ウィルフレッド殿下は違うんだからもう少し気をつけた方が……」


 私の心配をクロエは笑い飛ばした。


「何言ってるのよ。ないわ。だって、本当に親しい友人づきあいをしているだけだもの。もう向こうも私に対してそんな気持ちを抱いていないと思うわ」

「そ、それはどうかしら」

「リリ、あなたがアラン殿下と結婚するからって、なんでも恋愛と繋げない方が良いと思うわ。ウィルにも失礼よ」


 なんとか食い下がろうとしたが、逆に窘められてしまった。

 そこまで言われると、私の方も、それ以上は言いづらい。


「クロエが大丈夫だって言うのなら良いけど……その、クロエは無理強いなんてされてないわよね? あの日も庭にいたのはクロエの意志だった、で間違いではないのよね」

「そうよ」


 私の質問に、クロエは肯定した。


「やっぱり、恋人というわけではないんだし、オープンな場所の方がお互い気を遣わなくていいんじゃないかって思って。そう提案したら、ウィルが城の庭で散歩しながら話せば良いって言ってくれたの。他に人もたくさんいたし、安心して話せたわ。大丈夫よ、リリ。ウィルと友達になってから、一度も無理強いなんてされたことないから」

「そう。あなたの意志なのね」


 それならもう黙っておこう。

 クロエは笑顔だし、ウィルフレッド王子との付き合いも楽しんでいる。そんな状態でこれ以上文句を付けるのは、さすがに友達といえど、していいことではない。


「その……後悔だけはしないようにね」

「?」


 首を傾げるクロエ。その仕草はとても可愛らしかったが、私にはウィルフレッド王子に捕まる彼女の姿が見えるような気がした。


 ――クロエの気持ちも知っているし、ヴィクター兄様とくっつけばいいと思っていたのだけど。


 これでヴィクター兄様がクロエを気に掛けているのなら、兄様をせっつくところだが、兄様はユーゴ兄様の世話を焼くことで忙しい。下手をすればクロエの存在自体忘れている可能性だってある。

 ウィルフレッド王子のことを兄様に告げ口しても意味はないのだ。


 ――ま、クロエの気持ちがウィルフレッド殿下に向くのなら、それはそれで良いか。


 二人が両想いなら、それこそ私に口出しする権利はない。

 私はただ、クロエが傷つかなければ、彼女が幸せになってくれるのなら満足なのだ。

 感情の落とし所を見つけ、頷く。

 そうだ。クロエが将来の私の義理の妹になるのなら、それはそれで大歓迎ではないか。


 ――義理の姉になるのも悪くないとは思っていたけど、妹というのも良いわね。


 むしろその方が私的には楽しいかもしれない。

 そんな風に考えていると、クロエがポンと楽しそうに手を打った。


「そういえば、いよいよ婚約式が決まったのね! 昨日、公示を見たわ。おめでとう!」

「ありがとう」

「二週間後なんて、随分急だって思ったけど」

「アルにはあれでもゆっくりなんだって。そう言っていらっしゃったわ」

「え? 本当に?」


 驚愕の顔をするクロエに、真顔で頷いてみせる。クロエは信じられないと首を横に振った。


「すごいわね。でも、アラン殿下はリリのことがすごく好きみたいだから、これも殿下にとっては当たり前のことなのかもしれないわね」

「そ、そうかしら」

「きゃあ! リリ、赤くなってる。可愛い!」

「もう、からかわないでよ!」


 クロエがコロコロと笑う。


「式にはお父様しか行けないのが残念だけど、後で私にも祝わせてね」

「今、おめでとうの言葉をもらっただけで十分よ」

「そんなの駄目。あのね、実はウィルと二人を祝おうって話をしているの。だから、楽しみにしていて!」

「……本当に仲良くなったのね」


 まさかウィルフレッド王子と一緒に祝ってくれるとは思わなかった。唖然としていると、「ウィルがね、提案してくれたの」とクロエは嬉しそうに言った。


「何か贈り物がしたいって言ったら、『オレも兄上に贈り物がしたいと思っているから、一緒にしてはどうだろうか』って言ってくれて。アラン殿下のことも一緒にお祝いできるなら素敵だなって思ったんだけど、どうかしら」

「ありがとう。アルもきっと喜ぶと思う」


 同時に、「弟にダシに使われた」とも言いそうだけれど。

 ゲームがどうとか言うのを止めたウィルフレッド王子は、本当に以前までとは別人のようだ。

 そして、至る所でアルの弟なのだなと思うことが増えた。

 二人が双子だというのは、今なら少し分かる気がする。

 妙なところで納得しつつも立ち上がった。今日は帰ったら、ドレスの仮縫いがあるのだ。


「婚約式が終わって落ち着いたら、また一緒に孤児院へ行かない? 子供たちもあなたが来るのを待っているわ」


 帰り際、クロエからの誘いに私は「ええ」と頷いた。





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